WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ピース・ピース

2007年05月09日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 163●

Everybody Digs Bill Evans

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 アルバムジャケットに、署名入りで4人のミュージシャンの賛辞の言葉が記されている。新進気鋭の若手ピアニストに対する言葉としては異例である。直訳すると次のようになるのだろうか。

「私はビル・エヴァンスから本当に多くのことを学んだ。彼はそれが演奏されるべきようにピアノを演奏するのだ。」(マイルス・デイヴィス)

「ビル・エヴァンスは最近私が聴いた最も新鮮なピアニストのひとりである。」(ジョージ・シアリング)

「私は、ビル・エヴァンスは最高の1人だと考える。」(アーマッド・ジャマル)

「ビル・エヴァンスは類稀な独創性と味わい、そしてプレイすべき最終的な方法と思えるような曲の着想を作れる本当に稀有な能力を持ってる。」(ジュリアン・キャノンボール・アダレイ)

 ビル・エヴァンスの1958年録音盤『エブリバディ・ディグス・ビル・エヴァンス』。大好きな一枚だ。極私的名盤といっても良い。もちもんそりなりの世間的評価を得ている作品ではあるが、私としてはまだまだ十分な(正当な)評価を得ているとは思わない。ビル・エヴァンスの諸作品は多くの場合、スコット・ラファロ入りのリバーサイド諸作品との関連で語られ、この作品にしてもそれへのステップのひとつとして論じられがちである。この作品のすばらしさは、キャノンボール・アダレイのいうように類稀な独創性と味わい深さ、そして稀有な構想力にある。油井正一『ジャズ ベスト・レコード・コレクション』(新潮文庫)は主な作品を録音年順に並べて紹介している本であるが(この本に『エブリバディ・ディグス・ビル・エヴァンス』が紹介されていないのは本当に残念である)、この作品が録音された1958年ごろの他のミュージシャンの作品と比べてみると、エヴァンスのこの作品が革命的な新しさをもっていることは歴然としている。何せ時代はハードバップの花盛りなのである。そしてそれは、あの伝説的な翌1959年の諸作品と比べても少しも色褪せることはない。特に「ピース・ピース」をはじめ何曲かのゆっくりとしたテンポの曲たちは、のちのエヴァンス作品と比べても(もちろん他のミュージシャンの演奏とくらべても)、勝るとも劣らない素晴らしい出来である(トリオ演奏もなかなかであるが……)。そこには、のちの60年代メインストリームジャズへの影響が見て取られ、1950年代と1960年代の切れ目を感じされる演奏でもある。「ピース・ピース」の優雅でたおやかな左手の流れを聴いていると、そのあまりの浮遊感に、どこか知らない場所に連れて行かれたようなt感覚に包まれる。そこは、本当に知らなかったような、穏やかな時間が流れる場所だ。私は、身も心も音楽にゆだね、思いはその見知らぬ場所を駆け巡る。