●今日の一枚 70●
浅川マキ MAKI(浅川マキの世界)
やはり、これはすごい作品なのではないか。聴けば聴くほどそう思えてならない。1970年作品だ。大きくみれば、70年代アンダーグラウンドのムーブメントが生んだ日本的ブルースということになるのだろう。日本的なじめじめした陰湿な土壌に生まれた時代性をもつのだが、聴けば聴くほど、陰湿さという感覚が立ち上がる以前の、意外にドライな感覚で作られた作品のような気がしてくる。頭でっかちで実験的な作品のようにも思うのだが、聴くほどに非常に素朴な感性に基づいた作品であることがわかってくる。
演歌チックな旋律と歌いまわしだ。けれどもそれに嫌悪を感じることはない。不思議なことだ。演歌チックだが、歌の心は演歌をこえたところにあるように思えてならない。少なくとも、流行歌としての軟弱な演歌ではない。ややうがった見方をすれば、日本人の労働に根付いたネイティブな何ものかにかかわるように思えるから不思議だ。
暗い作品だ。全体が暗いトーンに塗りつぶされている。けれども、よく聴くとこれが本当に暗いのだろうかと思ってしまう。むしろ、明るい/暗いという二項対立以前の感覚であるというべきなのではないか。歌が歌われるべきように歌い、表現されるべきように表現したという感じが拭い去れない。
まったく、不思議なアルバムだ。 どの曲も不思議で興味深いが、やはり、⑥ 赤い橋、⑦ かもめ が出色だ。一度聴くや否や耳について離れない。インパクトの強い作品というべきなのだろう。
若い世代に聴いてもらいたい。若い世代はどのように評価するのだろうか。1970年という時代にこのような作品が残されたことに、われわれ日本人はやはり驚きを感じると同時に、誇りをもつ必要がありそうだ。