機微核技術(SNT)への日本政府の強い執着の背景にあるのが、「国家安全保障のための原子力」という公理だ。日本は核武装をさし控えるが、核武装のための技術的・産業的な潜在力を保持する方針をとり、それを日本の安全保障政策の不可欠の部分とする、というわけだ。
この公理に立脚した核戦略は、「核武装スタンバイ戦略」と呼び得る。この戦略は、日米(軍事)同盟のスタビライザーとしての機能を担う。
(1)米国の大方の軍事・外交関係者から見ると、日本の核武装は絶対に容認できない。日本の軍事・外交の自主性の向上に寄与し、結果として日米同盟を不安定化させるからだ。
しかし、日本の「核武装スタンバイ戦略」保持は米国にとっても利益がある。
(a)米国はこれを中国をはじめ東アジア諸国に対して外交カードとしてさまざまの形で利用できる。
(b)日本が機微核技術開発をやめてしまえば、この外交カード自体がなくなってしまう。
(c)核兵器非保有国のなかで日本に対してのみ、機微核技術開発利用の特権を付与することで、日本の関係者の欲求不満を懐柔し、米国への忠誠心を高める効果がある。
(2)日本の大方の関係者から見ると、核武装の権利を封じられるのは不本意だ。しかし、日本の「核武装スタンバイ戦略」保持は、米国に対する外交カードとなり、米国のいわゆる「核の傘」がいかなる場合にも確実に機能することの担保となる。米国が「核の傘」政策を少しでも弱めれば、日本は離反し、核武装に走るかもしれない、という米国関係者の恐怖心が「核の傘」の確実性の担保となるわけだ。
(3)「核武装スタンバイ戦略」は日米双方にとってメリットがある。
(a)米国から見た日本の軍事的機能は、冷戦終結を境として、「東西冷戦の前進基地」から「アジア全域への軍事力投射のハブ基地」へと変化した。だが、米国の世界軍事戦略における最重要拠点としての日本の位置は微塵も揺らいでいない。日米同盟は米国の生命線だ。それに「核の傘」をかぶせることは、米国自身の利害関心に根ざす。
(b)日本の安全保障政策関係者から見ても、「核の傘」は日本の安全保障政策の心臓部に相当する。必ず機能することが必要だ。
(3)「国家安全保障のための原子力」には、軍事面以外に、先進的な核技術・核産業を持つことが世界の「一等国」としての国家威信の大きな源泉となる、という含蓄がある(「原子力は国家なり」。
第二次世界大戦期の日本特有の歴史的経緯も手伝って、「国家安全保障」にはエネルギー安全保障の含蓄もある。当時の日本経済における石油依存度は低かったが、軍用燃料としての役割は絶大だった。一般国民向けには、この含蓄が強調して語られる。この公理の観点からは、殊に機微核技術に高い価値が与えられる。
国家安全保養との密接なリンケージゆえに、原子力政策は日本でも今日まで国家の基本政策の一分野であると考えられてきた。「原発推進は国策」という常套句には、国家安全保障の根幹をなす政策だから服従するしかない、という強迫観念が込められていることが多い【注】。
【注】数々の原発裁判で原告が敗北を重ねたのは、裁判官がこの「公理」に幻惑されたからだと思われる。
以上、吉岡斉『脱原子力国家への道』(岩波書店、2012)の第6章「日米原子力同盟の形成と展開」に拠る。
【参考】
「【原発】『脱原子力国家への道』」
「【原発】日本政府はなぜ脱原発に舵を切れないか ~日米原子力同盟~」
「【原発】福島原発事故による被害の概要」
「【原発】福島原発事故の教訓」
「【原発】エネルギー一家の家族会議 ~総合資源エネルギー調査会~」
「【原発】脱原子力へ向かう時代 ~社会史~」
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この公理に立脚した核戦略は、「核武装スタンバイ戦略」と呼び得る。この戦略は、日米(軍事)同盟のスタビライザーとしての機能を担う。
(1)米国の大方の軍事・外交関係者から見ると、日本の核武装は絶対に容認できない。日本の軍事・外交の自主性の向上に寄与し、結果として日米同盟を不安定化させるからだ。
しかし、日本の「核武装スタンバイ戦略」保持は米国にとっても利益がある。
(a)米国はこれを中国をはじめ東アジア諸国に対して外交カードとしてさまざまの形で利用できる。
(b)日本が機微核技術開発をやめてしまえば、この外交カード自体がなくなってしまう。
(c)核兵器非保有国のなかで日本に対してのみ、機微核技術開発利用の特権を付与することで、日本の関係者の欲求不満を懐柔し、米国への忠誠心を高める効果がある。
(2)日本の大方の関係者から見ると、核武装の権利を封じられるのは不本意だ。しかし、日本の「核武装スタンバイ戦略」保持は、米国に対する外交カードとなり、米国のいわゆる「核の傘」がいかなる場合にも確実に機能することの担保となる。米国が「核の傘」政策を少しでも弱めれば、日本は離反し、核武装に走るかもしれない、という米国関係者の恐怖心が「核の傘」の確実性の担保となるわけだ。
(3)「核武装スタンバイ戦略」は日米双方にとってメリットがある。
(a)米国から見た日本の軍事的機能は、冷戦終結を境として、「東西冷戦の前進基地」から「アジア全域への軍事力投射のハブ基地」へと変化した。だが、米国の世界軍事戦略における最重要拠点としての日本の位置は微塵も揺らいでいない。日米同盟は米国の生命線だ。それに「核の傘」をかぶせることは、米国自身の利害関心に根ざす。
(b)日本の安全保障政策関係者から見ても、「核の傘」は日本の安全保障政策の心臓部に相当する。必ず機能することが必要だ。
(3)「国家安全保障のための原子力」には、軍事面以外に、先進的な核技術・核産業を持つことが世界の「一等国」としての国家威信の大きな源泉となる、という含蓄がある(「原子力は国家なり」。
第二次世界大戦期の日本特有の歴史的経緯も手伝って、「国家安全保障」にはエネルギー安全保障の含蓄もある。当時の日本経済における石油依存度は低かったが、軍用燃料としての役割は絶大だった。一般国民向けには、この含蓄が強調して語られる。この公理の観点からは、殊に機微核技術に高い価値が与えられる。
国家安全保養との密接なリンケージゆえに、原子力政策は日本でも今日まで国家の基本政策の一分野であると考えられてきた。「原発推進は国策」という常套句には、国家安全保障の根幹をなす政策だから服従するしかない、という強迫観念が込められていることが多い【注】。
【注】数々の原発裁判で原告が敗北を重ねたのは、裁判官がこの「公理」に幻惑されたからだと思われる。
以上、吉岡斉『脱原子力国家への道』(岩波書店、2012)の第6章「日米原子力同盟の形成と展開」に拠る。
【参考】
「【原発】『脱原子力国家への道』」
「【原発】日本政府はなぜ脱原発に舵を切れないか ~日米原子力同盟~」
「【原発】福島原発事故による被害の概要」
「【原発】福島原発事故の教訓」
「【原発】エネルギー一家の家族会議 ~総合資源エネルギー調査会~」
「【原発】脱原子力へ向かう時代 ~社会史~」
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