(1)進む避難区域再編と補償打ち切り
今年4月から、避難区域の再編が矢継ぎ早に実施されている。計画的避難区域が3区域(①避難指示解除準備区域、②居住制限区域、③帰還困難区域)に再編された。主眼は、「帰還」を促す点にある。3区域は、帰還までにに要する時間の違いによって分かたれた。
避難指示が解除されれば、避難によって生じていた被害はなくなる。よって、補償を打ち切る。・・・・というロジックが底にある。
ある程度まとまった「手切れ金」を払って、補償を終わらせていくのだ。
今年7月下旬、経産省と東電によって、「手切れ金」の詳細が発表された。経産省が補償の「考え方」を示し、東電が具体的な基準を公表するかたちをとっている。
区域再編と補償打ち切りは、政府の「事故収束」宣言(昨年12月16日)に端を発する。
(2)帰還をうながす「アメとムチ」
政府は、「事故収束」宣言以降、かなり強引に住民の帰還を推し進めようとしている。補償打ち切りも、その中に位置づけられる。これは、「復興」施策と連動している。
補償打ち切りとともに、雇用などのかたちで帰還をうながすインセンティブを与えていく・・・・「原子力損害賠償円滑化会議」における経産省の発言に、かかる姿勢がはっきり読み取れる。補償打ち切りは、少なくとも「復興」のための必要条件と考えられている。補償打ち切り後の、避難者の生活再建に向けた政策的対応は、復興施策全般の中に「解消」されていくことになる。
こうした「考え方」の中で経産省は、帰還者と移住者に対する補償条件を同一にし、帰還か移住かの判断に影響を与えないよう努めた、と述べている。たしかにそうだが、他方では補償打ち切りの方向性は明確に示されている(これこそ肝心な点)。
(3)加害者「主導」の補償打ち切り
原賠法によれば、原子力損害賠償紛争審査会が被害補償に関する「一般的な指針」を策定することになっている。昨年8月以来、紛争審の指針を踏まえて東電が独自の補償基準を作成し、請求を受け付ける、という流れが定着してきた。
紛争審の指針は、裁判をしなくても補償されることが明らかな被害を列挙したものであり、しかも最低限の目安だ。しかし、東電は、指針を補償の「天井」のように扱い、それ以上の支払いを容易に認めない。のみならず、指針に書かれていない基準を勝手に決めて補償範囲を限定しようとしたり、指針に明示された補償を策送りしようとした。
世論の批判が強まって、東電は次第に譲歩を余儀なくされていった。また、紛争審の指針自体にも、補償範囲を狭く限定している、という批判が集まったので、昨年12月、「自主避難」に係る指針の追補が決まり、補償範囲の拡大などの動きが見られた。
昨年8月、新法ができて東電はつぶれないことになった。東電の「まきかえし」が始まった。補償基準策定プロセスを紛争審から東電の手元に奪い取ってしまったのだ。
紛争審は、今年3月に第二次追補を策定して以来、8月まで開催されなかった。その間に、東電と、東電と関係浅からぬ経産省とが(2)の「考え方」と補償基準を公表してしまった。
8月の紛争審では、経産省と東電が前記「考え方」を説明した。これまでと立場が逆転している。紛争審の役割後退は明らかだ。
(4)生活基盤「再取得」の補償を
7月に出した基準のなかで、東電は財物に対する補償方法と「包括請求方式」を示している。(1)の「手切れ金」とは、このことだ。財物(土地・家屋など)や慰謝料などが、将来にわたり数年分を一括請求できるよう「工夫」されている。このうち財物の補償は、東電が先送りしていたもので、やっと基準を示したものだ。
その基準によれば、土地・家屋について、
(a)(1)-③・・・・「事故前の価値」の全額を補償。
(b)(1)-①、②・・・・事故時点から6年で全損、早く帰還できた場合はそれに応じて補償を減額。
(c)(a)において家屋は、「事故前の価値」に「経年減価」が考慮される。<例>築48年以上の家屋は新築価格の2割しか補償されない。
(b)の減額措置が示されたため、特に汚染が深刻な地域で、早期帰還をためらう自治体が出ている。大熊・富岡・浪江の各町長は、住民の賠償条件を一律(全損)にするため、町としては5年間は戻らない方針を明らかにしている。復興を進めるには「逆効果」だった。
また、(c)の減額措置に、自治体から反発が出ている。原発事故被害地域には古い家屋が多いからだ。
(b)と(c)の減額措置が適用されると、新たに住居を取得するのが困難になる場合もあり得る。
住居を再取得すると言っても、あくまで居住スペースの確保にすぎず、原状回復からはほど遠い点に留意しなくてはならない。
さらに、比較的新しい家屋の場合でも、ローンが残っているかもしれない。
個々の事情によって異なるが、財物の補償より慰謝料などの他の補償が多くなることもあろう。
(続く)
以上、除本理史「原発避難者に迫る補償打ち切り」(「世界」2012年10月号)に拠る。
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今年4月から、避難区域の再編が矢継ぎ早に実施されている。計画的避難区域が3区域(①避難指示解除準備区域、②居住制限区域、③帰還困難区域)に再編された。主眼は、「帰還」を促す点にある。3区域は、帰還までにに要する時間の違いによって分かたれた。
避難指示が解除されれば、避難によって生じていた被害はなくなる。よって、補償を打ち切る。・・・・というロジックが底にある。
ある程度まとまった「手切れ金」を払って、補償を終わらせていくのだ。
今年7月下旬、経産省と東電によって、「手切れ金」の詳細が発表された。経産省が補償の「考え方」を示し、東電が具体的な基準を公表するかたちをとっている。
区域再編と補償打ち切りは、政府の「事故収束」宣言(昨年12月16日)に端を発する。
(2)帰還をうながす「アメとムチ」
政府は、「事故収束」宣言以降、かなり強引に住民の帰還を推し進めようとしている。補償打ち切りも、その中に位置づけられる。これは、「復興」施策と連動している。
補償打ち切りとともに、雇用などのかたちで帰還をうながすインセンティブを与えていく・・・・「原子力損害賠償円滑化会議」における経産省の発言に、かかる姿勢がはっきり読み取れる。補償打ち切りは、少なくとも「復興」のための必要条件と考えられている。補償打ち切り後の、避難者の生活再建に向けた政策的対応は、復興施策全般の中に「解消」されていくことになる。
こうした「考え方」の中で経産省は、帰還者と移住者に対する補償条件を同一にし、帰還か移住かの判断に影響を与えないよう努めた、と述べている。たしかにそうだが、他方では補償打ち切りの方向性は明確に示されている(これこそ肝心な点)。
(3)加害者「主導」の補償打ち切り
原賠法によれば、原子力損害賠償紛争審査会が被害補償に関する「一般的な指針」を策定することになっている。昨年8月以来、紛争審の指針を踏まえて東電が独自の補償基準を作成し、請求を受け付ける、という流れが定着してきた。
紛争審の指針は、裁判をしなくても補償されることが明らかな被害を列挙したものであり、しかも最低限の目安だ。しかし、東電は、指針を補償の「天井」のように扱い、それ以上の支払いを容易に認めない。のみならず、指針に書かれていない基準を勝手に決めて補償範囲を限定しようとしたり、指針に明示された補償を策送りしようとした。
世論の批判が強まって、東電は次第に譲歩を余儀なくされていった。また、紛争審の指針自体にも、補償範囲を狭く限定している、という批判が集まったので、昨年12月、「自主避難」に係る指針の追補が決まり、補償範囲の拡大などの動きが見られた。
昨年8月、新法ができて東電はつぶれないことになった。東電の「まきかえし」が始まった。補償基準策定プロセスを紛争審から東電の手元に奪い取ってしまったのだ。
紛争審は、今年3月に第二次追補を策定して以来、8月まで開催されなかった。その間に、東電と、東電と関係浅からぬ経産省とが(2)の「考え方」と補償基準を公表してしまった。
8月の紛争審では、経産省と東電が前記「考え方」を説明した。これまでと立場が逆転している。紛争審の役割後退は明らかだ。
(4)生活基盤「再取得」の補償を
7月に出した基準のなかで、東電は財物に対する補償方法と「包括請求方式」を示している。(1)の「手切れ金」とは、このことだ。財物(土地・家屋など)や慰謝料などが、将来にわたり数年分を一括請求できるよう「工夫」されている。このうち財物の補償は、東電が先送りしていたもので、やっと基準を示したものだ。
その基準によれば、土地・家屋について、
(a)(1)-③・・・・「事故前の価値」の全額を補償。
(b)(1)-①、②・・・・事故時点から6年で全損、早く帰還できた場合はそれに応じて補償を減額。
(c)(a)において家屋は、「事故前の価値」に「経年減価」が考慮される。<例>築48年以上の家屋は新築価格の2割しか補償されない。
(b)の減額措置が示されたため、特に汚染が深刻な地域で、早期帰還をためらう自治体が出ている。大熊・富岡・浪江の各町長は、住民の賠償条件を一律(全損)にするため、町としては5年間は戻らない方針を明らかにしている。復興を進めるには「逆効果」だった。
また、(c)の減額措置に、自治体から反発が出ている。原発事故被害地域には古い家屋が多いからだ。
(b)と(c)の減額措置が適用されると、新たに住居を取得するのが困難になる場合もあり得る。
住居を再取得すると言っても、あくまで居住スペースの確保にすぎず、原状回復からはほど遠い点に留意しなくてはならない。
さらに、比較的新しい家屋の場合でも、ローンが残っているかもしれない。
個々の事情によって異なるが、財物の補償より慰謝料などの他の補償が多くなることもあろう。
(続く)
以上、除本理史「原発避難者に迫る補償打ち切り」(「世界」2012年10月号)に拠る。
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