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同僚は入社して今所属しているところに配属されてから2年半。でも難聴者が勤続30年いても身につけられない知識と人間関係を短期間でそれ以上に作って異動する。
最後の挨拶もその人間関係の濃淡が出る。日頃からコミュニケーションしているつもりでも言葉にならないコミュニケーションだけでは人間関係が深くなりにくいことが最後にもろに出る。
それではどうするか。持っている力をフルに使うしかない。
送別会では話しやすそうな人に近くに座ってもらうように「仕掛ける」。人工内耳はビームとアドロの騒音カットモードにし、座が盛り上がるにつれ、補聴器のボリュウムとチャンネルを慎重に選択する。人工内耳がけっこう効果があって、酒や自宅、出身地などを話題に会話ができた。補聴器だけでは出来ないだろう。
座がばらけてくると人工内耳といえども限界だ。筆談ボードを取り出して、似顔絵を描いて筆談ボードがコミュニケーションを取り持つようにする。
一人ずつ、描いては示す。女性の絵は要注意だ。300%くらい可愛く、きれいに描かないとすぐぷーっとする。男は逆にかなり不細工に描く。
手足に障害を持つ同僚も筆談ボードに描いてくれる。派遣社員の女性も描いてくれた。描いた絵と本人の顔を並べてデジカメに撮る女性もいた。
もう、同僚を送る時間だ。はなむけに電線音頭を踊って、後にした。
言葉は交わさなかったが精一杯した。
帰ろう。
ラビット 記