こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ヒーローだい

2015年12月21日 00時17分32秒 | 文芸
若い頃、

車を運転時、

指なし革製手袋をはいた。

テレビドラマでスターがつけているのに(かっこいいー!)と,

一目ぼれしたのだ。

 わざわざスポーツショップに出向いて見つけたドライビング用のレザー手袋。

ひと目で気に入った。

そうなると買うしかない。

しかし値段を見て固まった。

手袋でその値段は、

田舎に住む若者には信じられないモノだった。

仕方なく店を出たが、

欲しくて堪らない。

 当時給料は全部母に渡していた。

貰う小遣いで自分の買い物は本か文房具だけ。

それがレザー手袋に魅入られた。

諦めきれず母に話すと、

「あなたが仕事で頂いたお給料なんだから、好きに使いなさい」アッサリと余分の小遣いをくれた。

すぐにあの店へ飛んで行った。

 ついに手に入れた手袋。

はくと実にかっこよかった。

何度もはいては脱ぎを繰り返した。

ハンドルを握るとヒーローになれた。

 今は素手で運転する。

そういえば手袋をはく機会は,

いつの間にかほとんどなくなった。
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ガチャガチャ

2015年12月20日 00時50分48秒 | 文芸
十月吉日、

ついに断車離を決行だ。

運転席に座らない日がない生活で、

まさかその日を迎えるとは驚きでもある。

十二月で満六十七歳、

いいタイミングだったのかも知れない。

 クルマがなければ、

外出は自転車頼りとなる。

とは言え、

自転車に乗らなくなって数十年。

再挑戦は戦々恐々状態で何ともサマにならない。

しかし田舎住まいの身には足の確保は絶対だ。

何度も足をつきながらガチャガチャとペダルを踏み続けた。

 あれから三ケ月、

今は自転車でスイスイ(?)所用や買い物に走る。

少し遠出すると、

翌日に足の傷みがやってくる。

年相応の愛嬌だ。

 慣れて来れば自転車はクルマにない魅力がいっぱいだと気付く。

普段見逃してしまう身近にある穴場(?)はすべてゲットできる。

花や木に満たされた庭や空き地に癒される。

農道の片隅にあるお地蔵さんが可愛い。

子どもの心に戻って味わう幸せ感は

意外だった。
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父親とは

2015年12月19日 00時23分55秒 | 文芸

遠方にいてもう二年以上顔を見せない息子二人。

妻にメールで近況報告はあるらしく、

元気で仕事に頑張っていると聞かされる。

安心はするが、

息子の顔は見られず寂しい。

 残る娘二人は身近にいてくれる。

やはり近くにわが子がいる幸せは親の本懐だ。

その娘らが成長するのを間近で見守れるのは最高だ。

 末娘はこの春大学生に。

その晴れやかな笑顔と姿に胸が熱くなった。

親子での祝勝会は最高に盛り上がった。

そこに息子らの顔もあればと思うのは欲張り過ぎだろうか。

 続いて長女が、

なんと結婚した。

介護施設で働く娘に幸福の絶頂が訪れた。

それは父親にとっても同じ。

結婚式で花嫁の父を演じ、

幸せに包まれ感涙を誤魔化すのに懸命だった。

 さらに嬉しい娘の報告が。

新しい命をを授かったのだ。

予定日は新しい年の初めだ。

 この一年、

わが家は娘らのおかげで、

夫婦揃って笑顔が絶えなかった。

来年に息子らも……と夢みて、

充実の一年を締めくくりたい。
.


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サンキュー

2015年12月18日 01時05分48秒 | 文芸
名古屋で働いている息子から連絡があった。

おせちを買ってほしいのだ。

息子は居酒屋の店長。

暮れも押し迫ると、

おせちのノルマは恒例だ。

かくいう私も弁当製造工場に勤めていた。

やはり、

おせちはノルマだった。

「いくつあるんや?」

「あと二個や」

「ほなら、みな送って来い」

「サンキュー」

 とにかく、

これで正月のおせち料理は心配しなくて済む。

一応自分で作るつもりだったが、

気分がいっぺんに楽になった。

ただ、

既に買っておいた冷凍黒豆の出番がなくなる。

 大晦日は黒豆をアテに一杯やるか。

ゆっくりとコタツに入り、

テレビを見て年を越すことにしよう。

……おっと、忘れていた。

年越しそばを。

毎年暮れに私が作るのを家族は楽しみにしている。

家族に課せられたノルマは、

ちゃんとこなさなければ、

年が越せないぞ。

 
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ウルウル

2015年12月17日 01時29分57秒 | 文芸
子どもが四人。

男二人、

女二人だ。

末っ子は大学生だが、

上の三人は社会人。

恵まれた子宝に幸せ気分でいたのは、

ほんのつかの間。

適齢期を迎えた子らに、

気苦労が絶えない。

若者が結婚を躊躇しあきらめるきつい時代である。

わが子もご多聞に漏れず、

息子二人など結婚のケの字も口にしない。

もう孫の顔など見られないと一度はあきらめた。

そんな時である。この春、長女が結婚した。

見ることはないだろうと思っていた愛娘の花嫁衣裳に、

もうひと前もはばからずウルウル。

そして、

「赤ちゃんが出来たよ」と娘が嬉しい報告。

またウルウルしてしまった。

やっと親しか味わえない幸福を人並みに得られたのだ。

涙もろい私が、

思う存分歓喜の涙を流せた。

幸多き一年となった。

この幸せを新しい年に是非つなぎたいものだ。


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終わった!

2015年12月16日 00時42分03秒 | 文芸
思いもかけない老人会地区役員の順番が回って来た。

任期は一年。

 会費の徴収から始まり、

花壇の世話、

神社の清掃、

慰安会、

機関紙の記事作成……そしてウォーキングに旅行と,

大変な一年になった。

 人と接するのは大の苦手。

隣保長の時も苦労したが、当時は若かった。

それがこの歳で戸別訪問し用件を伝えなければならない。

大半が年長者、

それに女性が多い。

考えたら頭が痛い。

でも逃げられやしない。

頑張った。

 さっき最期のお役目を終えた。

あとは次の人に引き継ぐだけだ。

ホーッとするとともに、

大変な一年を振り返った。

すると、

意外にも楽しい思い出が多いのに気づいた。

 考え方が異なる隣人たちとの交流は、

頑なな生き方の私に、

「ひとりじゃ人間生きられないんだ」と

改めて教えてくれたのだ。




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ポイ!

2015年12月15日 00時36分56秒 | 文芸
弁当惣菜製造工場に勤めていると、

仕事中はビニール製で薄い使い捨ての手袋が必須だ。

 仕事を始めた当初は、

どんなに薄手の手袋でも使い捨てするのが勿体なくて堪らなかった。

手を洗いアルコール殺菌を念入りにした上に手袋をはくのだから、

(使い捨てしなくてもいいよな)と貧乏性的発想がフツフツ。

 ところが、

手指のふき取り検査を受けてビックリ!

石鹸で手洗い、アルコールで殺菌したはずが、

大腸菌群の実数が予想だにしない凄さ!

今までの固定観念が引っ繰り返った。

 以来こまめに手袋を取り替える。

しかも手袋のうえからアルコール殺菌したり、

まるで潔癖症だ。

生もののお刺身をひけば、

ゴミ箱がビニールの手袋でいっぱい!

使い捨ての勿体ないは死語と化した。

使い捨ては常識に。

 定年後も、

手袋の使い捨てのクセがしょっちゅう出る。

軍手はもとより、

少し値段の張る手袋も外出から戻るとポイ!

気付くと

血相変えて探し回ったりするのが我ながら滑稽だ。
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その差

2015年12月14日 00時19分58秒 | 文芸
当時、商工会議所でレストランのコックだった。
クリスマスは、ロータリー、ライオンズ、JCの家族がこぞってパーティを催す。
一週間ぐらい連続パーティだ。
連夜泊まり込み、料理を用意するのがクリスマスの恒例。
 ウェイタ―主任に誘われた時、クリスマスイヴ直前でロータリークラブ家族の大パーティーにてんてこ舞いした後だった。
「クリスマスを教会で迎える。行かないか?」
 クリスチャンの主任と一緒に訪れたのはカトリック教会。
主任を真似て入り口で聖水をおでこ、胸……と。
聖堂に入って驚いた。
華やかな装飾は皆無。席に着く人たちは静かに頭を垂れて祈っている。
その厳粛なムードに、いつしか同化していく自分を知った。
 クリスマス特別ミサで心を浄化されて、翌日仕事に戻った。
JC会員、家族の賑やかで楽しさいっぱいのクリスマスパーティーをサポートしながら、
(これが日本人のクリスマスなんだ)と、
少しシラケたのを思い出す。

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記念日を

2015年12月13日 01時00分37秒 | Weblog
今日は娘が通う大学で総合子ども教育科の子供フカーニバルとかで、神戸まで出かけた。

学生による音楽劇『キャシーの大冒険』。

わかりやすいストーリーに観劇する子供たちの反応はすこぶるいい。

惜しむらくは、ちょっとセリフがわかりにくい。

マイクの活用とかを考えればいいかな。

滑舌や声を鍛えろといっても、興味がなければ、今の若者はたぶん打ち込みはしないだろうな。

かくいう私、19歳から50代半ばまでアマチュア演劇に没頭してきた。

舞台下で見ている人と同じでは、決して感動してもらえない。

見ている人たちが、「あんなことできないよ」と言わしむる存在になったら、もうアマチュアもプロも演技の差はなくなるというのが持論。

だから、走り肉体訓練を繰り返し、叫び泣き笑いを繰り返した。

昨今は性能のいいマイクがあって肉声勝負をしなくてもよくなったが、当時は舞台上の表現とセリフを、1000人キャパの観客席の後方まで届かせなければならなかったっけ。大変だったよ。



でも手作り感いっぱいの舞台を久しぶりに拝見して幸せだったな。

わが娘も端っこに出演してたぞ。

恥ずかしがり屋だから、見ている親のこっちが恥ずかしくなったぞ。

親バカ気分に浸りながらの帰り道。

駅前にあったタイ焼き屋さん、なんか気になった。

立ち寄ると、天然たいやきの商標が目に飛び込んだ。

これはもう買うしかない。

同行の妻と一匹づつ、鳴門金時あんを買い求めた。

一匹180円。

駅の一角で夫婦そろっての立ち食い。やったね。

うまい!一味違うタイ焼きだ!



この日の夕食はちょっと贅沢に。

なんといっても12月は結婚記念日と、吾輩の誕生日記念なのだから。

加古川のベーカリーレストラン・サンマルク加古川店。

これまた満足するお食事でした。

しかもピアノの生演奏にリクエスト。

最高の記念日を夫婦2人で味わったのです。






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ノベル・閉鎖工場・その3

2015年12月12日 00時13分27秒 | 文芸
「井関はんらが頑張ってた頃が懐かしいのう」

 工場長は天を仰いだ。無念の思いがあった。

 あの夜と同じだった。このベンチで、工場長は俊彦に嘱託社員で残れと慰留したのだ。

「無理はいえんけど、ええ人材に、はいサヨナラはないからのう」

「すんまへん、工場長」

「気持ちは変わらんか。しゃーないのう。そいで何をやるつもりや」

「これまでと全く違う仕事してみとうて」

「そうか。羨ましいなあ、君が」

「え?」

「いや、なんでもない。ただの愚痴や」

 口ごもる工場長に、なんとなく同情を覚えた。中学を卒業してから四十数年、他の世界を知らないまま、食品製造現場べったりで生きて来たのだ。途中何度も他の世界に憧れを持ったとしても不思議ではない。工場長も人の子なのだから。その夢を諦めさせたしがらみが工場長を雁字搦めにしたのは確かだ。

「ほなら新しい仕事、頑張りや。あかんようになったら、またうちへ戻って来たらええがな。敷居低うしとくさかいに」

「ありがとうございます。工場長も踏ん張ってください」

「ああ。そのつもりや。わし、他に何もでけへんさかいのう……」 

 ポツリと呟いた工場長の体がやけに小さく縮んで見えた。

 結局工場長は陣幕と運命を共にしたのだ。きっと悔いはないだろう。

「井関はん。工場覗いてみるか?」

「え?ええんですか」

「構わへん。夜なか中懸命に働いてくれた仲間や。工場かてちゃんと歓迎してくれよるわ」

 工場長の表情が少し元気を取り戻していた。

 虚無に満ちた工場内は寒々としている。俊彦が担当した調理場はステンレスの冷蔵庫と調理台が取り残されて無意味に鎮座している。

 だだっ広い盛り付け場は、何台も並ぶ長尺のベルトコンベアーが抛り出されたままだ。白衣姿の女性たちが競い合って弁当を盛りつけている光景は忘れられない。

二階へ上がった。百人がいちどきに利用できる食堂を兼ねた休憩エリアである。まだテーブルは撤去されていない。深夜の休憩時間を、従業員がてんでに過ごした席だった。

飛び交う言葉は国際色豊かだった。出稼ぎの日系ブラジル人に、中国人研修生が主で、ベトナム人やフィリピン人の顔もあった。それぞれがグループで群れていた。そこでは大人しい日本人が肩身の狭い状況に置かれた。

大きいテレビモニターでビデオや深夜番組に夢中になっているものがいる。椅子を並べてたのをベッドがわりに仮眠するものがいる。

惣菜や弁当の残ったものを自由に食べられた。脂っこいものばかりで、健康を考えて俊彦は家から弁当を持参していた。

第三者には、ここが喧騒にまみれた場であったとは、まず想像も出来ないだろう。



「ほなら、元気でやれや」

 工場長はおどけて敬礼した。お互いに、もう会う機会はないと判っている。俊彦も敬礼を真似て返し、愛想よく笑った。

 駐車場はやはり人っ子一人いなかった。

「ざまあみろや!ええ気味やで」

 幅は甲高い声を吐き出した。興奮しているらしい。追い出された職場の凋落は、彼が持ち続けただろう憎悪を和らげるに充分だった。

「ほやけどな、幅はん。わしらここでええ目、ようけさして貰うたやないか」

「うん……そら、そうやけどなあ……?」

 俊彦は、駐車場にぎっしり並んだ車を思い浮かべた。あの頃は充実しきった自分がいた。

 さーっと、冷たい風が頬を撫でて流れた。

                                  (終わり)
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