大阪維新の会「維新八策最終版」(8月31日まとめ)は、消費税の地方税化を提言している。しかし、この提言は、地方分権と矛盾する。
(1)論点の整理
(a)維新八策は、現行の地方消費税(1%)の比率を高め、5%のすべてを地方消費税にするということか?
(b)(a)ならば、消費税の徴収は国が行い、税収は地方が全額もらう、ということで、単なる国と地方の税収の取り合いの問題にすぎない。
(c)しかも、徴税は国、税収は地方、というのは究極の国依存だ。その結果、地方への配分に関して恣意的な判断が被梅雨とされれば、国の権限は強くなる(地方分権と正反対の方向)。
(d)維新八策は、地方交付税の廃止を提言している。その場合、消費税全額を地方に回しても、地方の取り分は現在より13兆円程度減少する。
(e)(d)の減少を補うには、消費増税する必要がある。住民税・事業税が今後伸び悩むから、将来の消費増税は不可避だ。
(f)(b)ならば税収を全部地方へもって行かれるから、(e)の消費増税の作業を国が行うインセンティブはなくなる。
(g)(f)からして、(a)を実施するには、各地方自治体が消費税を徴収し、それを自らの財源とする方式しかあり得ない。
(2)(1)-(g)の問題点
(a)税収の地点と公共サービスの地点が一致しない。
<例>埼玉県の住民の多くが東京に通勤し、そので食事・買物をして、消費税は東京都の収入になる。他方、埼玉県の自治体が提供するサービスは、警察・消防・清掃など住民に対するものだ。よって、ベッドタウン的自治体は、支出は必要だが、それを賄う財源がない状態に陥る。
(b)現行の地方消費税では、地方への配分に当たり、(a)を考慮して調整している。中央集権的制度ゆえに問題が軽減されている。しかし、地方が自ら徴税することとすると、こうした調整が行えなくなる。
(c)本来の地方分権を目指すのであれば、消費税率も各自治体が独自に決定できることとすべきだ。しかし、そうすると、税率の低い自治体に消費が流れる、という問題が生じる。
<例>埼玉県は住民が多く、対住民サービスの必要量が多いので財源確保のため消費税率は高い、と仮定する。他方、栃木県の消費税率は低い、と仮定する。その場合、埼玉県民は栃木県で買物して消費税負担額を減らそうとする。
(d)(c)の結果生じる問題は、最終段階にとどまらない。取引の中間段階で生じる問題は、さらに深刻で複雑だ。①税率の高い自治体と②税率の低い自治体が混在すると、業者は②の業者から購入しようとする。今の日本のようにインボイスがないと、全国平均税率での控除になり、②の業者からの仕入れには益税が発生し、①の業者からの仕入れでは消費税を負担するか、売上価格を引き上げざるを得なくなる。→①の業者の売上げは減少する。→業者は①から逃げ出す。
(e)かくして、かなり大きな経済的攪乱が生じる。もともと消費税は地方分権になじまない税であって、中央集権国家に適した税だ。分権的性格が強い米国はいまだに付加価値税を導入していない(州税に単段階の売上税があるのみ)。
(3)自治体の広さ
(a)地方税改革を論じるには、自治体の広さを決める必要がある。これが決まらないと、最適な地方税の問題は議論できない。
(b)維新八策は道州制を導入する、としている。が、地方財政の基礎単位を道州にするのは、広すぎる。今の市レベルの財政をどう位置づけるかを明確にする必要がある。
(c)最適な自治体の広さは、問題の性質にもよる。「首都州」は(2)-(a)の問題のかなりを解決するが、(2)-(c)、(d)の問題は道州制でも解決できない。
以上、野口悠紀雄「消費税の地方税化は地方分権と矛盾する ~「超」整理日記No.626~」(「週刊ダイヤモンド」2012年9月15日号)に拠る。
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(1)論点の整理
(a)維新八策は、現行の地方消費税(1%)の比率を高め、5%のすべてを地方消費税にするということか?
(b)(a)ならば、消費税の徴収は国が行い、税収は地方が全額もらう、ということで、単なる国と地方の税収の取り合いの問題にすぎない。
(c)しかも、徴税は国、税収は地方、というのは究極の国依存だ。その結果、地方への配分に関して恣意的な判断が被梅雨とされれば、国の権限は強くなる(地方分権と正反対の方向)。
(d)維新八策は、地方交付税の廃止を提言している。その場合、消費税全額を地方に回しても、地方の取り分は現在より13兆円程度減少する。
(e)(d)の減少を補うには、消費増税する必要がある。住民税・事業税が今後伸び悩むから、将来の消費増税は不可避だ。
(f)(b)ならば税収を全部地方へもって行かれるから、(e)の消費増税の作業を国が行うインセンティブはなくなる。
(g)(f)からして、(a)を実施するには、各地方自治体が消費税を徴収し、それを自らの財源とする方式しかあり得ない。
(2)(1)-(g)の問題点
(a)税収の地点と公共サービスの地点が一致しない。
<例>埼玉県の住民の多くが東京に通勤し、そので食事・買物をして、消費税は東京都の収入になる。他方、埼玉県の自治体が提供するサービスは、警察・消防・清掃など住民に対するものだ。よって、ベッドタウン的自治体は、支出は必要だが、それを賄う財源がない状態に陥る。
(b)現行の地方消費税では、地方への配分に当たり、(a)を考慮して調整している。中央集権的制度ゆえに問題が軽減されている。しかし、地方が自ら徴税することとすると、こうした調整が行えなくなる。
(c)本来の地方分権を目指すのであれば、消費税率も各自治体が独自に決定できることとすべきだ。しかし、そうすると、税率の低い自治体に消費が流れる、という問題が生じる。
<例>埼玉県は住民が多く、対住民サービスの必要量が多いので財源確保のため消費税率は高い、と仮定する。他方、栃木県の消費税率は低い、と仮定する。その場合、埼玉県民は栃木県で買物して消費税負担額を減らそうとする。
(d)(c)の結果生じる問題は、最終段階にとどまらない。取引の中間段階で生じる問題は、さらに深刻で複雑だ。①税率の高い自治体と②税率の低い自治体が混在すると、業者は②の業者から購入しようとする。今の日本のようにインボイスがないと、全国平均税率での控除になり、②の業者からの仕入れには益税が発生し、①の業者からの仕入れでは消費税を負担するか、売上価格を引き上げざるを得なくなる。→①の業者の売上げは減少する。→業者は①から逃げ出す。
(e)かくして、かなり大きな経済的攪乱が生じる。もともと消費税は地方分権になじまない税であって、中央集権国家に適した税だ。分権的性格が強い米国はいまだに付加価値税を導入していない(州税に単段階の売上税があるのみ)。
(3)自治体の広さ
(a)地方税改革を論じるには、自治体の広さを決める必要がある。これが決まらないと、最適な地方税の問題は議論できない。
(b)維新八策は道州制を導入する、としている。が、地方財政の基礎単位を道州にするのは、広すぎる。今の市レベルの財政をどう位置づけるかを明確にする必要がある。
(c)最適な自治体の広さは、問題の性質にもよる。「首都州」は(2)-(a)の問題のかなりを解決するが、(2)-(c)、(d)の問題は道州制でも解決できない。
以上、野口悠紀雄「消費税の地方税化は地方分権と矛盾する ~「超」整理日記No.626~」(「週刊ダイヤモンド」2012年9月15日号)に拠る。
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