語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【新聞】政策を不十分にしか伝えていないマスメディア ~質問力が弱い~

2012年09月26日 | 社会
 (1)政治の季節だが、政策に関する報道が極めて不十分だ。政策に関する論議のあり方を再検討すべきだ。

 (2)各政党が選挙に向けて準備する政策綱領やマニフェストは、これまでお飾りにすぎなかった。
 本来は、政策実現のために政権をとるのだが、日本では「政権を取るために政策を並べる」だけだ。政権が目標であって、政策は手段にすぎない。
 しかも、日本の政策論議は、ディベートの形をとらない言い放しが多いので、無責任になりがちだ。とりわけ、政権を取る可能性が低い政党の場合、そうなる。いいとこ取りで、整合性がない。このため、
  (a)財源の裏付けのない政策、必要性の疑わしい人気取りのための政策が堂々と主張される。<例>2009年の民主党のマニフェスト。
  (b)抽象的な文言が多い。<例>「住みよい社会をつくる」「日本の活力を復活させる」・・・・問題は、住みよさや活力を具体的にどのようにして実現するか、だ。それを欠く政策綱領は、一方的で空虚な宣伝文書にすぎない。
 こうなるのは、政治理念がはっきりしないからだ。

 (3)自民党政権時代の選挙民と政党との意思疎通は、利益団体(<例>農業関連団体などの職業団体)の政治家に対する陳情ないし要請、その見返りとしての票の提供という形で行われてきた。
 民主党政権になって、この構図には変化が生じた。しかし、政策を要求するのが職業団体であることに変わりはなく、よって政策は依然として生産者・供給者の側からのものに偏っている。逆に言えば、消費者の立場は政治に反映されない(例外は脱原発官邸デモ)。
 この状況を変えるには、利益団体と政治の間で非公開のチャンネルを通じて行われてきた政策論議=票と交換での政策要求をオープンなものとする必要がある。

 (4)日本のマスメディアは、政党の政策を伝えるに、伝え方が不十分だ。
  (a)政党の政策をそのまま伝えるだけであって、積極的に質問して問題点を指摘することが少ない(政府が推進しようとする政策についても、同じく)。
  (b)「質問力」が弱い。「経済政策の基本方針は?」といった質問をしている。これでは総花的、非整合的、抽象的な答を許すだけだ。勉強不足だ。正しい質問は、問題を正確に捉えて、初めてできる。
  (c)実に容易なレッテル貼りをする。賛成派、反対派に区別したがる。脱原発、消費税、TPP、すべてそうだ。最初から分析を放棄し、政策提案者の路線に取り込まれている。
  (d)前提によって答が大きく変わる問題も多いのだが、これに留意しない。<例>電力需要量は今後の経済成長率や製造業の比重によって大きく変わる。真に重要な論点は「今後どの程度の製造業活動を日本に残すか」なのだが、日本のマスメディアは、原発依存度だけを取り出して「脱原発か否か」だけを訊く。まったく無意味な質問だ。

 (5)選挙民は、受動的に政党のマニフェストや政策綱領を受け取るだけでなく、積極的に政党に質問すべき。具体的な政策に関して、数字を訊くほうがよい。<例>経済政策に関しては、次の3つ。
  (a)社会保障制度、ことに年金制度をどう改革するか。それによって、10年後の国の一般会計社会保障関係費をいくらにするか。
  (b)税制をどう構築するか。10年後の国の一般会計税収をいくらにするか(今後10年間の年間名目成長率を2%と仮定)。
  (c)10年後の国の一般会計の赤字をいくらにするか。 

 (6)(5)は、財政運営に係る質問だが、経済政策の基本的な方向は(5)に集約される。為替レート、産業構造は、基本的には市場が決めるべきもので政府は関与しないほうがよい。
 なお、(5)は公約にしなくともよい。選挙の際の判断材料にすぎない。状況が変われば、あるいは目標が誤りだったとわかれば変更すればよい(ただし、次の選挙でマイナスに考慮される)。

 以上、野口悠紀雄「政策論議のやり方を考え直す必要がある ~「超」整理日記No.628~」(「週刊ダイヤモンド」2012年9月29日号)
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