(1)チェルノブイリにごく近いプリピャチ市には、原発労働者とその家族1万人が住んでいた。今、ゴーストタウンになっている。放射能汚染がひどい。
廃村になった住民たちは、ウクライナ各地に強制移住させられた。
プリピャチからコバリン村(キエフから南東70kmにある非汚染地)へ移住したのは270世帯、530人。土地は350平米で、家は120平米。家族構成により、追加もある。【ステバンチュー・バレンチーナ村長】
村の墓地の墓石には、1946~96年などと書かれてあり、短命な人が多い。
(2)原発から西35kmにあるノーブイミール村民1,000人も、1992年、全員がコバリン村へ移住させられた。
国の負担でつくられた移住者用住宅は10種類程度あり、家族の人数によって広さが違う。土地や住宅は元のものに近い、と住民はいう。
(3)ミハエル(73歳)&ガリーナ(61歳)・コワルチュク夫妻もコバリン村への移住者だ。住んでいた場所は当初は避難区域に指定されず、6年後に基準が変わって村ごと突然移住命令を受けた。今、二人とも年金生活で、家は100平米3部屋、400平米の畑がある。
ガリーナは事故直後に甲状腺の手術を受け、ミハエルは1994年に心筋梗塞の発作を起こした。孫の男の子は甲状腺腫、女の子にも同じ問題がある。
移住後、もとから住んでいた村人から「チェルノブイリ人だ、放射能がうつる」と言われ、辛い思いをした。今もそういう差別と対立がある。集団農場や地区の指導者たちは歓迎したが、村人は態度がよくなかった。「これはわれわれの土だ、川だ、魚だ」とよく言われた。
(4)26年後、福島の人々の苦闘は続いている。いや、悲劇は26年で終わらずに果てしなく続く。想像力が欠如した人にはその重さが理解できない。しかし、そうした人々に任せておけば、未来が破壊される。【小出裕章・京都大学原子炉実験所助教】
(5)子どもの癌が多い。ウクライナ国立癌センターには小児病棟が40床あり、毎年250人の子どもが入院する。生存率は55%だ。
チェルノブイリとの関連や遺伝については答え辛い。調査がないソ連時代の1990年代初頭からデータを集積している。多くは骨の癌だ。【グリゴーリー・グリムシク・国立癌センター医師】
汚染地域のプリピャチと非汚染地域のキエフで事故当時に妊婦だった女性の子どもを長期にわたって追い、内部被曝の影響を比較しているが、妊娠1~3週間の被曝は死につながる。4~8週では脳に障害を起こす。知的障害、てんかん、統合失調症などが、キエフよりプリピャチの子どものほうにかなり多い。特に左脳への影響が大きい。【コスチャンチン・ロガノフスキー・ウクライナ国立医学アカデミー放射線医学研究センター教授】
ビグニ村(原発から120km)のナタリア・オスタボビッチ(26歳)は、7歳から甲状腺に異常があり、腎臓が悪く、慢性扁桃腺炎に苦しんでいる。彼女の弟アレクサンドルは、2011年6月に骨癌に罹り、20歳で死亡した。彼女の友人や知り合いにも体の異常が多く、亡くなった人も多い。
(6)ピシャニッツア村(原発から80km)では、事故後に健康でない子どもが急増した。自分も事故当時、原発から60kmの村にいて、移住後、体調が悪い。【スレピャンチェク校長】
ウクライナ政府の報告書では、「健康な子どもは6%」としている。
(7)汚染地域のモジャリ村と非汚染地域のコバリン村で子どもがふだん食べている食品を地元の保健所などでセシウム137を検査した。
モジャリ村では、ライ麦、ポテト、牛乳、チーズからも検出されたが、コバリン村ではキノコからしか検出されなかった。モジャリ村のキノコは、コバリン村のキノコの2倍近い値だった。
両地域の空間線量は違いがないので、健康障害の原因は食品から摂取する内部被曝しか考えられない。ウクライナでは、森のキノコやベリー類をとって加工し、貯蔵して食べる。あまり細胞分裂しない脳、心臓、腎臓、神経、筋肉の遺伝子が放射線で傷つくと、うまく機能しなくなるか、細胞死を起こす。低レベルの内部被曝で臓器に異常が起き、神経に障害が起きると考えられる。【小若順一・「食品と暮らしの安全基金」代表】
(8)国際原子力機関(IAEA)は、安全対策を怠り、ウクライナで起きている健康被害のデータを発表させない。米国主導のIAEAに代わる新組織をつくるべきだ。【ユーリー・アンドレーエフ・ウクライナ・チェルノブイリ連盟代表】
子どもが放射能汚染度の高い地域に住んでもよい、と言っている日本の御用学者や医者は犯罪者だ。IAEAは、山下俊一・福島県立医科大学副学長らを動員し、福島原発事故の被害を小さく見せてきた。IAEAは、原子力産業を振興するための機関だから、情報を隠蔽する。チェルノブイリ事故が起こった時の状態も秘密にしてきた。【広河隆一・「デイズ・ジャパン」編集長】
以上、浅野健一(同志社大学大学院教授)「今なお犠牲続く 女性、子どもへの影響 ~チェルノブイリからの警告(下)~」(「週刊金曜日」2012年11月9日号)に拠る。
【参考】
「【原発】今も廃炉作業に7,000人 ~チェルノブイリからの警告(1)~」
「第3回ウクライナ調査報告(2012年9月24日~10月4日)」
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廃村になった住民たちは、ウクライナ各地に強制移住させられた。
プリピャチからコバリン村(キエフから南東70kmにある非汚染地)へ移住したのは270世帯、530人。土地は350平米で、家は120平米。家族構成により、追加もある。【ステバンチュー・バレンチーナ村長】
村の墓地の墓石には、1946~96年などと書かれてあり、短命な人が多い。
(2)原発から西35kmにあるノーブイミール村民1,000人も、1992年、全員がコバリン村へ移住させられた。
国の負担でつくられた移住者用住宅は10種類程度あり、家族の人数によって広さが違う。土地や住宅は元のものに近い、と住民はいう。
(3)ミハエル(73歳)&ガリーナ(61歳)・コワルチュク夫妻もコバリン村への移住者だ。住んでいた場所は当初は避難区域に指定されず、6年後に基準が変わって村ごと突然移住命令を受けた。今、二人とも年金生活で、家は100平米3部屋、400平米の畑がある。
ガリーナは事故直後に甲状腺の手術を受け、ミハエルは1994年に心筋梗塞の発作を起こした。孫の男の子は甲状腺腫、女の子にも同じ問題がある。
移住後、もとから住んでいた村人から「チェルノブイリ人だ、放射能がうつる」と言われ、辛い思いをした。今もそういう差別と対立がある。集団農場や地区の指導者たちは歓迎したが、村人は態度がよくなかった。「これはわれわれの土だ、川だ、魚だ」とよく言われた。
(4)26年後、福島の人々の苦闘は続いている。いや、悲劇は26年で終わらずに果てしなく続く。想像力が欠如した人にはその重さが理解できない。しかし、そうした人々に任せておけば、未来が破壊される。【小出裕章・京都大学原子炉実験所助教】
(5)子どもの癌が多い。ウクライナ国立癌センターには小児病棟が40床あり、毎年250人の子どもが入院する。生存率は55%だ。
チェルノブイリとの関連や遺伝については答え辛い。調査がないソ連時代の1990年代初頭からデータを集積している。多くは骨の癌だ。【グリゴーリー・グリムシク・国立癌センター医師】
汚染地域のプリピャチと非汚染地域のキエフで事故当時に妊婦だった女性の子どもを長期にわたって追い、内部被曝の影響を比較しているが、妊娠1~3週間の被曝は死につながる。4~8週では脳に障害を起こす。知的障害、てんかん、統合失調症などが、キエフよりプリピャチの子どものほうにかなり多い。特に左脳への影響が大きい。【コスチャンチン・ロガノフスキー・ウクライナ国立医学アカデミー放射線医学研究センター教授】
ビグニ村(原発から120km)のナタリア・オスタボビッチ(26歳)は、7歳から甲状腺に異常があり、腎臓が悪く、慢性扁桃腺炎に苦しんでいる。彼女の弟アレクサンドルは、2011年6月に骨癌に罹り、20歳で死亡した。彼女の友人や知り合いにも体の異常が多く、亡くなった人も多い。
(6)ピシャニッツア村(原発から80km)では、事故後に健康でない子どもが急増した。自分も事故当時、原発から60kmの村にいて、移住後、体調が悪い。【スレピャンチェク校長】
ウクライナ政府の報告書では、「健康な子どもは6%」としている。
(7)汚染地域のモジャリ村と非汚染地域のコバリン村で子どもがふだん食べている食品を地元の保健所などでセシウム137を検査した。
モジャリ村では、ライ麦、ポテト、牛乳、チーズからも検出されたが、コバリン村ではキノコからしか検出されなかった。モジャリ村のキノコは、コバリン村のキノコの2倍近い値だった。
両地域の空間線量は違いがないので、健康障害の原因は食品から摂取する内部被曝しか考えられない。ウクライナでは、森のキノコやベリー類をとって加工し、貯蔵して食べる。あまり細胞分裂しない脳、心臓、腎臓、神経、筋肉の遺伝子が放射線で傷つくと、うまく機能しなくなるか、細胞死を起こす。低レベルの内部被曝で臓器に異常が起き、神経に障害が起きると考えられる。【小若順一・「食品と暮らしの安全基金」代表】
(8)国際原子力機関(IAEA)は、安全対策を怠り、ウクライナで起きている健康被害のデータを発表させない。米国主導のIAEAに代わる新組織をつくるべきだ。【ユーリー・アンドレーエフ・ウクライナ・チェルノブイリ連盟代表】
子どもが放射能汚染度の高い地域に住んでもよい、と言っている日本の御用学者や医者は犯罪者だ。IAEAは、山下俊一・福島県立医科大学副学長らを動員し、福島原発事故の被害を小さく見せてきた。IAEAは、原子力産業を振興するための機関だから、情報を隠蔽する。チェルノブイリ事故が起こった時の状態も秘密にしてきた。【広河隆一・「デイズ・ジャパン」編集長】
以上、浅野健一(同志社大学大学院教授)「今なお犠牲続く 女性、子どもへの影響 ~チェルノブイリからの警告(下)~」(「週刊金曜日」2012年11月9日号)に拠る。
【参考】
「【原発】今も廃炉作業に7,000人 ~チェルノブイリからの警告(1)~」
「第3回ウクライナ調査報告(2012年9月24日~10月4日)」
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