こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

育ったね『おとうさんっ子』その2(完結)

2015年01月17日 00時05分09秒 | 文芸
「か~ら~す~なぜ~なくの~♪」
 泣き止まぬリューゴくんをソーッと泣き、小さな身体をリズムよく揺らしながら、お父さんが歌ってやった歌、忘れちゃいないよな。お父さん、あの歌しか自信なかったから、いつでもあればっかり。でも、あの歌こそ親子の愛情を歌っててピッタリだったんだ。
「この子、音痴になるわよ。情操教育が、あなたのリズムはずれの歌だもん」
 お母さん、しょっちゅうからかっていたけど、お父さんの美声、満更じゃなかったろう。
 でも、リューゴくんを抱っこしていて、ハッとした。お前の柔らかく温かい小さな身体が衣服を通して、お父さんの身体とひとつになるような気がした。お前の天使のような顔を見詰めていると、今にもすい込まれてしまいそうな気がした。それは物凄く幸福な気分だった。お父さん、もう感激してしまっていた。
 たぶん、あんな感激の連続が親子の絆を生み出していくのだろう。お姉ちゃんやお兄ちゃんの子育てに一切参加しなかったお父さんは、これから相当努力しないと、お姉ちゃんやお兄ちゃんとの親子の絆、でき上がらないかも知れないと不安になったものだ。
 リューゴくんを育てて来たお父さんにとって一番の感動だったの、なんだか知ってるかい?お前が立った時なんだ。
 その瞬間を見逃してしまったお父さんだけど、
「この子、いつ立って歩くかな?」
「時期が来たら、ちゃんと立つわ」
 と、お母さんと話し合った翌日、さっきまでハイハイしかしていなかったお前は、ふっと振り返ったお父さんの目の前で立ち上がっていた。そりゃ不安定でヨロヨロして、ほんの瞬間しか立っていなかったけれど、
「ワアーッ!リューゴ、やったぞ!」
 お父さんは思わず大声を出していた。
「おい、リューゴが立ったぞ。本当に立ち上がったんだぞ!」
 仕事から帰ったお母さんに、興奮気味に報告するお父さんだった。本当に、あんな嬉しい気持ちになったのは、いまだかってなかったと思う。
 それからも次々と、リューゴくんは、お父さんを感激ばっかりさせてくれたものだ。
 赤ちゃんを育てるのが、あんなに素晴らしいものだと判っていたら、お父さんは、お姉ちゃんやお兄ちゃんの時にも、子育てをほかの誰にも任せたくなかっただろうな。
 お姉ちゃんやお兄ちゃんが赤ちゃんの時は、夜遅く帰って来るお父さんの顔を見て、いつも泣きだされていたっけ。きっと、あの頃のお父さんは、ヨソの人でしかなかったんだ。お母さんに言ったことはなかったけれど、いつだってガックリ来ていたものさ。
 それなのに、リューゴくんは、なんとお父さんにベターッとくっついていないと寝なくなって、お母さんを嘆かせていた。やっぱり、生みの親より育ての親ってのは、本当なんだと実感して、目が潤んだほどだった。
「悔しいな、母性愛が父性愛に乗っ取られるとは……!?」
 あの時のお母さんの言葉は、とても印象的だった。
 リューゴくんは、無味乾燥的な世の中に疲れ切っていたお父さんに、改めて人間の素晴らしさ、生命の素晴らしさを思いださせてくれた大恩人なんだ。感激や感動なんて、学生時代以来だから、リューゴくんの存在は、お父さんにとっては最高のものだ。
 でも、これからが本当のリューゴくんとお父さんの親子の絆作りなんだ。お前だって、そう思うようになるんじゃないかな。
 二歳になったリューゴくんは、いろんな言葉が喋れるようになってるし、喜怒哀楽もハッキリ表現できるようになって来てる。すごいよな。まったくのゼロから出発して、こんな成長を見せているんだから。
 それでも、もっと限りない可能性を残しているのは間違いない。それを見つけていくのに、お父さんは全面的に手助けをしてやるぞ。お父さんを目標にぶつかって来たらいい!
 へへへへ、ちょっと大口を叩き過ぎたかな。
 この二年間だって、どちらかと言えば、お父さんの方が、リューゴくんのおかげで、大変な成長をさせて貰ってるようなもんだ。
「これからもよろしくお願いします」
 というべきかも知れないな、お父さんは。
「子育て、ご苦労さん。これからは楽になるわよ。お姉ちゃん、お兄ちゃんがいるから、見よう見まねで成長するわね」
 わが子どもたち三人が、バタバタと走り回っている姿を見ながら、お母さんは感慨深げに言ってるけれど、お父さんは、まだ余り楽なんかしたくないんだ。
 リューゴくんの成長に関わり続けて、お父さんが与えるものがあったり、あるいはリューゴくんに与えて貰ったりで、一緒に成長して行くつもりでいるからな。
 だって、リューゴくんは、わが家でたったひとりしかいない゛おとうさんっ子゛なんだ。お姉ちゃんやお兄ちゃんに恨まれるかも判らないけれど、お父さんにとっては一番可愛いんだぞ。あっ!こんなこと言ってると、親失格かな。
 そうだ。リューゴくん、お前が三歳になったら、お父さんが山へ連れていってやる。お父さんが一番大好きな、故郷の裏山のてっぺんまで登るんだ。そして、お父さんを育ててくれた自然を見せてやるんだ。
 だから、゛おとうさんっ子゛らしく、男らしくて優しい、金太郎さんみたいな元気者に育ってくれよ。お父さん、それが楽しみなんだ。
(完結・私の赤ちゃん平成三年五月掲載文)

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