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福島原発告訴団、第1次告訴~敵を正しく捉え、分断から団結へ

2012-06-25 10:29:06 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2012年7月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 ●素朴な疑問から産声

 7人の死者を出したツアーバス会社「陸援隊」の社長は逮捕、強制捜査を受けた。企業年金の運用に失敗し、サラリーマンの虎の子の年金を消失させたAIJ投資顧問も近く警視庁が強制捜査に乗り出すと報じられている。粉飾決算をしていたオリンパスでも会長、社長らが逮捕され、粉飾に手を染めていた経営者らは追放された。

 しかし、あれだけのおびただしい被害を出しながら、原発事故では誰ひとり処罰どころか捜査すら始まる気配がない。東電役員は誰も責任を問われず、役員ポストをたらい回しにしながら「因果関係も明らかでないのに、福島県民がキャンキャン騒ぐから施しをしてやるのだ」とでも言わんばかりの態度でふんぞり返り、少しでも被害追及の動きが出ると「値上げは権利だ。ツケはお前らが払え」と開き直る――。

 「無理が通れば道理引っ込む」とはよくぞ言ったものだが、こんなあからさまな不正義、不条理が目の前で起こっていながらなんの手も打たれない日本は法治国家ならぬ「放置国家」ではないのか。この状態をそのままにしていては日本社会は崩壊する。当たり前の正義が通る社会にしたい――そんな思いから、2012年3月、福島原発告訴団は産声を上げた。

 ●告訴とは

 犯罪による被害を受けた人は、誰でも告訴をすることができる(刑事訴訟法230条)。犯罪被害者が加害者の犯罪事実を捜査当局に申告して捜査を求める手続きである。原発事故による被曝を傷害罪と捉え、1000人を超える大告訴団を組織して、原発事故の直接的原因を作った加害者らを業務上過失致傷罪などで処罰するよう求める。告訴先はどこでもよく、また検察でも警察でもかまわないが、みずからも被曝しながら業務に当たらざるを得ない福島の捜査機関ならこの告訴を黙殺はできないだろう、との思いから福島地検を選んだ。

 地元・福島県内で開かれた事前学習会では、告訴団を担当する保田行雄弁護士が、「東京電力は行政が避難命令を出したから被害が発生したのだとでも言わんばかりの顔をし、もちろん区域外避難など知らん顔だ。なぜ加害者が請求書類の書式を決め、被害者が記入させられるような本末転倒なことがまかり通るのか。原子力村の住人たちは、真相究明のため関係者の刑事免責が必要などと主張しており、破廉恥の極みだ」と原発推進派を厳しく批判。「原子力村は全く反省しておらず、福島県民から告訴の動きが出たのは大変画期的」とその意義を強調した。また、地震学者の石橋克彦さんが福島と同じ事態を予測し、危険を訴えた証拠(「科学」1997年10月号、岩波書店)を示し「想定外という言い訳は絶対に許さない」と決意を表明した。

 ●分断からひとつに

 福島原発事故を通じてはっきりしたのは原発が誘致、運転、事故とその処理に至るすべての段階で地元の人々を引き裂き、孤立させ、狂わせることだ。このことだけですでに原発はこの世に存在する資格がない。

 子どもを守るために福島に残り、食品測定所の開設などに走り回った郡山市の母親は、ある地域の有力者から名指しで「お前が敵だ」と言われたという。放射能の危険を語る行為が「風評」を煽る元凶と思われたのだ。本当の敵には考えが至らず、目の前の気に入らない人物やわかりやすい人物を敵だと思いこむこうした「思考停止オヤジ」こそ政府・財界の支配に手を貸す厄介な存在で、もう少し頭を使えと言いたくなる。

 こうした分断は福島では至る所に見られる。地元産の食材を使った給食を食べるかどうか。除染に参加するかどうか。経産省前のテントでも「福島第1原発の収束作業に行っている息子が原発は必要だと言って相手にしてくれない」と嘆く福島の母親に出会った。分断、亀裂は以前よりむしろ深まっている。

 情報操作で真の敵が見えなくされ、被支配層の中で考えの違う住民同士が敵と思わされる中で、政府や東電を初めとする経済界を闘う相手として、みんなが一致団結して前に進める運動が何よりも求められていた。告訴団はこの要求に真正面から応えるものだ。

 告訴団長の武藤類子さんは、2011年9月19日、東京・明治公園に6万人を集めた脱原発の集会でみずからを東北の鬼と称した人だ。「告訴団長を引き受け、責任の重さを両肩にずっしりと感じつつも、事故でいったんバラバラにされた大勢の福島県民が新たにつながる機会にしたいと、前向きに考えていきます。それぞれの福島県民が原発事故で受けた被害をしたためた陳述書を書き、訴えていくこの刑事告訴が、事故の責任を明確にするだけでなく、県民一人ひとりの力を取り戻す大切な機会にもなると考えています。そして、市民の苦しみを直視せず、なお原発を推進し、利権をむさぼろうとしている巨大な力にくさびを打ち込み、新しい価値観の21世紀を築くことになると信じて、取り組んでいきます」と、静かながらも強い決意を示す。

 『私たちの目標は、政府が弱者を守らず切り捨てていくあり方そのものを根源から問うこと(中略)にあります。そのために私たちは、政府や企業の犯罪に苦しんでいるすべての人たちと連帯し、ともに闘っていきたいと思います』。結成時に起草された告訴宣言は、99%の被支配層が手を取り合って1%の支配層と闘おうと呼びかける。見えなくされている敵を「可視化」して引きずり出し、怒りをぶつける。告訴団運動の根底を流れるのは世界で展開されているオキュパイ運動と全く同じものだ。

 ●「秋霜烈日」の精神で

 告訴先に警察ではなく検察、それも地元の福島地検を選んだ告訴団の判断は妥当だったと私は考えている。検事志望の司法修習生が検察官に任命されると、旭日と菊の花弁、そして菊の葉をあしらった検察官記章(バッジ)を渡される。俗に「秋霜烈日」バッジと呼ばれるこの記章は、秋の冷たい霜や夏の激しい日差しのように厳しく罪を憎み、不正に厳しく対処する検事の職務を表すとされる。公務員宿舎に住んでいると、周りの家には中元や歳暮が山ほど届くのに、検事の家には何も届かない。子どもたちは、どうして自分の家だけ何も届かないのか不思議がるそうだ。

 自分は罪を犯していないと確信して初めて他人の罪を問うことができる。「検事はいい意味でバカですよ。他省庁のように天下り先もないのに仕事は厳しく、高いモラルだけは要求される。正義感が強くなければやっていけない」。元検事の野辺寛太郎さんの言葉だ。相次ぐえん罪や無罪判決など最近は失点続きの検察だが、こうした高い職業倫理が検事の仕事を支えていることも事実である。

 「人の罪を問うことは、私たち自身の生き方を問うこと」だと武藤さんも言う。法律以前に人として、私たちは誇れる生き方をしてきたのだろうか。次代を担う若者、子どもたちのために、私たちもまた秋霜烈日の精神を持って、堕落・腐敗した原子力村に対峙し、立ち向かっていきたい。

 ●告訴団の今後

 6月11日。誰の罪も問われないことに怒り、絶望しかけていた多くの人たちの希望を背負って、告訴団は、福島地検で第1次告訴を行った。対象を福島県民と福島からの避難者に絞ったにもかかわらず、告訴には1324人もの福島県民・避難者が参加した。福島地検の小池隆・次席検事(地方検察庁では検事正に次ぐナンバー2)は「告訴状を預からせていただき、犯罪と認めるに足りる事実関係があるかを真摯に検討させていただきます」とコメントした。多くの反原発デモを黙殺し、あるいは徹底的に過小評価し続けてきたメディアのほぼすべてがこの告訴を報道した。幸先のよいスタートを切ったといえるだろう。

 告訴後、福島市民会館で行われた記者会見では、弁護団の保田行雄弁護士が「(福島地検の)感触は非常によいものがある」と評価。「住民が古里を奪われ、家族がバラバラでおびえながら暮らす現実を引き起こした最大の罪深さを正面から問うもの」と、改めて告訴の意義を強調した。「告訴、告発が放置されることはありえない。地検は握りつぶしたり、黙殺したりすることはできない。今日は戦いの始まり」。河合弘之弁護士もこう呼びかけ、さらに告訴人を募る考えを示した。告訴団が見据えるのは、告訴人を全国に広げての第2次告訴だ。

 第2次以降の告訴について、現状は何も決まっていないが、入会、カンパは今も途切れることなく続く。政府、原子力村への怒りが収まるどころか拡大する一方であることが示されている。この怒りを明日へのエネルギーに変え、今後も告訴団は進み続ける。

<参考>

<資料1>福島原発事故の責任をただす!告訴宣言(2012.3.16)

<資料2>告訴声明(2012.6.11)

<資料3>「被告訴人」一覧

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