●今日の一枚 164●
The Modern Jazz Quartet
No Sun In Venice
ロジェ・ヴァディム監督の映画『大運河』のためにジョンルイスが書いた作品集である。といっても、サウンドトラックではなく、ちゃんとMJQがアルバムとして録音したものである。録音は1957年。『大運河』という映画は、残念ながらというべきか、見たことはないが、かつてかの筑紫哲也さんがこの映画について、映画はつまらなかったが音楽だけがすごく良かった旨の発言をしているのを読んで、映画を見る気をなくしてしまった。
そういえば、最近まともに映画を見ていない。学生時代は三軒茶屋にあった名画座にほとんど毎週のように通い、映画通を自認していたのだが……。下宿のあった三軒茶屋には映画館が3つあり、新しいラインナップになるたびに通っていたので、数年間で相当の数の映画を見た計算になる。就職をして忙しさに振り回されるにつれて、いつしか映画を見る機会が少なくなり、気がついたらまったく見なくなっていた。十年ほど前、そんな自分にやるせなさを感じて、妻に内緒で毎週隣町の映画館に通っていた時期もあったのだが、その映画館も閉館してしまい、今ではたまに家族で、『クレヨンしんちゃん』や『ドラエもん』などのこども映画を見に行くのみである。DVD等のメディアで視聴する方法もあるのだろうが、根っからのせっかちと落ち着きのなさで、家では2時間もじっと座っていることができない。たまにケーブルテレビで見るぐらいである。人間とはそうして若い日々の大切なものを失っていくのだろうか……。
さて、MJQはあまり好きではなかった。LPやCDも数枚所有するのみである。何というか、退屈なのである。それはもちろん、ジョン・ルイスやミルト・ジャクソンのこと、じっくり聴けば刺激的な部分もあるのだが、やはり室内楽的で格調の高い全体の雰囲気が、どうもおとなしすぎて退屈な感が否めなかったのだ。もう十数年前だろうか、仙台で秋吉敏子とジョン・ルイスのピアノ・デュオを聴いて、もう一度MJQを聴いてみようかという気になり、それ以来たまにではあるが、トレイにのるようになった。名盤の誉れ高いこの『たそがれのベニス』は中でも好きな作品だ。② 「ひとしれず」の静謐な感じがたまらない。