●今日の一枚 60●
Barney Wilen Essential Ballads
晩年のバルネ・ウィランは素敵だ。もちろん、初期のいかにもハード・バップという感じの演奏だって悪くはない。けれど、バルネが誰にも真似のできないオリジナリティーのある演奏を聴かせてくれたのは1986年にカムバックした後ではなかったか。私はそう確信している。バルネのオリジナリティーって何だろう。私は、音の「表情」ではないかと思っている。バルネほど表情豊かな音を吹くサキソホン奏者を私は知らない。時に優しく、時に悲しく、時に楽しげに、そして時に孤独に、バルネのサックスの音はその曲に応じて表情を変える。しかも、そこで紡がれる旋律は歌心豊かでアドリブ自体がまるでひとつの美しい曲のようである。特にバラード演奏における晩年のバルネは特筆すべきである。というわけで、私のレコード・CDコレクションも晩年のバルネに集中している。この時期の他のアルバムをこのブログで話題にすることもあるかもしれない。
この『エッセンシャル・バラード』は、日本のレーベル、アルファ・ジャズが1992年にパリで録音したものである。高名な評論家寺島靖国さんはその著書『辛口JAZZ名盤1001』の中でこの作品について次のように評している。
「これ以上遅くできないスピードで『レディ・ビー・グッド』が演奏されている。このテンポの選択が本盤を名盤たらしめたと断言したい。テナーの悠々のバラッド奏法を、超低速、しかし重低音でベースが押していく快感は、言葉に尽くせない。いけないのはシンセ。余計だ。これほど激しくベースが隙間を埋めているというのに。」
ちょっと違いますね、確かにこの曲あるいはこのアルバムにおけるグーんと沈み込むようなベースの音は快感だが、この曲あるいはアルバム全体を落ち着いた雰囲気にしているのはまぎれもなくシンセだ。私はそう思う。
私のベストトラックは⑩ いそしぎ(The Shadow Of Your Smile)だ。