●今日の一枚 65●
Zoot Sims Meets Jimmy Rowles
If I'm Lucky
私の持っている盤は輸入盤でオリジナルのものとは少し違う。新しいのを購入しようかとも考えたこともあるが、いまのところ満足しているのでこのままでよい。
結構多く所有しているズートのアルバムの中でも好きな作品である。ズートはもともと駄作のない男だが、このアルバムは全体的に落ち着いた(地に足の着いた)雰囲気があるので、特に安心してしかもリラックスして聴ける。
後藤雅洋さんはその著書『新ジャズの名演・名盤』(講談社現代新書)の中で、「ズートは大好きなプレイヤーなのだけれど、聴いていて気持ちがよいだけみたいなところがちょっと不満の種でもあった。そんな僕の気持ちを見透かすように、さりげなく出たこのアルバムで、僕のズート熱は再燃した。音にしみじみとした味わい、場合によっては、翳りや愁いの気分といってよいようなものまで漂わせているのだ。特に、アナログ盤B面「ユー・アー・エブリシング」以下のトラックは何度繰り返し聴いたことか。『肩の力を抜いた好演』というようなセリフはよく聴くが、それが本当の名演にまでなっている数少ない例がこれである。」と語っているが、自分の本当に好きな作品をこのように評価している人がいるということは、本当にうれしいものである。
しかし一方、異なる評価もあるようで、例えばかの村上春樹さんは、自身が訳したビル・クロウ著『さよならバードランド』(新潮文庫)の巻末の「私的レコード・ガイド」の中で、このアルバムについて、「パプロ時代のズートは健康を害していたためかどうかは知らないけれど、目に見えて老け込んで、演奏に微妙なしまりを欠くようになってしまった。音色はいいのに、音がすっと前にでてこない。昔はホームランになったはずの打球が、塀の手前で落ちるという感じだ。そこに質のいい寝言みたいなロウルズのピアノが絡んでくるわけで、正直なところこれはちょっときつい。枯淡の味わいと呼んで呼べなくはないだろうけれど、僕はあえて呼ばない。」と書いている。
なるほど、そういう見方もあるものかと思ったが、私はやはりズートの中では好きな作品である。