名作『12ページの詩集』収録の太田裕美を代表する名曲のひとつであり、6枚目のシングルとして1976年に発表されている。テレビでは、太田裕美のピアノがフューチャーされ、単なる歌謡曲アイドルではない、アーティーストとしてのイメージが強調された曲だった。「木綿のハンカチーフ」のヒットの後、「アーティストのテイストを加味したアイドル」の路線を進んだ太田裕美を考えるにあたって重要な作品である。アメリカの作家オー・ヘンリの短編小説『最後の一葉』をもじった詩はたいへん、ストーリー性のあるドラマチックなものであり、詩を聴かせるという点においては、「木綿のハンカチーフ」と同様の戦略なのかも知れない。
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この手紙書いたらすぐに お見舞いに来て下さいね
もう三日あなたを待って 窓ぎわの花も枯れたわ
街中を秋のクレヨンが 足ばやに染めあげてます
ハロー・グッバイ 悲しみ青春
別れた方が あなたにとって
倖せでしょう わがままですか
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木枯らしが庭の枯れ葉を 運び去る白い冬です
おでこにそっと手をあてて 熱いねとあなたは言った
三冊の厚い日記が 三年の恋をつづります
ハロー・グッバイ さよなら青春
りんごの枝に 雪が降る頃
命の糸が 切れそうなんです
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生きて行く勇気をくれた レンガべいの最後の一葉
ハロー・グッバイ ありがとう青春
ハロー・グッバイ ありがとう青春
凍える冬に 散らない木の葉
あなたが描いた 絵だったんです
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感化を受けやすい高校生の私は、この曲によってO・ヘンリという作家を知り、ペーパーバックと辞書とラジカセを抱えて、よく裏山に出かけたものだ。青空の下でO・ヘンリを読むことが、私の英語の勉強だった。この後、私は英文でO・ヘンリの他の作品を読み、その興味は次第に他の作家にも広がっていった。ウィキペディアのよく整理された作品紹介(あらすじ)を参照しておこう。
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ワシントン・スクエアの芸術家が住む古びたアパートに住むジョンジー(ジョアンナ)は、肺炎で寝込んでしまい生きる気力を失っていた。親友で同居人のスウはジョンジーを励まそうとするが、ジョンジーは窓の外の蔦の葉が落ちきると同時に自分も天に召されると信じ込んでおり、生きる気力を取り戻そうとしない。同じアパートに住む貧しい三流絵師のベアマン老人は、酒浸りのだらしない生活をしているぶっきらぼうな男だが、スウにジョンジーの病状を聞いてから何故か姿を現さなくなった。嵐の次の朝、二人の娘は壁にただ一枚残る蔦の葉を見つける。その葉は次の朝も壁に残っていて、ジョンジーはそれを見て生きる気力を取り戻した。実は、最後に残った葉はベアマン老人が嵐の中命がけで書いた最後の傑作であったが、ジョンジーは老人が肺炎で死んでから事実を知り泣き崩れる。
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懐かしくも美しい話である。庶民の哀歓と生活の中の小さな幸せを描く作風は、今考えれば日本の1970年代の時代の雰囲気にマッチしていたのかもしれない。