WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ヴァーモントの月

2006年10月29日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 77●

Johnny Smith     Moonlight In Vermont

5550002  書斎の天窓から月が見える。半月に近い月だ。日曜日の夜ぐらい、しっとりとした雰囲気で月を眺めたいと思い、取り出したのが、最近買ったCD、ジョニー・スミスの1952年録音盤『ヴァーモントの月』だ。もちろん、ビールを飲みながらだ。

 ずっと昔の本だが(1986年刊、今でもでているのだろうか)、油井正一ジャズ ベスト・レコード・コレクション』(新潮文庫) の中で片岡義男がエッセイで紹介したのがこのアルバムだ。エッセイ自体は、気取った、意味のない、つまらないものだったが、レコードはなんとなく気になっていた。今回、「ジャズ決定盤1500」シリーズから廉価で発売されたので購入してみたわけだ。

 いかにも、1950年代のサウンドという感じだ。刺激的ではないが、悪くはない。解説を読むと、ジョニー・スミスという人は、繊細で正確なテクニック、美しい音色、技術的なアイデアの幅の広さ、といった点では超一流で、人気も他のギタリストたちより数倍上だったようだが、「セッションの醍醐味」というものが希薄で、次世代のジャズ・ギタリストに与えた影響が少なかったらしく、現在では「聴かれないギタリスト」になってしまったとのことだ。

 まだ、2度しか聴いていないのでよくわからないが、生活にしっとりとしたメローな雰囲気をもたらしてくれる音楽としては悪くない。できれば、アナログ・レコードで聴いてみたい一枚である。


フライト・トゥ・デンマーク

2006年10月29日 | 今日の一枚(C-D)

●今日の一枚 76●

Duke Jordan     Flight To Denmark

5550001_5  学生時代、Jazzなんか全然わからないのに、ある先輩にジャズ喫茶を連れまわられ渋谷の音楽館だ)、大音響でハードボイルドなジャズを聴かされて、ああもう限界だ、と思った時、かけられたのがこのレコードだった。助かった、と思った。このレコードがなかったら、私はジャズ嫌いになってしまったかも知れない。

 1973年録音の有名盤だ。かつてはチャーリー・パーカーのサイドメンをつとめたデューク・ジョーダンも1960年代はまったくの不遇で、一説にはタクシーの運転手をやっていたこともあったという。設立されて間もない欧州のレーベルSteeple Chaceからリリースされた本作でカムバックを果たし、ファンを安心させた。

Here's That Rainy Day の出だし、何というリリカルな響きだ。美しいとしか言いようがない。あのとき渋谷の音楽館でかかったのも、きっと、この曲に違いない。ジャケットもセンチメンタルな雰囲気が出ていてなかなかいいじゃないか。

 デューク・ジョーダンは今年8月8日コペンハーゲンで死去した。84歳だった。1981年の渋谷音楽館で私をジャズ嫌いになることから救ってくれた、ジョーダン、ありがとう。