育ったね『おとうさんっ子』
リューゴくん、もう2歳になったんだな。1人前にお兄ちゃんやお姉ちゃんと遊んだり踊ったり歌ったりしてるけど、足元にはちゃんと気をつけなきゃいけないぞ。まだバランスが悪いからヨロヨロしてるだろ。けつまずいたりして転んで泣いてるのを見る度に、お父さんは、もう心配で心配で堪らないんだからな。
だって、お前は、このお父さんが懸命に育てて来た゛お父さんっ子゛だろ。お母さんが忙しかったから、お父さんがお母さんの代わりもやってたんだ。リューゴくんが可愛いのも当然なんじゃないかな。
昔は、お父さんも商売でてんてこ舞いしてたから、お姉ちゃんは田舎のおばあちゃんが大きくしてくれたんだ。それで、お姉ちゃんは゛おばあちゃん子゛ってわけ。
でも、田舎のおばあちゃん、もう七十五歳にもなってて、足が不自由になっちゃったから、お兄ちゃんは、お母さんが育てたのさ。だから゛お母さんっ子゛リューゴくんにしたら、お兄ちゃんみたいにお母さんに大きくして貰いたかったかも知れないな。
だけど、そうできなかった色んな理由があったんだ。リューゴくんが、もーっと大きくなったら、きっと判ってくれると思うけど、
「お父さん、リューゴ任せるわ」
身体の調子を崩して家にいるお父さんに、外へ働きに出るお母さんが、そう言った時、本当言って、お父さん、どうしていいか判らなかった。今まで赤ちゃんの世話なんか、自慢じゃないけど一度だってやった事がないんだからな。
別に無精でやらなかったんじゃない。大体の男は外で働いて、家のことや子育てはお母さんの役目と決め込んでいたから、お父さんも例外なく、
「男は仕事をやってりゃいいんだ!」
なんて、家ではゴロゴロしてたのさ。今から考えると馬鹿げた思い込みしてたんだ。
「リューゴのこと、任していいの?」
何回も念推すお母さんに、お父さんは遂に頷いてしまった。ちっとも自信なかったけど、役割分担から言っても、そうせざるを得なかったから、お父さんは覚悟を決めた。
その時、リューゴくんは生後五か月を迎えたところ。まだ母乳を貰ってたんだからな。
いま元気にはしゃぎ回っているお前を見てると、あの時、リューゴくんを育てるはめになったのは、お父さんにとっては、とっても幸福だったと思う。本当の親の体験ができたんだからな。お母さんの立場でしか味わえないはずの感激も、ちゃんと味わったんだぞ。
お母さんの仕事始めの日、リューゴくんとたった二人きりにされた心細さは、今でもハッキリと覚えている。お前はスヤスヤと眠っていたけれど、お父さんは、お前が目を覚ました時、どうしよう!?なんて焦りっ放しだった。
「ここにメモってある時間に合わせて、おしめの交換と授乳、お願いします。おしめの取り換えの時、ウンチの色を見といてください。泣き出したら抱っこしてやってね。ただし、お腹がすいて泣いてる時もあるから、その時は湯ざましを……!?」
お母さんからの、リューゴくんに関する伝達事項は覚えきれない程あった。まあメモってあったから忘れる心配はなかったけど、実際やるのは初めての事ばかりだから大変だった。粉ミルクを湯で溶き、人肌に冷ますんだけど、
(もし熱かったらヤケドさすかもなあ……)
なんて不安は序の口で、おしめだって最初にあてたやつなんか、見るのも惨めなほどブワブワさ。
しかし、抱っこだけは、お父さん上手だったぞ。あれは愛情さえあれば、誰でもうまくやれるんだろうな。それが体験した上での結論だ。たぶん間違いないと思ってる。
(平成3年5月掲載文・続く)
リューゴくん、もう2歳になったんだな。1人前にお兄ちゃんやお姉ちゃんと遊んだり踊ったり歌ったりしてるけど、足元にはちゃんと気をつけなきゃいけないぞ。まだバランスが悪いからヨロヨロしてるだろ。けつまずいたりして転んで泣いてるのを見る度に、お父さんは、もう心配で心配で堪らないんだからな。
だって、お前は、このお父さんが懸命に育てて来た゛お父さんっ子゛だろ。お母さんが忙しかったから、お父さんがお母さんの代わりもやってたんだ。リューゴくんが可愛いのも当然なんじゃないかな。
昔は、お父さんも商売でてんてこ舞いしてたから、お姉ちゃんは田舎のおばあちゃんが大きくしてくれたんだ。それで、お姉ちゃんは゛おばあちゃん子゛ってわけ。
でも、田舎のおばあちゃん、もう七十五歳にもなってて、足が不自由になっちゃったから、お兄ちゃんは、お母さんが育てたのさ。だから゛お母さんっ子゛リューゴくんにしたら、お兄ちゃんみたいにお母さんに大きくして貰いたかったかも知れないな。
だけど、そうできなかった色んな理由があったんだ。リューゴくんが、もーっと大きくなったら、きっと判ってくれると思うけど、
「お父さん、リューゴ任せるわ」
身体の調子を崩して家にいるお父さんに、外へ働きに出るお母さんが、そう言った時、本当言って、お父さん、どうしていいか判らなかった。今まで赤ちゃんの世話なんか、自慢じゃないけど一度だってやった事がないんだからな。
別に無精でやらなかったんじゃない。大体の男は外で働いて、家のことや子育てはお母さんの役目と決め込んでいたから、お父さんも例外なく、
「男は仕事をやってりゃいいんだ!」
なんて、家ではゴロゴロしてたのさ。今から考えると馬鹿げた思い込みしてたんだ。
「リューゴのこと、任していいの?」
何回も念推すお母さんに、お父さんは遂に頷いてしまった。ちっとも自信なかったけど、役割分担から言っても、そうせざるを得なかったから、お父さんは覚悟を決めた。
その時、リューゴくんは生後五か月を迎えたところ。まだ母乳を貰ってたんだからな。
いま元気にはしゃぎ回っているお前を見てると、あの時、リューゴくんを育てるはめになったのは、お父さんにとっては、とっても幸福だったと思う。本当の親の体験ができたんだからな。お母さんの立場でしか味わえないはずの感激も、ちゃんと味わったんだぞ。
お母さんの仕事始めの日、リューゴくんとたった二人きりにされた心細さは、今でもハッキリと覚えている。お前はスヤスヤと眠っていたけれど、お父さんは、お前が目を覚ました時、どうしよう!?なんて焦りっ放しだった。
「ここにメモってある時間に合わせて、おしめの交換と授乳、お願いします。おしめの取り換えの時、ウンチの色を見といてください。泣き出したら抱っこしてやってね。ただし、お腹がすいて泣いてる時もあるから、その時は湯ざましを……!?」
お母さんからの、リューゴくんに関する伝達事項は覚えきれない程あった。まあメモってあったから忘れる心配はなかったけど、実際やるのは初めての事ばかりだから大変だった。粉ミルクを湯で溶き、人肌に冷ますんだけど、
(もし熱かったらヤケドさすかもなあ……)
なんて不安は序の口で、おしめだって最初にあてたやつなんか、見るのも惨めなほどブワブワさ。
しかし、抱っこだけは、お父さん上手だったぞ。あれは愛情さえあれば、誰でもうまくやれるんだろうな。それが体験した上での結論だ。たぶん間違いないと思ってる。
(平成3年5月掲載文・続く)