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スペイン列車事故について

2013-07-26 23:30:25 | 鉄道・公共交通/安全問題
スペイン列車脱線、速度超過はなぜ起きたのか(ロイター)

スペインでの列車事故は、死者が80人を超えるなど、近年のヨーロッパでは最悪のものとなっています。同様の事故が日本で発生しうるのかを含め、関心を抱いている方も多いと思いますので、現時点での国内報道の範囲で簡単にコメントします。

速度超過による転覆脱線事故であるとすれば、類似の事例として、私達日本人がいまだに忘れ得ないJR福知山線脱線事故が挙げられます。JR福知山線事故も、50km/h近い大幅な速度超過がありましたが、今回の事故は80km/h制限の区間を190km/hで走行するという考えられない暴走ぶりです。遅れを取り戻すために制限の2倍以上の速度で走行した人為ミスに加え、速度照査型ATSに相当する設備の不備が複合して起きたものです。

現在までの報道で、スペイン国鉄が現場のカーブに「速度照査型の自動列車停止装置があったが、200km/hを超えないと動作しない設定になっていた」「そもそも自動列車停止装置がなく、あるのは列車ブレーキ警告装置だけだった」との情報が錯綜していますが、どちらにしても日本の鉄道では考えられません。新幹線はもちろん、在来線でもあり得ないレベルのずさんさです。

高速鉄道の場合、列車速度のコントロールは在来線のような色灯信号(赤・黄・緑)によるのではなく、運転席に速度指示を送る車内信号の場合がほとんどです。日本の新幹線では、ATC(自動列車制御装置)による制御が行われており、先行列車との適切な車間距離を計算してATCが運転席に速度指示を出します。運転士が信号指示に従わなかった場合、ATCが自動的に指示速度まで減速してくれます。高速鉄道では、最低でもこれくらいの安全装置は持つべきでしょう。

日本では、1963年の三河島事故(三重衝突事故)を契機にATSの整備が進みました。それまでは、赤信号の場合に運転士に警告する車内警報装置があるだけで、これは運転士が鳴動後に解除すれば赤信号のままでも走れる装置でした。しかしこれでは事故が防止できなかったため、運転士が赤信号を無視した場合に自動的にブレーキをかけるATSに進んでいった歴史があります。その後、1967年からはすべての私鉄が速度照査型ATSとするよう運輸省から通達が出され、より安全が強化されていきました(この時の運輸省通達が、どういうわけか私鉄だけを対象にしており国鉄を対象としていなかったため、国鉄~JRでの速度照査型ATS整備が遅れ、結果として福知山線脱線事故につながったことは、当研究会が指摘してきた通りです)。

今回のスペインの事故が国内の報道の通りだとすると、この高速鉄道の安全装置は、日本でいえば三河島事故以前の水準のものだということになります。そんな貧弱な安全装置で200km/hの高速走行をしていたのだから背筋が寒くなります。スペイン国鉄は怠慢といわれても反論できないし、「死者が出ないことを祈っている」と発言するなど、ギャンブルでもするような感覚で公共交通の運行に携わった乗務員は責任を問われて当然でしょう。

スペインをみて日本と国情が違うと思ったのは、今回の事故現場のような急カーブを駅間に設けていることです。高速鉄道では、減速の必要な区間を減らすため、カーブをできるだけ避けるのが原則です。どうしてもカーブを設けざるを得ない場合は駅の付近にすれば、停車のため減速するところでカーブとなるため効率のよい走行ができます。日本の新幹線を例に取れば、熱海駅や徳山駅(山口県)、仙台駅などの前後に集中的にカーブを設けています。

もうひとつ、公開された脱線の瞬間の映像を見ると、2号車が最初に転覆し、それに引きずられるように各車両が転覆しています。鉄道アナリスト川島令三さんは、この車両が電源車で重心が高く、転覆しやすい構造だったのではないかと指摘しています。重心の位置は、その車両が脱線しやすいかどうかを決定する最も重要な要素で、高ければ高いほど不安定となり転覆の危険が増します。日本では、重心の高さも技術基準で定められており、電源車であることを理由に重心を高く取ることは認められていません。このあたりも国情の違い…というより、スペイン国鉄のずさんな体質を物語っています。

なお、電源車ですが、これは列車の走行電源ではなく、空調、照明など車内設備の電源をまかなうため、ディーゼルエンジンを積んでいる発電専用車両です。通常、電化区間では車内設備の電源も架線から集電した電気を使えばよいため、電源車を必要としません(スペインの事情には詳しくありませんが、日本だと直流区間は1500V、交流区間の在来線は20000V、新幹線は25000Vもの電圧があります。この電圧のままでは車内電源用としては高すぎるため、変圧装置で車内電源用の交流440Vに変圧した後、車内に流します)。報道によれば、この車両は電化区間、非電化区間の両方を走れる車両とのことで、架線から電源の取れない非電化区間で車内電源をまかなうために電源車を連結しているのだと思います。

今後のスペイン当局による原因究明に期待したいと思いますが、全体として「人災」と結論づけられる事故だというのが、現時点での当研究会の見解です。

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