学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

里見『恋ごころ』

2010-10-22 22:37:54 | 読書感想
晴天の祈りは届かず、今日は秋の曇日でした。往来を通ると、足元にはだいぶ枯葉が落ちています。こないだまで木には青々とした葉っぱがあったのに、だんだん色が赤く、黄色く染まってきました。早い葉っぱだとこうして地面に急いで落ちてくる。風が吹くとかさりかさりと音がなって。季節はしっかりと進んでいるようです。

明治から昭和にかけて活躍した小説家里見(さとみ とん)の『恋ごころ』を読みました。里見は、兄に小説家の有島武郎、画家の有島生馬がおり、芸術的なセンスを持つ家庭に生まれたようです。なぜ、私が里見の本を読んだのか。これは縁と言わざるを得ないのだけれど、私は書店へ行って何気なく文庫本の背表紙を流し読みしていたんですね。でも、どうもひっかかるものがない。それで帰ろうかなと後ろを振り返ったら、背後の本棚にパッと目に付いたのが里見。要するに偶然だったわけですね(笑)私の眼に留まったのは何かの縁かな?と思い、買って来たところがなかなか面白い。書店に行くと、こんな運命的な出会いがあるから楽しいですね。

『恋ごころ』は、小説家として大家となった悦五郎が岩手県盛岡での初恋を回想し、その後の妙な因縁を書いた小説です。話はとても心温まる内容ですが、ラストはちょっと寂しくもあり。短編で、うまくまとまっている小説ではないかと思います。私が感じたのは、日本語がとても綺麗であること。盛岡の情景が眼に浮ぶような描写です。私もこういう描写力を持ちたいもの…。やはり訓練あるのみ、でしょうか。この本は短篇集ですから、まだまだ小説が詰まっています。一日一作、里見の世界を楽しんでみたいと思います。