●今日の一枚 63●
Bill Evans & Jim Hall Undercurrent
ビル・エヴァンスとジム・ホールの『アンダーカレント』。究極のデュオ作といわれる作品だ。Swing Journal 誌(2006-6)によると、現在でも驚くほどの販売実績をあげているベストセラー盤なのだそうだ。同誌によると、95年発売のプラスチックケース普及盤は累計5万枚の売り上げを記録しており、これは東芝EMIからリリースされている50~60年代のブルーノート、パシフィック・ジャス等のカタログにあってチェット・ベイカーの『チェット・ベイカー・シングス』についで第2位だということだ。
私にとっても究極といっていいほどのフェイバリット盤である。これまでに何度再生装置のトレイにのせたことだろう。聴くたびに感動のある作品だ。そもそも、私はデュオ作品が好きだ。アート・ペッパー&ジョージ・ケイブルスやスタン・ゲッツ&ケニー・バロンなどの名作をあげるまでもなく、プレイヤー同士の緊密な駆け引きがよりシンプルな形でびんびん伝わってくる。
ところで、この作品がJazz ジャーナリズムで取り上げられる際、決まって注目されるのは① My Funny Valentine だ。斬新な解釈による特筆すべき演奏であることに異存はない。しかし、私がこの作品をしばしば再生トレイに載せる理由はこの曲のためではない。例えばかの寺島靖国さんは『辛口JAZZ名盤1001』(講談社+α文庫)の中で③ Dream Gypsy を推し次のようにいっている。
「『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』を速いテンポで演奏した最悪のセンス。この曲の好きなビギナーは聴くべからす。せっかくのジャズがきらいになる。この曲に飽きた人が聴く演奏だ。聴くべきは『ドリーム・ジプシー』。ジャズってこんな感傷的な音楽なの、とますますのめり込むだろう。僕は聴くたびに夢うつつ。曲というより調べだ。」
My Funny Valentine の演奏が最悪のセンスだとは思わない。むしろ、何かぞくぞくしてかっこいい演奏である。ただ、繰り返しこのCDを聴くのは、他に心にしみる曲たちがたくさん収められているからだ。寺島氏の推すDream Gypsy ももちろんそのひとつだ。まったく寺島氏の言のとおり「調べ」だと思う。私が最も気に入っているのは④ Romain 。ジム・ホールのギターが素晴らしい。特にギターソロからストローク演奏へ移行するところは聴くたびに新鮮でぞくぞくするスリルに満ちている。そもそも私はこの作品を聴いてジム・ホールの熱狂的なファンとなったのだ。
話は変わるが、私の持っている盤は何故かジャケットが青っぽい。20年程前に中古で買った時からそうだった。もともとそういう盤が発売されていたのか、変色したものなのかはわからない。最近、廉価で高音質(?)のやつがでているようだ。新しい盤を買ってみようかと考えている。これからも何度も再生トレイにのせるであろうから……。