法曹関係者向け専門サイト「弁護士ドットコム」に、東電刑事裁判に関する以下の記事が掲載されたので、転載でご紹介する。ライターは、この間、福島原発事故問題を追ってきたジャーナリスト・吉田千亜さん。
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東電旧経営陣の刑事責任問う裁判 「最高裁判事は東電と深い関係ある」市民・弁護士ら公正審理求める(弁護士ドットコム)
東京電力福島第一原子力発電所事故から13年が経つ。東電の当時の経営陣である勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の刑事責任が問われるのか、重要な局面を迎えている。
被告人3人は、津波対策を怠ったことにより原発事故を起こし、死傷者を出したとして業務上過失致死傷罪に問われ、強制起訴された。東京高裁は2023年1月、全員無罪とした一審判決を支持。検察官役の指定弁護士が上告し、現在は最高裁に係属中だ。
しかし、担当する第二小法廷の裁判官について、被災者らを支援する弁護士らから「公正な審理が期待できない」との声が上がっている。福島原発刑事訴訟支援団の海渡雄一弁護士に話を聞いた。(ライター・吉田千亜)
●最高裁判事は本当に「中立・公正」なのか
支援団は1月30日、この刑事事件を担当する最高裁第二小法廷の草野耕一裁判官に対して、審理への関与を「回避」することを求める署名を最高裁に提出する。
草野裁判官は、東京電力やその関連会社に法的アドバイスを行う複数の弁護士が所属する「西村あさひ法律事務所」の元代表。「中立・公正な審理が行われるのか、東電刑事裁判を担当するにふさわしいのか、非常に疑問があります」と海渡弁護士は語る。
草野氏は、「西村あさひ」の代表を15年務め、2019年に最高裁判事となった。5大法律事務所の一つと言われ、750人以上の弁護士を抱えている。海渡弁護士は「同事務所は、複数の所属弁護士が東京電力および、関連会社における出資や株式取得に関してリーガルアドバイスを行ったことをホームページ上でも広報しています。この事務所が東電と密接に関わっていることは公知の事実」と不信感をあらわにする。
東電と「西村あさひ」の関係は、実際の裁判にまで及んでいるという。海渡弁護士は、ジャーナリスト・後藤秀典氏による取材で明らかになった事実を挙げた(詳細は旬報社『東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』)。
後藤氏によると、元最高裁判事で西村あさひ顧問の千葉勝美氏が、2020年12月、最高裁第二小法廷に係属していた「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」で意見書を提出。その意見書は「元最高裁判事・弁護士」の肩書き付きで、▽中間指針を超えた賠償は払う必要がない▽長期評価には多面的な評価が成り立ちうる▽自主避難者へはこれ以上の賠償を払う必要はないーといった内容で、東京電力や国の主張を補完するものだったという。
同書で後藤氏は、「現役の最高裁判事(草野裁判官)が判事就任前に長年にわたって経営していた法律事務所で顧問をつとめる元最高裁判事(千葉勝美氏)が、その現役の判事の担当する裁判に対し、被告・東京電力側に立って意見書を出した、ということになる」(カッコは筆者補足)と指摘している。
そして、2022年6月17日、生業訴訟のほか3件を加えた4つの原発関連訴訟がまとめて最高裁第二小法廷で判決を言い渡され、国の責任を認められなかった。4つの高裁判決のうち、3件では国の責任を認めていたため、原告らは予想外の結果に驚き、失望は深かった。
海渡弁護士は、判決について「この多数意見は、非論理的で事実認定の面でも多くの誤りをおかし、法条の適用も正確になされていないという、異例のもの」と批判する(この海渡弁護士の分析については、追って詳報する)。
多数意見に賛成した第二小法廷の菅野博之裁判長はこの判決の約1カ月後に退官、「長島・大野・常松法律事務所」(5大法律事務所のひとつ)の顧問に就任した。なお、同事務所には、株主代表訴訟の補助参加人として東電代理人を務める弁護士が所属している。
最高裁と大手法律事務所・東電をめぐる人脈図(敬称略、後藤秀典氏『東京電力の変節』より抜粋)
●問われる三権分立
『東京電力の変節』で後藤氏は、このほかにも第二小法廷の裁判官について巨大法律事務所・東電・国との関係を指摘している。また、原子力規制庁の元職員が東電の代理人になったケースや、国・企業側に有利な判決を下した後に関連業界に再就職した複数のケースなどが挙げられる。
司法に求められる「中立・公正」とは程遠く、最高裁、国、東京電力を結ぶ巨大法律事務所の人脈は、およそ三権分立を信じられるものではない。
海渡弁護士は、裁判運営の適正が問われた寺西判事補懲戒処分事件(平成10年12月1日)の最高裁判決の以下の言葉を引用する。
「司法に対する国民の信頼は、具体的な裁判の内容の公正、裁判運営の適正はもとより当然のこととして、外見的にも中立・公正な裁判官の態度によって支えられるからである」
「草野裁判官は、外見的に中立・公正とはいえない」「裁判の公正を妨げるべき事情にあたる(民訴法24条1項)」と指摘し、「我々が考えているほど、この社会は公正ではない。腐敗は司法にも及んでいて、倫理なき司法になっているのではないか」と懸念をのぞかせていた。
支援団は2月11日には、「大手法律事務所に支配される最高裁!東電刑事裁判で改めて問われる司法の独立 東京集会」と題して、後藤氏の講演会も企画している。司法は独立しているのか、東電刑事裁判の行方はどうなるのか。最高裁の判断が注目される。
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東電旧経営陣の刑事責任問う裁判 「最高裁判事は東電と深い関係ある」市民・弁護士ら公正審理求める(弁護士ドットコム)
東京電力福島第一原子力発電所事故から13年が経つ。東電の当時の経営陣である勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の刑事責任が問われるのか、重要な局面を迎えている。
被告人3人は、津波対策を怠ったことにより原発事故を起こし、死傷者を出したとして業務上過失致死傷罪に問われ、強制起訴された。東京高裁は2023年1月、全員無罪とした一審判決を支持。検察官役の指定弁護士が上告し、現在は最高裁に係属中だ。
しかし、担当する第二小法廷の裁判官について、被災者らを支援する弁護士らから「公正な審理が期待できない」との声が上がっている。福島原発刑事訴訟支援団の海渡雄一弁護士に話を聞いた。(ライター・吉田千亜)
●最高裁判事は本当に「中立・公正」なのか
支援団は1月30日、この刑事事件を担当する最高裁第二小法廷の草野耕一裁判官に対して、審理への関与を「回避」することを求める署名を最高裁に提出する。
草野裁判官は、東京電力やその関連会社に法的アドバイスを行う複数の弁護士が所属する「西村あさひ法律事務所」の元代表。「中立・公正な審理が行われるのか、東電刑事裁判を担当するにふさわしいのか、非常に疑問があります」と海渡弁護士は語る。
草野氏は、「西村あさひ」の代表を15年務め、2019年に最高裁判事となった。5大法律事務所の一つと言われ、750人以上の弁護士を抱えている。海渡弁護士は「同事務所は、複数の所属弁護士が東京電力および、関連会社における出資や株式取得に関してリーガルアドバイスを行ったことをホームページ上でも広報しています。この事務所が東電と密接に関わっていることは公知の事実」と不信感をあらわにする。
東電と「西村あさひ」の関係は、実際の裁判にまで及んでいるという。海渡弁護士は、ジャーナリスト・後藤秀典氏による取材で明らかになった事実を挙げた(詳細は旬報社『東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』)。
後藤氏によると、元最高裁判事で西村あさひ顧問の千葉勝美氏が、2020年12月、最高裁第二小法廷に係属していた「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」で意見書を提出。その意見書は「元最高裁判事・弁護士」の肩書き付きで、▽中間指針を超えた賠償は払う必要がない▽長期評価には多面的な評価が成り立ちうる▽自主避難者へはこれ以上の賠償を払う必要はないーといった内容で、東京電力や国の主張を補完するものだったという。
同書で後藤氏は、「現役の最高裁判事(草野裁判官)が判事就任前に長年にわたって経営していた法律事務所で顧問をつとめる元最高裁判事(千葉勝美氏)が、その現役の判事の担当する裁判に対し、被告・東京電力側に立って意見書を出した、ということになる」(カッコは筆者補足)と指摘している。
そして、2022年6月17日、生業訴訟のほか3件を加えた4つの原発関連訴訟がまとめて最高裁第二小法廷で判決を言い渡され、国の責任を認められなかった。4つの高裁判決のうち、3件では国の責任を認めていたため、原告らは予想外の結果に驚き、失望は深かった。
海渡弁護士は、判決について「この多数意見は、非論理的で事実認定の面でも多くの誤りをおかし、法条の適用も正確になされていないという、異例のもの」と批判する(この海渡弁護士の分析については、追って詳報する)。
多数意見に賛成した第二小法廷の菅野博之裁判長はこの判決の約1カ月後に退官、「長島・大野・常松法律事務所」(5大法律事務所のひとつ)の顧問に就任した。なお、同事務所には、株主代表訴訟の補助参加人として東電代理人を務める弁護士が所属している。
最高裁と大手法律事務所・東電をめぐる人脈図(敬称略、後藤秀典氏『東京電力の変節』より抜粋)
●問われる三権分立
『東京電力の変節』で後藤氏は、このほかにも第二小法廷の裁判官について巨大法律事務所・東電・国との関係を指摘している。また、原子力規制庁の元職員が東電の代理人になったケースや、国・企業側に有利な判決を下した後に関連業界に再就職した複数のケースなどが挙げられる。
司法に求められる「中立・公正」とは程遠く、最高裁、国、東京電力を結ぶ巨大法律事務所の人脈は、およそ三権分立を信じられるものではない。
海渡弁護士は、裁判運営の適正が問われた寺西判事補懲戒処分事件(平成10年12月1日)の最高裁判決の以下の言葉を引用する。
「司法に対する国民の信頼は、具体的な裁判の内容の公正、裁判運営の適正はもとより当然のこととして、外見的にも中立・公正な裁判官の態度によって支えられるからである」
「草野裁判官は、外見的に中立・公正とはいえない」「裁判の公正を妨げるべき事情にあたる(民訴法24条1項)」と指摘し、「我々が考えているほど、この社会は公正ではない。腐敗は司法にも及んでいて、倫理なき司法になっているのではないか」と懸念をのぞかせていた。
支援団は2月11日には、「大手法律事務所に支配される最高裁!東電刑事裁判で改めて問われる司法の独立 東京集会」と題して、後藤氏の講演会も企画している。司法は独立しているのか、東電刑事裁判の行方はどうなるのか。最高裁の判断が注目される。