飛鳥国営公園の石舞台古墳の前にある休憩所の横に、小さな万葉歌碑が建てられている。少し奥にあるためか、意外とこの歌碑に目を止める人は少ないようで、僕も十数回はこの場所に来ているが、この歌碑の存在には、今回初めて気づいた。
歌碑の周りにかなり雑草が生い茂っていて、なかなか気づきようなないと言えばそれまでなのだが。
なかなか読みにくい状態ではあるが、歌碑には、「御食向かふ 南淵山の 巌には 降りしはだれか 消え残りたる」と柿本人麻呂歌集として収録された歌が記されている。
「御食向かう」は、南淵山にかかる枕詞、「はだれ」ははだれ雪の略で、まだらに降り積もっている雪のことである。
南淵山の大岩には、まだらに降った薄雪が消え残っているという訳になるのだろうか?それとなく、近づいてくる春を思わせるような歌である。
南淵山は、この石舞台古墳のある辺りよりは少し南へ行ったところである。現在、稲渕と呼ばれて棚田が非常に美しいところも含まれている。
稲渕の棚田の奥には、南淵という地名も残っていて、飛鳥時代の人物で、蘇我入鹿や中大兄皇子たちの師である南淵請安の墓と伝わる場所もある。
この辺は、飛鳥でもかなり奥の方にあたり、(近頃は奥飛鳥とも呼ばれている。)美しい棚田と昔ながらの集落を眺めることができる。歩いてみると、確かに歌にあるように、この辺り雪とかが積りそうだし、うっすらと積った雪景色が何とも美しそうなイメージが湧いてくる。
考えてみれば、春と秋に来ることが多いためか、飛鳥に雪のイメージはあまりないかも。
この「御食向かふ」の歌は、より南淵山に近い坂田寺跡の公園にも、歌碑が建てられている。比較的親しまれている歌なのだろうか?(犬養孝氏の『万葉の旅』には、「南淵山」の項に採録されている。)
最後に、万葉歌碑のある休憩所から少し道を登ると展望台があり、そこから石舞台古墳の全景が見える。
案外、知られていないスポットのような気がする。お試しあれ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます