楽しんでこそ人生!ー「たった一度の人生 ほんとうに生かさなかったら人間生まれてきた甲斐がないじゃないか」山本有三

     ・日ごろ考えること
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     ・おくのほそ道を歩く

出産当日 (生きる 10)

2004年06月01日 13時17分00秒 | つれづれなるままに考えること
「人は生まれると父母を得、兄弟姉妹を得る。
長ずるに及び友を得、妻または夫を得る。
子を育み、やがて父母を失い、友を失う。
兄弟姉妹を失い、妻または夫を失いて、そして終わる」


(出産当日)
前の晩、赤ちゃんがお腹を蹴ったというので、
どんな具合かお腹に手を当てると、確かに一部分が
急に膨らむ。お腹の中で子供が暴れているのだ。
お腹がどのように変形するのか、見せてもらったら、
一部が盛り上がるのが良く判る。

その時のお腹の格好ほど奇妙な姿をした物は無い。
お腹の表面は引きつれて、静脈が浮き出て、
静脈がお腹を往復している。蚯蚓腫れになったようである。

おへそは一つ目のお化けが目を剥いて睨んでいるように見える。
それでもお腹をそっと撫でてやり、良い子が生まれますようにと、
祈るのは親だからだ。

翌朝、起きるとカミさんが「これ!」とシーツを指差す。
見ると赤く汚れている。出血したのだ。
(まさか、今日?出産?)
すぐ産院へ電話する。

「たぶん破水したのでしょう。すぐに病院へつれてきてください」
布団もそのまま、朝ごはんもとらず、身だしなみだけ整えて、
カミさんのお母さんに連絡だけして、病院へ出かけた。
病院では、出産の用意をして待っていた。
どう考えても亭主は何の役に立ちそうも無いので、
病院にカミさんを預けて、出勤した。7月31日のこと。

営業担当のボクは仕事に出かけていて、夕方19:30ころ
帰社すると、部下が
「おめでとうございます」という。
「え?」
「先ほどお宅から電話がありまして、男のお子さんが
生まれたそうです」
「あ、そう」と答えた。あまり実感が湧かない。

それでも、仕事を急ぎ整理して、病院へ駆けつけた。
ちょうどカミさんが分娩室から出てきたところ。
「お母さんは、静かだったが、赤ちゃんは大声で泣いて
うるさかったですよ」と医師の話。
「有難うございました」とボク。
カミさんに
「よく頑張ったな!」と声をかけた。
カミさんの目が少し潤んでいた。

赤ん坊を覗きに行くと、新生児室のガラスの向こうで、
赤い顔を皺だらけにして泣いていた。
人様は赤ん坊を見ると可愛い、可愛いというが、
どう見ても生まれたての赤ん坊は可愛いとはいえない。

第一印象はずいぶん色黒の、鼻の高い、耳の大きな、
顔立ちがカミさんに似たのか、やけに端正、というものだった。
耳は頭に直角に出ていて、頭の割りに大きな耳だ。
一週間後の退院で、子供が家に帰ってきた。
やっぱり色浅黒く、鼻が高い、やっぱり耳は大きい。

中国の歴史小説、「三国志」に出てくる英雄、
劉備玄徳は耳が異様に大きかったと記されているが、
こんな英雄に似ているなら、と勝手に満足した。
色が黒いのは、ボクに似たのだからしょうがない。

眠っている子供の枕元で新聞を広げたら、
子供がビクッとして目を覚まし、泣き出した。
耳が大きいということは、音を良く拾うものだと
改めて感心した。

四年後に女の子が生まれたが、この時も出産時に、
ボクは仕事で病院には居なかった。
居ても何の役にも立たないことを知っていたからである。

出産後、
「この子のお父さんは何処にいらっしゃるのですか?」と
看護婦さんに聞かれてカミさんが困ったらしい。
「出産時に御主人がいらっしゃらないのも珍しい」と
看護婦さんに言われたと、後になってカミさんに聞かされた。

このとき生まれた娘が、後に出産する時、亭主も一緒に待合室に
居たが、分娩室から看護婦さんがやってきて、
「御主人が出産の立会いをされるならどうぞ」と呼びに来た。
そして亭主は堂々と分娩室へ入って言ったのには驚いた。

そう言えば、娘が分娩室に入る前に、
(主人が出産の立会いをするの)と言って困ったような
情けないような顔をしていたのが思い出される。

出産に立ち会うと、男も生みの苦しみを、
本当に共有できるのか?
妻は産む苦しみを緩和できるのだろうか?
聞いてみたいと思ったが、カミさんに袖を引っ張られて、
とめられてしまった。

そういえば、すぐ上の姉が亡くなったとき、
同じように、カミさんに袖を引かれたことがある。

亭主である義兄に、お通夜の席で、
「連れ合いをなくすというのはどんな気持ちですか?」
と聞いて、後でカミさんに叱られた。

ボクとしては、人生の大切な場面で、夫はこの際、
何を考え、どんな気持ちなのか知りたかっただけである。
これで、二人目の女房が持てるぞ、とほくそえんだのか、
女房を失い、悲しいならどのように悲しいのか、
明日にも、同じように天国へ行きたいと思っているほどなのか?
知りたかった。

それに、最愛の妻を失ったはずの義兄の態度を
(お愛想を振りまきながら弔問客を接待する態度を)
ボクとしては、許すことが出来なかったのかもしれない。

義兄は何も答えなかったので、その場に居合わせた
弔問客の座がしらけてしまった。

話を戻そう。
二度に渡るカミさんの出産に、ボクは一度も
一緒にいたことが無かった。
このため、後々までも恨まれる結果となった。

世の男性諸君!!
出産を待って何時間病院にいても、
何の役にも立たないのは男性に共通しているが、
やっぱり、産院には居ないといけないらしいので、
出産が完了するまでは、必ず病院にいるよう心がけて欲しい。





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