(1)アスベストは、人体や商品、施設、廃棄物などにストックされて、生産・消費・流通・廃棄の経済活動の全局面で複合的に被害を引き起こす。過去の大量使用からすれば、顕在化している発症は氷山の一角だ。
アスベスト禍は、「複合ストック災害」だ。史上最悪の産業災害だ。【宮本憲一・大阪市立大学名誉教授】
(2)アスベスト汚染の実相がくっきりと浮かび上がったのは、「クボタショック」(2005年6月末)からだ。クボタ旧神崎工場(兵庫県尼崎市)内外で、元従業員のみならず周辺住民にすさまじい被害が発生していることが発覚。周辺住民の死者(225人)が元従業員の死者(158人)を上回る異常事態となった。アジア最悪の被害だ。それまで「労働災害」とされていたアスベスト禍が「公害」であるという事実がここにハッキリした。
「クボタショック」は、水面下に隠れていた被害を各地で顕在化させた。石綿紡繊産業で栄えた大阪・泉南では、100年以上埋もれていた被害が表面化し、国家賠償請求訴訟が提起された。訴訟は最高裁に上告中だ。
中皮腫による死者は、2006年から毎年1,000人を超える。大阪、兵庫、東京、神奈川で突出している。石綿工場で働いたことがないのに中皮腫、石綿肺癌、石綿肺などの病気になった人は8,000人を超え、半数が死亡。
他方、労働災害として認定される人も、毎年1,000人を超え、その半数は大工、左官、電気工などの建設労働者だ。日本では、石綿の7~8割が建材に使われた。被害者らが国や建材メーカーを相手に起こした訴訟は、国内6地裁で争われている。
(3)ガレキの総量は、阪神・淡路が2,000万トン、東日本が2,300万トン。東日本大震災に特徴的なのは、沿岸には製紙工場を始め、さまざまな工場があることだ。長期間、排水を流したことで、海底にはさまざまな物質が蓄積している。
津波は、海底に沈殿していたものを一気に陸に揚げた。産業廃棄物を含むヘドロは、普通の泥ではない。【矢内勝・石巻赤十字病院呼吸器内科部長】
有害なヘドロが沿岸部に拡散している状況を踏まえると、石綿や有害物質の粉塵の飛散に伴う健康被害は、阪神・淡路大震災よりもはるかに広域になる危険性がある。
(4)昨年11月、仙台市は恐るべき飛散実態を公表した。
仙台市の旧ホテルサンルート(付近は仙台駅に近い繁華街で、人の往来も激しい)の解体工事現場から、基準値(空気1リットル中の石綿繊維量10本)の最大36倍、360本のアモサイト(茶石綿)が検出されたのだ。アモサイトは毒性が強い。アスベストを除去しないまま解体作業を実施した箇所があり、このためアスベスト含有建材が損傷し、飛散したのだ。
被災地では、これは特殊なケースではない。
(5)震災で建物が倒壊し、ガレキに含まれる石綿が飛散する・・・・<これは単なるアスベスト対策の欠陥ではなく、日本の都市政策、災害対策、復興政策の欠陥と関連している>(宮本/森永/石原・編『終わりなきアスベスト災害』、岩波書店、2011)。
(a)大都市では、高度成長期以降、郊外型の開発に力が注がれ、中心部(インナーシティ)の再開発は遅れてきた。そこには石綿を含む老朽建築物が数多く取り残されている。
(b)災害対策としても、石綿に十分な注意が払われてこなかった。
①阪神・淡路大震災時の「兵庫県地域防災計画」には環境保全の記述はなかった。地域の事業所や住宅のどこにどれくらいの石綿が蓄積されていたか、倒壊すればどうなるか、住民・ボランティア・現場作業者がどれくらい曝露するか、行政は全く把握していなかった。
②全国の自治体の85.2%は、地域防災計画に震災時アスベスト対策を盛り込んでいなかった。そのうち、環境省の災害時石綿飛散防止マニュアル(2007年に策定)についても、「認識していない」「確認していない」が6割弱だった。【立命館大の調査、2010年】
以上、加藤正文(神戸新聞経済部次長)「がれきに含まれる「死の棘」」(「世界」2012年11月号)に拠る。
【参考】
「【震災】ガレキに含まれる「死の棘」 ~震災アスベスト禍と放射能禍~」
「【震災】東北沿岸の化学汚染 ~カドミウム・ヒ素・シアン化合物・六値クロム・ダイオキシン~」
「【震災】もう一つの海洋汚染 ~PCBとダイオキシン~」
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アスベスト禍は、「複合ストック災害」だ。史上最悪の産業災害だ。【宮本憲一・大阪市立大学名誉教授】
(2)アスベスト汚染の実相がくっきりと浮かび上がったのは、「クボタショック」(2005年6月末)からだ。クボタ旧神崎工場(兵庫県尼崎市)内外で、元従業員のみならず周辺住民にすさまじい被害が発生していることが発覚。周辺住民の死者(225人)が元従業員の死者(158人)を上回る異常事態となった。アジア最悪の被害だ。それまで「労働災害」とされていたアスベスト禍が「公害」であるという事実がここにハッキリした。
「クボタショック」は、水面下に隠れていた被害を各地で顕在化させた。石綿紡繊産業で栄えた大阪・泉南では、100年以上埋もれていた被害が表面化し、国家賠償請求訴訟が提起された。訴訟は最高裁に上告中だ。
中皮腫による死者は、2006年から毎年1,000人を超える。大阪、兵庫、東京、神奈川で突出している。石綿工場で働いたことがないのに中皮腫、石綿肺癌、石綿肺などの病気になった人は8,000人を超え、半数が死亡。
他方、労働災害として認定される人も、毎年1,000人を超え、その半数は大工、左官、電気工などの建設労働者だ。日本では、石綿の7~8割が建材に使われた。被害者らが国や建材メーカーを相手に起こした訴訟は、国内6地裁で争われている。
(3)ガレキの総量は、阪神・淡路が2,000万トン、東日本が2,300万トン。東日本大震災に特徴的なのは、沿岸には製紙工場を始め、さまざまな工場があることだ。長期間、排水を流したことで、海底にはさまざまな物質が蓄積している。
津波は、海底に沈殿していたものを一気に陸に揚げた。産業廃棄物を含むヘドロは、普通の泥ではない。【矢内勝・石巻赤十字病院呼吸器内科部長】
有害なヘドロが沿岸部に拡散している状況を踏まえると、石綿や有害物質の粉塵の飛散に伴う健康被害は、阪神・淡路大震災よりもはるかに広域になる危険性がある。
(4)昨年11月、仙台市は恐るべき飛散実態を公表した。
仙台市の旧ホテルサンルート(付近は仙台駅に近い繁華街で、人の往来も激しい)の解体工事現場から、基準値(空気1リットル中の石綿繊維量10本)の最大36倍、360本のアモサイト(茶石綿)が検出されたのだ。アモサイトは毒性が強い。アスベストを除去しないまま解体作業を実施した箇所があり、このためアスベスト含有建材が損傷し、飛散したのだ。
被災地では、これは特殊なケースではない。
(5)震災で建物が倒壊し、ガレキに含まれる石綿が飛散する・・・・<これは単なるアスベスト対策の欠陥ではなく、日本の都市政策、災害対策、復興政策の欠陥と関連している>(宮本/森永/石原・編『終わりなきアスベスト災害』、岩波書店、2011)。
(a)大都市では、高度成長期以降、郊外型の開発に力が注がれ、中心部(インナーシティ)の再開発は遅れてきた。そこには石綿を含む老朽建築物が数多く取り残されている。
(b)災害対策としても、石綿に十分な注意が払われてこなかった。
①阪神・淡路大震災時の「兵庫県地域防災計画」には環境保全の記述はなかった。地域の事業所や住宅のどこにどれくらいの石綿が蓄積されていたか、倒壊すればどうなるか、住民・ボランティア・現場作業者がどれくらい曝露するか、行政は全く把握していなかった。
②全国の自治体の85.2%は、地域防災計画に震災時アスベスト対策を盛り込んでいなかった。そのうち、環境省の災害時石綿飛散防止マニュアル(2007年に策定)についても、「認識していない」「確認していない」が6割弱だった。【立命館大の調査、2010年】
以上、加藤正文(神戸新聞経済部次長)「がれきに含まれる「死の棘」」(「世界」2012年11月号)に拠る。
【参考】
「【震災】ガレキに含まれる「死の棘」 ~震災アスベスト禍と放射能禍~」
「【震災】東北沿岸の化学汚染 ~カドミウム・ヒ素・シアン化合物・六値クロム・ダイオキシン~」
「【震災】もう一つの海洋汚染 ~PCBとダイオキシン~」
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