●今日の一枚 73●
Brian Wilson Smile
ちょっと、すごい。手に入れたばかりのこのCDを今聴いている。驚きだ。興奮している。歴史に「もし」はないが、もし当時これと同じものが発表されていたなら、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を遥かに凌駕する作品として評価されていたのではないか。
ビーチ・ボーイズのアルバム『スマイル』は本来、あの『ペットサウンズ』の次の作品として、1967年1月に発売予定だった。先行シングル「グッド・ヴァイブレーション」も米・英で1位の大ヒットとなり、期待は高まっていた。しかし、ブライアンの精神状態悪化のため、発売は幾度も延期され、ついに発売中止となった。録音された曲のいくつかは、その後、ビーチ・ボーイズのアルバムに分散して収められ、海賊盤として流出したものもあったが、断片的にわかるそのすばらしさから『スマイル』は幻の名盤と呼ばれるようになったわけだ。
ブライアン・ウィルソン自身、『スマイル』を発表することができなかったことを非常に心残りにおもっていたらしく、それは彼のいくつかの発言からも知ることができる。数年前、(2004年のことだ)ブライアン・ウィルソンが強力なバックバンドを率いて当時のコンセプトで新たに録音しなおしたものがこのCDだ。ブライアンの声に若い頃の輝かしさはないが、バックの圧倒的なコーラスがそれを十分にカバーしている。これが1967年という年に発表されていたら大変なことになっていただろう。アルバム全体がトータルアルバムとして緻密に設計され、実験の精神に溢れている。以前このブログでも以前取り上げたアルバム『サーフズ・アップ』に収録された「サーフズ・アップ」が、アルバム全体の構成の中でこのような効果をもつ曲だったとはとは驚きだ。
ビートルズの『ラバー・ソウル』に触発されてブライアンは『ペット・サウンズ』をつくり、その『ペット・サウンズ』に対抗してビートルズは1967年『サージェントペパーズ……』をつくった。もし、予定通り『スマイル』が発売されていたとしたら、1967年という年はポップミュージックにとってとんでもない年になっていたことだろう。
ただ、ライナーノーツで萩原健太氏がいうように、1967年の『スマイル』とこのあたらしい『スマイル』がまったく同じものだったかどうかは疑問だ。全体のコンセプトは同じものだったのだろうが、曲順や若干のアレンジは変わったのだろう。そう考えるとやはり、1967年の『スマイル』が発売中止になってしまったのは残念だ。
『スマイル』は永遠に幻の名盤のままなのかもしれない。
つづく
[以前の記事]
ペット・サウンズ
http://blog.goo.ne.jp/hiraizumikiyoshi/d/20061008
サーフズ・アップ
http://blog.goo.ne.jp/hiraizumikiyoshi/d/20061014