語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】国会事故調が「原発事故は人災」と結論する理由

2012年11月02日 | 震災・原発事故
 (1)非常用電源が壊れたのは地震のせいか、津波のせいか、という問題。
 地震が起きたのは、3月11日14時46分。
 津波は15時27分に第一波、15時35分に第二波と東電も政府事故調も国も、みんな言っている。
 しかし、それは福島第一原発の海岸に波が到着した時刻ではない。そこから1.5km離れた沖にある波高計に到着した時刻なのだ。
 その1.5km離れた波高計から福島第一原発の海岸まで何分かかるか。東電に津波の写真を全部出してもらうと、44枚あった。この地点、あの地点の連続写真の撮影時刻から、その間に何分かかっているかは正確にわかる。そういう事実を積み上げて、実際の津波襲来時刻は東電が公表している時刻より2分ほど遅いことがわかった。
 津波によって大惨事になったのだが、必ずしも津波によって非常用発電機が壊れたということにはならない。
 なぜなら、その2分の差で、1号機の非常用発電機は津波が到着する前に壊れたことがわかったからだ。
 そういう基本的なことすら、ウソというか、杜撰というか、東電の発表はいい加減だ。
 今年の5月頃、東電に、「津波の投薬時刻が2分ほどずれているのを認めるか?」と文書で訪ねた。東電は、「認める」と回答した。
 しかし、国会事故調の報告書が出る前に出した東電の最終報告書では、また津波の到着時刻を元に戻している。それが問題になったから、東電はもう一回調査し直して最終報告書を作り直す、と言っているが、今のところだんまりを決め込んでいる。

 (2)「逃がし安全弁」(Safety Relief Valve :SRV)の問題。
 事故当時に実際に原発を運転した人、操作した人から徹底的に話を聞いた。
 すべての非常用発電機が止まってしまい、全交流電源喪失になった。ひとたびそういったSBO(Station Blackout)が起きると、当然ながら音がまったくしない世界になる。ポンプは動かない。蒸気は出ていない。ディーゼルの音もしない。一切音がなくて、そのうえ暗い。真っ暗闇で無音なのだ。
 ところが、そういう中で一つだけ、ズドーン、ズドーンという音が繰り返されている。それが、SRVという弁が作動したときの音だ。
 原子炉圧力容器(巨大なヤカン)の圧力が、平常の運転中は70気圧ぐらいで、温度は285℃ぐらいだ。大地震がきたのでウランの連鎖反応は自動的に止まったが、連鎖反応のときにできた放射性物質が熱を出すので、まだヤカンの中の湯は沸き続ける。ヤカンの圧力はどんどん高くなる。そのために、あるレベルまで圧力が上がると、ヤカンが爆発しないように、自動的にSRVがパッと開く。すると、大量の蒸気がその弁から圧力抑制室(巨大なドーナツ状の構造物)に一気に流入する。その中には大量の水が蓄えられているので、そこに入ってきた大量の水蒸気はすぐ水になる。水になると体積が1,000分の1ぐらいになるので、その結果ヤカンの圧力が下がる。圧力が下がると、SRVは自動的に閉じる。もし閉めないで開けっ放しにしておいたら、ヤカンからどんどん蒸気が圧力抑制室に流出してしまい、ヤカンの水位がどんどん下がる。すると、核燃料のメルトダウンが始まってしまう。だから、圧力が高くなるとSRVが自動的に開き、圧力が下がると自動的に閉まる。
 しかし、実は、SRVが開くたびに「水力学的動荷重」という激しいショックが圧力抑制室の水の中で起こる。ズドーン、ズドーンというすごい音の正体はこれだ(推定)。
 弁が開くたびにズドーン、ズドーンというすごい音が中央操作室で聞こえていた、と2号機の運転員も3号機の運転員も言っている。だが、1号機では、まったくそういう音はしていなかった。1号機の運転員たちは「聞いたことがない」と証言している。2号機の運転員も、「自分たちのは聞こえていたが、1号機のほうからは聞こえてこなかった」と。
 ということは、1号機のSRVは開いた形跡がない、ということだ。
 これは大変なことだ、とアンケートをとった。福島第二原発と女川原発と東海第二原発でも、やはりSRVが頻繁に作動した。福島第二原発では、一切音が聞こえなかった、と回答した。女川原発では「聞こえた」と。東海原発は回答しなかった。
 この違いは何か。事故調の報告書を書いた後にわかった。福島第二原発は、マークⅡ型格納容器だ。構造的には聞こえない、たぶん。女川原発は、福島第一原発と同じマークⅠ型だ。だから、マークⅠ型の場合は音がする。
 最大の問題は、なぜ1号機では作動音が聞こえなかったのか、だ。
 たぶん、SRVが自動的に開くほどヤカン(原子炉)の圧力が上がらなかったからだ。つまり、激しい地震の揺れで配管に穴が開いたのではないか。つまり、漏れているのだ。
 2号機も3号機も地震直後からSRVが作動している。1号機の場合、ステーションブラックアウト以降、SRVが作動する圧力に達しているはずなのだが、何も音がしていない。
 政府事故調の最終報告書は、このことに何もふれていない。
 1号機は、激しい地震の揺れで配管が損傷し、冷却材が漏れて、原子炉の水がなくなって、最終的にメルトダウンしたのだ。国会事故調の報告書では、その「可能性」という控え目な表現で問題提起するにとどめているが。

 以上、田中三彦(サイエンスライター)「国会事故調はなぜ「この原発事故は人災である」と断言できたのか」(「SIGHT」2012年秋号)に拠る。
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