WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

デイヴィッド・サンボーンのインサイド

2006年10月04日 | 今日の一枚(C-D)

●今日の一枚 61●

David Sanborn   Inside

Scan10018_1   デイヴィッド・サンボーンが特に好きなわけではない。1990年のLive Under The Sky In 仙台で生で見たこともあるのだが、ただ暑苦しく吹いているだけという印象で好きになることはなかった(このコンサートでサンボーンの前に登場したパット・メセニー・グループは最高だった)。

 それではなぜこのCDを買ったのか。それは帯に書かれていた「心の深遠に届くブロウ」ということばに惹かれたからだ。恥ずかしいがこういうのに弱いのだ。ジャケットがまたいい。「心の深遠に届くブロウ」をイメージさせるに十分な写真である。何気なく入ったCDショップの棚で見つけ、その言葉と写真を見て買ってしまったのだ。しかし、デイヴィッド・サンボーンに興味があったわけではなかったので、買ったCDは再生トレイにのることなく私の書斎の片隅に置き去りにされた。数ヵ月後、そんなことをすっかり忘れてしまった私は、違うCDショップで再びこの作品を見つけ(当時は発売されたばかりで目につきやすいところにあったのだ)、やはり帯の言葉とジャケットの写真によって買ってしまった。だから私は、この『インサイド』という作品を2枚もっている。家に帰り、同じ作品を買ってしまったことに気づいたときのショックは大きかった。特に聴いてみたいわけでもないCDに、2倍のお金を使ってしまったのだ。もとをとるために聴いてみることにした。

 結構いい。なかなかいいではないか。この作品は、サンボーンがマーカス・ミラー、マイケル・ブレッカー、ウォレス・ルーニー、ビル・フリーセル、カッサンドラ・ウィルソン、スティングなどの豪華メンバーを迎えて創りあげたもので、バックの安定した演奏に支えられて、サンボーンは都会の孤独を感じさせる哀愁の旋律を吹きまくる。かつてコンサートでみた時のような暑苦しいブロー一辺倒のサンボーンではなく、もっと内向的な演奏だ。タイトルの『インサイド』もきっとそういう意味なのだろう。バックもなかなかいい。マーカス・ミラーのベースがややでしゃばりすぎの感があるものの、全体的には抑制された節度ある演奏だ。以来、このCDはときどき再生トレイにのるようになった。

 世界が寝静まった深夜、私はときどきこのCDをアンプのボリュームをしぼって聴く。音は小さくとも、ベースは重く響き、サックスはしっかりと哀愁の旋律を鳴らす。