(1)8月10日、三党修正の内容のまま「社会保障制度改革推進法」が成立した。
三党修正に至る過程で明らかになったことは、社会保障・税一体改革と称しながら、消費税増税と法人税減税のみが先行し、社会保障の拡充はなく、むしろ社会保障費の削減が「改革」のねらいにほかならないことだ。
(2)当初、(a)医療の高額療養費の見直し(負担上限の引き下げ)による負担軽減と併せて、(b)受診時の定額負担制度の導入が検討されていた。
(b)は、外来患者の窓口負担(原則3割)に、受診のたびに一定額を上乗せするものだ(当初は1回当たり100円程度)。
(b)により、(a)の財源(1,300億円程度)を確保する予定だった。
しかし、(b)は患者の受診抑制を招く、と日本医師会などから批判が続出し、民主党内でも反対が強く、見送りになった。
本来は、(a)に必要な財源は、医療保険料の引き上げと公費負担の増大で賄うのが筋だ。しかし、賃金下落による保険料収入の減少に加え、後期高齢者支援金の増大などにより、大幅な保険料の引き上げを余儀なくなされている協会けんぽや健康保険組合側から、さらなる保険料引き上げに対する反発が強く【注】、財源の捻出が難しくなった。結局、(a)も先送りされた。
(3)民主党がマニフェストに掲げていた後期高齢者医療制度の廃止は、都道府県などからの反対が強く、2012年度通常国会への見直し法案提出は中止された。そして、社会保障制度改革国民会議の議論に委ねられることになった。
(4)高齢者医療制度の見直しは、高齢者医療制度改革会議が「高齢者のための新たな医療制度等について(最終とりまとめ)」を2010年12月に発表し、後期高齢者医療制度に代わる新制度案を提示している。それによると、
(a)75歳以上の高齢者のうち、被用者保険に加入している被用者や扶養家族(200万人)・・・・引き続き被用者保険に加入。
(b)残りの大多数(1,400万人)・・・・都道府県が財政運営する別枠の国民健康保険に加入。
とはいえ、新制度案でも、高齢者は都道府県単位の国民健康保険に加入しつつも、別会計とされ、独自の保険料を負担するため、後期高齢者制度と同様、医療給付が増大すれば保険料引き上げにつながる仕組みが残っている。
しかも、高齢者医療制度の公費負担部分(給付費の5割)は、「社会保障4経費」の一つとして、消費税ですべて賄うことになる。だから、医療給付費の増大は、消費税引き上げにも繋がる。
(5)75歳以上の高齢者に賦課される後期高齢者医療保険料は、2012年4月から、全国平均5,561円(前年より312円増)、43都道府県で引き上げられている。
にもかかわらず、一体改革大綱では、(a)現行の低所得者向け後期高齢者保険料軽減追加措置を段階的に縮小するとともに、(b)1割負担に据え置かれている70~74歳の高齢者の一部負担金を、2013年度に70歳に達した人から順次、法定の2割負担に引き上げる、とされている(2012年度は予算措置を継続し1割のまま)。
(6)2012年度の診療報酬改定は、(a)薬価部分は至上価格を反映して1.375%引き下げ、(b)本体部分は、1.379%引き下げ、全体で0.004%引き上げにとどまった。
(b)は5,500億円の増額で、病院勤務医などの処遇改善、癌治療、認知症治療の推進などに重点的に配分される。しかし、要望の強かった診療所の再診料の改定は見送られた。
【注】特に協会けんぽ(健康保険協会管掌健康保険)の場合、2012年度の平均保険料率は10.04%(2011年度9.5%)で10%を超える水準となり、3年連続の引き上げとなっている。しかも、上昇分の半分以上は、後期高齢者支援金・前期高齢者納付金などの拠出金の増加だ。
以上、伊藤周平「社会保障・税一体改革と生活保護制度改革」(「現代思想」2012年9月号)に拠る。
↓クリック、プリーズ。↓
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三党修正に至る過程で明らかになったことは、社会保障・税一体改革と称しながら、消費税増税と法人税減税のみが先行し、社会保障の拡充はなく、むしろ社会保障費の削減が「改革」のねらいにほかならないことだ。
(2)当初、(a)医療の高額療養費の見直し(負担上限の引き下げ)による負担軽減と併せて、(b)受診時の定額負担制度の導入が検討されていた。
(b)は、外来患者の窓口負担(原則3割)に、受診のたびに一定額を上乗せするものだ(当初は1回当たり100円程度)。
(b)により、(a)の財源(1,300億円程度)を確保する予定だった。
しかし、(b)は患者の受診抑制を招く、と日本医師会などから批判が続出し、民主党内でも反対が強く、見送りになった。
本来は、(a)に必要な財源は、医療保険料の引き上げと公費負担の増大で賄うのが筋だ。しかし、賃金下落による保険料収入の減少に加え、後期高齢者支援金の増大などにより、大幅な保険料の引き上げを余儀なくなされている協会けんぽや健康保険組合側から、さらなる保険料引き上げに対する反発が強く【注】、財源の捻出が難しくなった。結局、(a)も先送りされた。
(3)民主党がマニフェストに掲げていた後期高齢者医療制度の廃止は、都道府県などからの反対が強く、2012年度通常国会への見直し法案提出は中止された。そして、社会保障制度改革国民会議の議論に委ねられることになった。
(4)高齢者医療制度の見直しは、高齢者医療制度改革会議が「高齢者のための新たな医療制度等について(最終とりまとめ)」を2010年12月に発表し、後期高齢者医療制度に代わる新制度案を提示している。それによると、
(a)75歳以上の高齢者のうち、被用者保険に加入している被用者や扶養家族(200万人)・・・・引き続き被用者保険に加入。
(b)残りの大多数(1,400万人)・・・・都道府県が財政運営する別枠の国民健康保険に加入。
とはいえ、新制度案でも、高齢者は都道府県単位の国民健康保険に加入しつつも、別会計とされ、独自の保険料を負担するため、後期高齢者制度と同様、医療給付が増大すれば保険料引き上げにつながる仕組みが残っている。
しかも、高齢者医療制度の公費負担部分(給付費の5割)は、「社会保障4経費」の一つとして、消費税ですべて賄うことになる。だから、医療給付費の増大は、消費税引き上げにも繋がる。
(5)75歳以上の高齢者に賦課される後期高齢者医療保険料は、2012年4月から、全国平均5,561円(前年より312円増)、43都道府県で引き上げられている。
にもかかわらず、一体改革大綱では、(a)現行の低所得者向け後期高齢者保険料軽減追加措置を段階的に縮小するとともに、(b)1割負担に据え置かれている70~74歳の高齢者の一部負担金を、2013年度に70歳に達した人から順次、法定の2割負担に引き上げる、とされている(2012年度は予算措置を継続し1割のまま)。
(6)2012年度の診療報酬改定は、(a)薬価部分は至上価格を反映して1.375%引き下げ、(b)本体部分は、1.379%引き下げ、全体で0.004%引き上げにとどまった。
(b)は5,500億円の増額で、病院勤務医などの処遇改善、癌治療、認知症治療の推進などに重点的に配分される。しかし、要望の強かった診療所の再診料の改定は見送られた。
【注】特に協会けんぽ(健康保険協会管掌健康保険)の場合、2012年度の平均保険料率は10.04%(2011年度9.5%)で10%を超える水準となり、3年連続の引き上げとなっている。しかも、上昇分の半分以上は、後期高齢者支援金・前期高齢者納付金などの拠出金の増加だ。
以上、伊藤周平「社会保障・税一体改革と生活保護制度改革」(「現代思想」2012年9月号)に拠る。
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