語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】主導はなぜ挫折したか ~民主党の躓きの原因と背景~

2012年09月15日 | 社会
 民主党は、なにゆえに政治主導に失敗したか。これを検証しておくことは、民主党のみならず現在の野党にとっても必要なことだ。

(1)閣僚は素人では務まらない
 (a)本来、政治主導にとって大切なことは、国民の代表である政治家が官僚にミッションを与え、それを実行させるところにある。
 (b)現実には、新閣僚の多くが大臣就任記者会見に先立ち、官僚から役所の課題を注入され、それを暗記させられていた。それが真に国民のためになるのかどうか、政権与党の方針に沿っているかどうか、じっくり吟味するだけの時間的余裕も基礎知識も持ち合わせないままに。
 (c)自公政権時代、も事情は似たり寄ったりだった。
 (d)(c)を反面教師として政治主導を唱え、政権交代を果たしたからには、民主党は閣僚人事に細心の注意を払うべきだった。その注意は、役所を導くだけの力量がある人材かどうかという点に向けられなければならなかった。
 (e)野党時代の「次の内閣」を活用して、人材を養成ないし確保しておくこともできたはずだ。「次の内閣」の閣僚として、該当の省に関係する政策について、批判的な視点を持ちつつ把握しておく。その知見を携えて政権交代後の内閣を形成すれば、政権の引継ぎと政策転換がスムースに行える。
 (f)ところが民主党は、政権をとった段階でホンモノの閣僚を決めるに当たり、「次の内閣」の閣僚はほとんど無視されていた。「次の内閣」の閣僚人事がいい加減だったか、その閣僚たちが研鑽を積まなかったのか、政権交代を果たしたら人事に別の圧力が加わったのか。
 (g)かくて、閣僚の中には、その分野に素人で、官僚機構の内部事情にも疎い人が目立った。これでは官僚を指導するには非力すぎる。民主党は、政権交代直後から、すでに政治主導に躓いていた。

(2)政治任用を柔軟に行える仕組みの導入を
 (a)政治主導を果たす上で、閣僚を支える体制が重要だ。
 (b)省内では副大臣・大臣政務官が政治任用され、大臣を補佐するが、大臣を含めてわずか数人の政務三役では数が少なすぎる。特に国会開会中は、拘束時間が長い。省内には官僚に方向を示さなければならない案件が山ほどあるのに、これらを丁寧に点検する時間を見つけるのは容易でない。副大臣および政務官の定数が国家行政組織法で定められているから、勝手に増やすわけにはいかない。
 (c)副大臣および政務官以外の省内の職も政治任用による人事があってよい。外局の長や局長ポストに、その分野に精通した政治家を充てれば、官僚人事システムの惰性を排することにもつながる。だが、国会法により、これも基本的には禁止されている。
 (d)片山善博が総務大臣兼地域主権改革担当大臣を務めていたとき、政務官の一人に地域主権戦略室長を兼務してもらった。官僚の権限を縮小ささせることになる業務の事務方の総括に、従来のしきたりどおり官僚が就くと、地域主権改革が先行しない恐れがあったからだ。その結果、国庫補助金一括交付金化や国の地方出先機関改革などの難題を大きく進めることができた。
 (e)(d)は「兼務」を便法として活用したからこそできたが、一般的にこの類の人事が行えるわけではない。民主党は政権交代直後に、国会法の該当の規定を含め、政治主導を実践する際に足枷となる現行法制を速やかに手直ししておくべきだった。

(3)せめて霞が関改革ぐらいは党内の意思統一を
 (a)閣僚は、マニフェストに共通の認識、了解を持っていなかった。 
 (b)珍妙な例・・・・マニフェストに記述されている国の地方出先機関改革を具体化させる段階になると、関係省の副大臣や政務官が猛烈に反対した。官僚から吹き込まれた屁理屈をひたすら言い募った。マニフェストなど自分には関係ないとでも言わんばかりだった。
 (c)せっかくの改革プランが身内の政治家によって共有されていなかった。その空隙をついて、官僚が彼らの論理を政治家に注入した。改革は力を失い、野田内閣のもとではとうとうフェイド・アウトしかかっている。霞が関改革ぐらいは党内で共有しておくべきだった。与党の国会議員が官僚とつるんで改革を骨抜きにするようでは政治主導など望むべくもないからだ。

 以上、片山善博「「政治主導」はなぜ挫折したか ~片山善博の「日本を診る」第36回~」(「世界」2012年10月号)に拠る。

 【参考】
【政治】野田佳彦・ザ・財務省の傀儡、民主党の来るべき凋落 ~歴史はくり返す~
【政治】片山善博の、なぜ政治が機能しないのか
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