WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ダブル・レインボウ

2007年05月25日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 168●

Joe Henderson

Double Rainbow

Watercolors0002_9

 陽気のせいか、近頃ボサノヴァづいている私であるが、今日の一枚もボサノヴァがらみ……。ジョー・ヘンダーソンの1994年録音作品『ダブル・レインボウ』、アントニオ・カルロス・ジョビン曲集である。「ダブル」とは前半がブラジルのミュージシャンによる編成、後半はアメリカのジャズミュージシャンによる編成と、タイプの違う2つの編成からなっているところからきていると思われる。ジョビンの楽曲をボサノヴァ的な演奏とよりジャズにひきつけた演奏との2つの視点から取り上げたものだが、もしかしたらLPのA面B面を意識したものでもあるのかも知れない。

 好きな一枚である。ジョーヘンの穏やかで温かみのある音色は、ボサノヴァには結構あうのではなかろうか。スタン・ゲッツの影響を受けたジョーヘンであれば当然のことなのかもしれないが、実際彼は次のように語っている。

「実は自分に、ボサ・ノヴァに敏感な一面があると感じている。実に柔らかな一面だ。……柔らかな雰囲気というのは私のとって格別のものだ。そうした曲をレコーディングしている時の私は、自分自身にも周りの世界にも、実に平和なものを感じていた。」

 ところで、この作品はジョビンの追悼アルバムとして発表されたようだ。雑誌やブログの多くの紹介記事もそういっており、タイトルにも「ジョビンに捧ぐ」とある。しかし、CDの帯に「ジョビンへの深い敬愛と哀悼を込めてブロウするジョー・ヘンダーソン最高の快演」とあるのはどうだろう。ちょっといただけない。Wikipediaによれば、アントニオ・カルロス・ジョビンが亡くなったのは1994年12月8日だ。それに対してこの『ダブル・レインボウ』は1994年9月19~20日と1994年11月5~6日に録音されている。つまり、ジョビンの死以前に録音されているわけだ。それを「哀悼を込めてブロウする」とは言えないだろう。いい加減なことをいわないでもらいたい。おとなげない言い方だが、宣伝はまっとうに行ってもらいたいものだ。この作品は、ジョビン追悼アルバムとして《 発売 》されたが、ジョビンを《 追悼 》する演奏ではないということだ。

 最近知ったことだが、ジョーヘンは1970年代にはブラス・ロックの雄、あのブラッド・スウェト & ティアーズに在籍していたのですね。ちょっと意外だ。