●今日の一枚 157●
Helge Lien
To The Little Radio
最初から何と優しい響きなのだろう。① Grandfathers Waltz 、温かく優しい音色の歌心溢れる演奏だ。何か懐かしさを感じさせる旋律に、ああ、私はこういう優しいメロディーを聴きたかったのだ、などと感慨に浸り、忘れ物を見つけたような妙な自己満足をしてしまう。② Look For The Silver Lining は一転して音の隙間をうまく使った静謐なサウンド。キース・ジャレットのスタンダーズを思わせる。時間がゆっくりと流れていくように感じられる。
ヘルゲ・リエンの2006年録音盤『トゥ・ザ・リトル・ラジオ』である。ヘルゲ・リエンは1975年ノルウェー生まれのピアニストで、ピンク・フロイドから最初の音楽的影響を受け、16歳でクラシックに転向、オスカー・ピーターソンを聞いてJazzの世界に進んだという人だ。私は、比較的はやい時期にたまたまヘルゲ・リエンを知り、日本でのデビューアルバムからフォローしてきた。彼のピアノの特色は、繊細なタッチと深遠な響きだ。たまにちょっと難しい世界を描こうとするのが気がかりだが、決して難解な音楽ではない。多くの人が認めるように、すごく才能のある人で、これまでにもいい作品を発表してきたが、このスタンダード集におよんで溢れんばかりの歌心を披露した。
CD帯の宣伝文句、「ピアノ・トリオの傑作。ヘルゲ・リエンのスタンダード&ジャズ・ナンバー集。溢れ出る旋律美。そして溢れ出る涙。」
異存はないが、ちょっと大げさだ。けれども、このことでこのアルバムの価値が下がるものではない。
※一部に過去の記事を転載しました。