9月3日、環境省は、栃木県の国有林野(矢板市塩田)を「指定廃棄物」の最終処分場の候補地に選定した、と発表した。
放射性物質汚染対策特別措置法の定める「指定廃棄物」とは、平たくいえば高濃度汚染ゴミのことだ。東電福島第一原発から放出された放射性物質は、大地、森、川に降り注いだ。これが、ゴミ焼却や水道・工業用水の浄水、下水処理の過程などで、8,000~10,000Bq/kgに濃縮され、高濃度汚染の灰や汚泥となった。
その最終処分場を選定するには、問題が山積みだ。
(1)最終処分場は、都道府県ごとに国が建設する。都道府県とは複数の候補地について協議するが、市町村とは協議しないし、住民との合意形成も行わない。
今回、横光克彦・環境副大臣が、突然矢板市役所を訪れ、市長にその場で断られた。
だが、環境省はこれに懲りず、今後他でもこのやり方を続ける、という。
(2)最終処分場には、遮蔽型の埋立施設のほか、焼却炉が併設される。環境省が林野庁や国土地理院などのデータで適地を複数抽出し、現地調査で絞り込むが、水道水源からの距離は考慮しても、灌漑用水の水源は考慮しない。
矢板市の場合、候補地は灌漑用の塩田ダムの集水域にある。
(3)指定廃棄物が大量だ。8月3日現在に環境省が把握しているだけで次のとおりだし、今後も増え続ける。
・福島県・・・・31,993トン
・栃木県・・・・ 4,444トン
・茨城県・・・・ 1,709トン
・千葉県・・・・ 1,018トン
・東京都・・・・ 982トン
・新潟県・・・・ 798トン
・群馬県・・・・ 724トン
・宮城県・・・・ 591トン
・岩手県・・・・ 315トン
(4)年間1mSvを下回るまでに100年はかかる、と環境省は考えているため、建設できたとしても、建設・管理費、地域が抱える健康・環境リスクは想像を絶する。
(5)最大の問題は、指定廃棄物の処分場だ、との報道とは裏腹に、公表資料には「10万Bq/kgを越える廃棄物も処分する可能性がある」とも書かれていることだ。特措法には、処理体制に係る定めはない。
一般ゴミや産廃施設でさえ、廃棄物処理法上、利害関係者は生活環境の見地から市町村長や知事に意見を出せる。ところが、指定廃棄物の場合にはほぼ無法状態で、地域の100年を左右する高濃度汚染ゴミを環境省の裁量だけで処理できる、としているのだ。
以上、まさのあつこ(ジャーナリスト)「問題山積の高濃度汚染ゴミ」(「週刊金曜日」2012年9月14日号)に拠る。
*
処分場候補地は、昔はナラやクヌギの木が多い雑木林だった。戦後、満州から引き揚げてきた農民たちが木を切って開拓し、炭焼きで生計を立てた。それから林業を興そうと、スギやヒノキを植えた。
茂みには細いせせらぎがあり、透明な水が音をたてて流れていく。数km下流の農業用水ダムに流れ入る。
近くには湧き水の水源があり、矢板市民の飲料水となるダムもある。しかも、処分場候補地の真下には、関谷断層という活断層が走っている。
処分場候補地から、わずか300mのところに人家が1軒ある。この家にはかつて阿久津川高一郎という人気力士が暮らし、「相撲道場」と呼ばれていた。今は高齢の男性が住まい、時々女性が訪れることもある。
「寝耳に水だった」と遠藤忠・矢板市長は、9月6日の説明会で強調した。政府の体腔について、「極秘のうちに候補地を絞って一気に知らせる。一方的で地元を無視した極めて卑劣なやり方」と痛罵し、「オール矢板」で反対運動を繰り広げると宣言した。
だが、市民は疑心暗鬼だ。
福田富市・栃木県知事は、遠藤市長が高校教諭だった頃の教え子。二人は昵懇だ。11月に選挙を控える知事は、溜まる一方の放射性物質の解決にめどをつけなければならない。知事の応援もあって今春の選挙に勝ち、3期目に入った遠藤市長は、年齢(71歳)からして次はない。教え子をアシストするつもりかもしれない。市内の放射線量は高く、農産物の風評被害がひどい。8月には、地元経済と雇用を支えるシャープ工場の大幅縮小が決まった。さらに、野党の渡辺喜美・みんなの党代表の選挙区で、政治力も弱い。政府にとって攻めやすい。【矢板市幹部】
以上、大場弘行(本誌)「彷徨う「放射性ゴミ」」(「サンデー毎日」2012年9月23日号)に拠る。
【参考】
「【原発】札幌市はなぜガレキ受け入れを拒否したのか ~内部被曝~」
「【原発】米子市の震災瓦礫受け入れ撤回要請書」
「【原発】ガレキ処理はなぜ進まないのか ~環境省の「環境破壊行政」~」
「【原発】放射能を全国にばらまく広域処理 ~バグフィルターの限界~」
「【震災】原発>亡国の日本列島放射能汚染 ~震災がれき広域処理~」
「【震災】ガレキ広域処理は真の被災地支援になっているか?」
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放射性物質汚染対策特別措置法の定める「指定廃棄物」とは、平たくいえば高濃度汚染ゴミのことだ。東電福島第一原発から放出された放射性物質は、大地、森、川に降り注いだ。これが、ゴミ焼却や水道・工業用水の浄水、下水処理の過程などで、8,000~10,000Bq/kgに濃縮され、高濃度汚染の灰や汚泥となった。
その最終処分場を選定するには、問題が山積みだ。
(1)最終処分場は、都道府県ごとに国が建設する。都道府県とは複数の候補地について協議するが、市町村とは協議しないし、住民との合意形成も行わない。
今回、横光克彦・環境副大臣が、突然矢板市役所を訪れ、市長にその場で断られた。
だが、環境省はこれに懲りず、今後他でもこのやり方を続ける、という。
(2)最終処分場には、遮蔽型の埋立施設のほか、焼却炉が併設される。環境省が林野庁や国土地理院などのデータで適地を複数抽出し、現地調査で絞り込むが、水道水源からの距離は考慮しても、灌漑用水の水源は考慮しない。
矢板市の場合、候補地は灌漑用の塩田ダムの集水域にある。
(3)指定廃棄物が大量だ。8月3日現在に環境省が把握しているだけで次のとおりだし、今後も増え続ける。
・福島県・・・・31,993トン
・栃木県・・・・ 4,444トン
・茨城県・・・・ 1,709トン
・千葉県・・・・ 1,018トン
・東京都・・・・ 982トン
・新潟県・・・・ 798トン
・群馬県・・・・ 724トン
・宮城県・・・・ 591トン
・岩手県・・・・ 315トン
(4)年間1mSvを下回るまでに100年はかかる、と環境省は考えているため、建設できたとしても、建設・管理費、地域が抱える健康・環境リスクは想像を絶する。
(5)最大の問題は、指定廃棄物の処分場だ、との報道とは裏腹に、公表資料には「10万Bq/kgを越える廃棄物も処分する可能性がある」とも書かれていることだ。特措法には、処理体制に係る定めはない。
一般ゴミや産廃施設でさえ、廃棄物処理法上、利害関係者は生活環境の見地から市町村長や知事に意見を出せる。ところが、指定廃棄物の場合にはほぼ無法状態で、地域の100年を左右する高濃度汚染ゴミを環境省の裁量だけで処理できる、としているのだ。
以上、まさのあつこ(ジャーナリスト)「問題山積の高濃度汚染ゴミ」(「週刊金曜日」2012年9月14日号)に拠る。
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処分場候補地は、昔はナラやクヌギの木が多い雑木林だった。戦後、満州から引き揚げてきた農民たちが木を切って開拓し、炭焼きで生計を立てた。それから林業を興そうと、スギやヒノキを植えた。
茂みには細いせせらぎがあり、透明な水が音をたてて流れていく。数km下流の農業用水ダムに流れ入る。
近くには湧き水の水源があり、矢板市民の飲料水となるダムもある。しかも、処分場候補地の真下には、関谷断層という活断層が走っている。
処分場候補地から、わずか300mのところに人家が1軒ある。この家にはかつて阿久津川高一郎という人気力士が暮らし、「相撲道場」と呼ばれていた。今は高齢の男性が住まい、時々女性が訪れることもある。
「寝耳に水だった」と遠藤忠・矢板市長は、9月6日の説明会で強調した。政府の体腔について、「極秘のうちに候補地を絞って一気に知らせる。一方的で地元を無視した極めて卑劣なやり方」と痛罵し、「オール矢板」で反対運動を繰り広げると宣言した。
だが、市民は疑心暗鬼だ。
福田富市・栃木県知事は、遠藤市長が高校教諭だった頃の教え子。二人は昵懇だ。11月に選挙を控える知事は、溜まる一方の放射性物質の解決にめどをつけなければならない。知事の応援もあって今春の選挙に勝ち、3期目に入った遠藤市長は、年齢(71歳)からして次はない。教え子をアシストするつもりかもしれない。市内の放射線量は高く、農産物の風評被害がひどい。8月には、地元経済と雇用を支えるシャープ工場の大幅縮小が決まった。さらに、野党の渡辺喜美・みんなの党代表の選挙区で、政治力も弱い。政府にとって攻めやすい。【矢板市幹部】
以上、大場弘行(本誌)「彷徨う「放射性ゴミ」」(「サンデー毎日」2012年9月23日号)に拠る。
【参考】
「【原発】札幌市はなぜガレキ受け入れを拒否したのか ~内部被曝~」
「【原発】米子市の震災瓦礫受け入れ撤回要請書」
「【原発】ガレキ処理はなぜ進まないのか ~環境省の「環境破壊行政」~」
「【原発】放射能を全国にばらまく広域処理 ~バグフィルターの限界~」
「【震災】原発>亡国の日本列島放射能汚染 ~震災がれき広域処理~」
「【震災】ガレキ広域処理は真の被災地支援になっているか?」
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