語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】被災地公務員の「心の病」

2012年09月08日 | 震災・原発事故
 (1)香山リカは、自治労と協力して「被災地で働く公務員のこころのケア事業」に携わっている。
  (a)被災3県で、臨床心理士などによるカウンセリング方式の「こころの相談室」、数十人規模で行うセミナー、10人単位の座談会、家族も含めた職員への「ありがとうコンサート」などを行い、9月からは週に2回の電話相談もスタート。
  (b)こうした活動に参加する理由は、①被災地の公務員の心はストレスで極限状態にあり、②そのケアが驚くほど遅れているからだ。

 (2)なぜ公務員の心のケアが必要か。
  (a)惨事ストレス・・・・大災害が起きると、被災者はもちろん、救援、支援、報道などに携わる人にも心に大きなダメージを受ける。災害直後の不眠、興奮状態、自責、抑鬱などの感情の変化だけでなく、それが数ヶ月以上長びいて、フラッシュバックを伴うPTSDや燃え尽き症候群、鬱病に移行するケースもある。かかる重篤な心の危機状態は、被災者よりむしろ支援者に起こりやすい。また、災害発生直後より1~3年経過後が発症のピークとなる。
  (b)次のような条件が重なった場合、被災者より支援者に重い惨事ストレスが起きやすい。「社会的責任が大きい」「混乱した状況の中、迅速な対応を求められる」「自らも被災者」「遺体や遺族との関わり」「心の準備がない」・・・・。これは被災地の公務員が置かれている状態にぴったり一致する。

 (3)被災地の公務員の実態は、次のようなものだ。
  (a)震災前まではパソコンで書類を作成する業務に従事していた者が、遺体安置所で遺体の衣類を洗浄し、土葬を手伝い、また掘り起こして火葬にする。
  (b)自分の家族も行方不明になったが、避難所で寝泊まりするよう指示が出た。家族を捜す安置所回りができなかった。
  (c)支援物質が来ても、まず住民が優先。市庁舎に寝泊まりしている職員は、賞味期限の切れたパンやおにぎりを、それも1個だけという日が続いた。
  (d)役場のテレビで自宅が津波に流される映像を見たが、住民や部下のことを思ったら帰るわけにはいかなかった。
  (e)そんな生活が何ヶ月も続く。さらに仮設住宅ができればそこの入居を手伝ったり、新しい都市計画を練ったり、業務は果てしない。
  (f)罹災証明書の発行や死亡届などの各種手続き、義援金の分配などをめぐって住民と直接接する業務の中では、激しいクレームを受ける場面も少なくない。
  (g)何時間も怒鳴られ続けたり、土下座しろと言われたりしていると、だんだんこっちも参ってくる・・・・と「こころの相談室」で思いを吐露した軽い鬱状態の職員に受診を勧めても、「また地元の人に何を言われるか分からないから、もう少し自分で頑張ってみる」。

 (4)8月24日、新聞は一人の公務員の縊死を報じた。その35歳の男性は、岩手県盛岡市から陸前高田市に派遣され、震災復興業務に携わっていた。彼は盛岡市では道路管理課に所属し、陸前高田市では壊滅的な被害を受けた漁港を復旧するという慣れない業務に携わった。遺書にいわく、「希望して被災地に行ったが、役に立てず申し訳ない」。

 (5)被災地で超人的な働きを続けている公務員にさらに追い打ちをかけているのが、彼らに対する評価があまりにも低いことだ。それどころか、一方的な非難や批判が寄せられることだ。
  (a)自衛隊員の任務は、たいへんきついものだったが、彼らは「報われた」という気持ちを十分に味わっていて、それが心を癒す働きをしている。彼らの働きはテレビでも繰り返し報道されたし、感謝の手紙も全国から届いた。航空自衛隊松島基地には、長渕剛による慰労ライブが開かれた。
  (b)自衛隊員や消防隊員を除く公務員の場合、「大変ですね、お疲れさま」の一言もない(それだけで疲れやストレスが半減するのだが)。それどころか、「なぜ被災者への対応がこんなに遅いのか」といった批判的なメールが寄せられることもある。その上、いくつかの自治体では、「首長までが自分たちを守ってくれない」。「まだまだ職員にはやらせなきゃ」「残業代はカットします」などと、公務員叩きみたいなことを強調する。「ミニ橋下路線」を狙って有権者の支持を得ようとしても、部下のモチベーションが下がるだけだ。

 (6)今年になってようやく地方公務員災害補償基金からまとまった予算が組まれることが決まったが、いまだに「全員の面談」や「継続的な相談体制」などの実施には至っていない。

 以上、香山リカ「誰からも評価されない 香山リカが見た被災地公務員の苦悩」(「AERA」2012年9月10日号)に拠る。
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