(この記事は、当研究会代表が
「レイバーネット日本」に投稿した内容をそのまま掲載しています。)
3月21日に告示された北海道知事選も、早いもので終盤戦に入った。全国で唯一、与野党が真正面からぶつかる統一地方選前半の天王山だ。地元紙「北海道新聞」によれば、すでに道内有権者の7割が投票する候補を決めたとされる。その北海道新聞は、依然として鈴木直道候補(前夕張市長、自民・公明推薦)有利と伝えたものの、石川知裕候補(元小沢一郎議員秘書、立憲、国民、共産、自由、社民推薦)が「追い上げの勢いを増している」と伝えた(4/1付け朝刊)。
これをどう読めばいいのか。「追い上げている」では表現として抑制的すぎるが、「追いついた」という確証はまだ持てないといったところだろう。私は残り1週間次第で石川候補の「逆転が視野に入った」と見ている。なぜなら、札幌での私のこの間の「皮膚感覚」と一致しているからだ。
札幌市民が「チカホ」と呼んで親しんでいる、札幌駅と市中心部の大通公園を結ぶ地下歩道で、先日の仕事帰り、石川候補への投票を呼びかけ、のぼりを手に練り歩く運動員の姿を見た。市民は熱狂するふうでもないが、拒絶という感じでもなくすれ違っていく。反応が読みにくい選挙であることは確かだ。どちらの陣営にも風は吹いていない、と言っていい。
対照的に鈴木陣営の運動員を私はまだ一度も見ていない。圧倒的な組織力を誇る自公両党の推薦があるにもかかわらずだ。その一方で、鈴木陣営の運動員が大票田・札幌の事情をあまり理解していないのではないか? と思わせるちょっとした「事件」も起きている。今は明らかにできないし、鈴木候補が勝ってしまえば笑い話として回収されてしまうようなことだが、もし石川候補の地滑り的逆転勝利につながれば、鈴木陣営が「敗戦の象徴」として振り返ることになるかもしれない出来事である。
自公推薦の鈴木候補は、自民党の常套手段である「徹底的な争点隠し」に明け暮れている。先日、私が今回の知事選で最大の争点とした「3つのR」(JR、IR、Radiation(原発、放射線))について、態度表明を避けているのだ。ジャーナリスト横田一さんは、北海道胆振東部地震(昨年9月)の被災地・安平町で選挙演説の第一声を発した鈴木候補を直撃。「これらの争点について、触れない理由は何でしょうか」と声をかけたが、無言のまま街宣車で走り去った、と伝えている。徹底した争点隠しで組織戦を展開し、勝ったら「信任された」とばかりに中央直結でやりたい放題にやってくる、というトランプばりの「オレ様民主主義」が脳裏にちらつく。
<参考記事>
北海道知事選、与党候補の鈴木直道・前夕張市長が自民党の常套手段、“争点隠し”の選挙戦を展開(ハーバー・ビジネス・オンライン)
鈴木候補本人は、JR北海道から頼まれもしないのに自分から「攻めの廃線」として石勝線夕張支線(新夕張~夕張)の廃止を提案した「実績」を宣伝されてはよほど都合が悪いのだろうが、ビルの屋上から飛び降りようかどうか迷っている人の「背中を押してやる」ことを通常「攻め」とは言わない。それは単なる自殺ほう助に過ぎない。その痛みをようやく夕張市民がわかってきたのだろう。今朝の道新は、夕張市のある空知管内で、石川候補が鈴木候補に並んだことを伝えている。
「鈴木道政になったら北海道から鉄道路線が全部なくなる」と思っている道民は多い。鈴木候補は、もしそれが杞憂に過ぎないというならきちんとそう説明すべきだ。黙っていては「やっぱり鉄道を全部なくすつもりなのだ」と思われても仕方ないと思うのだが。それともやはり鉄道は要らないと思っているのか。
重要な争点でことごとく沈黙を続けるやり方はフェアではない。泊原発再稼働問題はどう考えるのか。原子力規制委員会が“世界一厳しい”(と自称しているだけの)基準によって合格させた原発は再稼働するという安倍政権の方針に唯々諾々と従うつもりなのか。現に今朝の道新は、曖昧な姿勢をとり続ける鈴木候補が「再稼働に含みを残した」と報道している。黙っていては道民の大多数もそう思うだろう。そんな心配はないというならきちんと説明すべきだ。
対照的に、石川候補はこうした論点から逃げることなく明確に答えている。「原子力に頼らない社会を作る」として脱原発の方向性を明確にした。電力総連がバックに控える国民民主党の推薦を受けながら、こうした姿勢をはっきりさせたことは評価すべきだと思う。鉄道についても、石川候補はJR北海道研究会など沿線団体が行った公開質問状に対して、「国が線路を保有する上下分離を目指す」とその方向性を明確にする。JRが赤字路線を切り離し、押しつけるために持ち出してきた「市町村が線路を保有する上下分離」ではなく、国に責任を持たせようとの姿勢は評価できる。
「国が線路を持つなんて夢物語だ」と思う道民もいるかもしれない。しかし、鈴木善幸内閣当時、国が「日本鉄道保有公団」を設立して国鉄から線路を切り離し、国鉄は列車運行に専念するという上下分離案が、運輸大臣私案の形ながら運輸省内で作成されていた。そんな驚くべき事実を「北海道新聞」が2016年12月30日付紙面で報じている。情勢次第では国鉄改革がこちらに向かう可能性もあったのである。私案とはいえ、政府部内でこうした案が作られていたことは、その実現性に問題はないということである。
<参考記事>「揺れる鉄路」第1部・民営化の幻想~消えた「上下分離」案(北海道新聞)
石川候補が「国が線路を保有する形での上下分離」という具体的なスキームにまで踏み込む形でJR北海道研究会の質問に答えたことに私はいい意味で裏切られた。小沢一郎議員の政治資金問題に絡んで5年にもわたる公民権停止処分を受けていた間も、石川候補が遊んだり腐ったりするのではなく、地道に政策の勉強に励んでいたことは、この回答ひとつ取ってみても容易にわかる。石川候補は、当初、2017年総選挙に立候補するつもりで準備を進めていたが、投票日が公民権停止処分の解けるわずか2日前という不運さで、香織夫人が代わりに立候補せざるを得なかった。今回、知事への立候補要請が来た際も「そんなツキのない男で大丈夫なのか」と不安を訴える声もあった。「負けてもここで名前を売っておけば次の国政復帰の際に弾みになる」などと初めから敗戦覚悟の陣営幹部もいたと伝えられている。
だが、ここに来てはっきりと逆転勝利が視野に入るところまで追い上げてきた。「自分の母親にまで、学校の同窓会などを通じて石川候補への立候補依頼が来ている」との報告が私の元に届いている。石川候補を支援する地縁、血縁などの組織が稼働してきている。石川候補は十勝管内・足寄町が生んだ生粋の道産子だ。「菅官房長官に面会を希望すればいつでも時間を取ってくれる」と自慢げにひけらかし、酒席で年長者にお酌もしない鈴木候補を、内心では良く思っていない高齢者は大勢いる。そんな官邸言いなりの落下傘候補なんかに負けてたまるか!
石川候補は「北海道独立宣言」というスローガンを堂々と掲げる。今まで日本からの独立論は、沖縄では酒の肴に語られることはあったが北海道でこんなにおおっぴらに語られるのは初めて聞いた。もちろん本気で言っているわけではなかろう。「独立独歩の気概を持て」と道民を叱咤激励する意味合いが強いスローガンだ。だが私は夢があっていいと思う。鈴木候補が「社会資本をスリムにして無駄を減らそう」などと夢のかけらもなく辛気臭い顔をしている今こそ夢を掲げる候補がいてもいい。私自身は、もう北海道も沖縄もいつでも日本から独立してもいいと思っている。なぜ食糧自給率200%の北海道が、自給率1%の東京から落下傘で降りてきた若造ごときにデカい顔をされなければならないのか。東京だけで日本が成り立つと思っているならやってみろ。文句があるなら北海道産の食料など食べなくてよい。道民はそれくらい堂々と主張すべきだし、中央や官邸がこれ以上北海道を収奪し続けるなら、自給率200%の食料を持って独立すれば良いのだ。
今年1~2月にかけて「地域と労働運動」誌に、北海道と沖縄が同時に日本から独立を試みたらどうなるかのシミュレーションを兼ねて記事を書いたら想像を超える反響があった。食料もエネルギーも自給できず外部に依存する東京など、地方が団結すれば敵ではない、というのが書いてみての結論だった。にわかには信じられないかもしれないが、興味のある方は読んでいただければと思っている。
2019年 私の初夢~沖縄と北海道が日本から分離独立!?(その1)
2019年 私の初夢~沖縄と北海道が日本から分離独立!?(その2)
石川候補と同じ足寄町出身の鈴木宗男・新党大地代表と彼の盟友である歌手・松山千春は「共産党と手を組んだ石川は足寄の裏切り者」とネガティブキャンペーンを続ける。いくら政策で勝負ができないからといって、半世紀前を思わせる古色蒼然とした反共攻撃とは、底が浅いにも程がある。石川さんの夢を少し見習ってはどうか。自民党は「野党は対案も出さず反対ばかり」などとこれでよくも言えるものだ。
明るく夢を語る石川候補か、辛気臭く「無駄を減らそう」と訴える鈴木候補か。
堂々と政策語る石川陣営か、論争から逃げ「共産党と組む者は裏切り者」と誹謗中傷を繰り返す鈴木陣営か。
鉄道残し、原発なくす石川候補か、原発残し鉄道なくす鈴木候補か。
考えるまでもないだろう。私は今年2月、鉄路維持を訴える札幌市内の集会で石川さんの肉声を聞いたが、ポジティブで明るいキャラクターは魅力的だ。彼なら何とかしてくれるのではないか、多くの道民に彼の「夢」になら賭けてもいいのではないか、と思わせるだけの魅力を持っている。投票日は4月7日。1人でも多くの道民が石川さんの魅力と「夢」に賭けてくれるなら、私としてこれに勝る喜びはない。
(文責・黒鉄好)