(1)耐用年数を超えた社会インフラが各地に生まれている。東日本大震災では、ダムや橋の崩落も起きた。
(2)福島県の藤沼ダムは、昨年の大震災で決壊した。堤の崩落と同時に150万トンの水が一気に流出し、濁流となって下流部を襲った。死者と行方不明者合わせて8人の犠牲者を出した。1年7ヵ月経過した今もなお、無惨な姿をさらけだしたままだ。
藤沼ダムは、堤の高さ19m、長さ133mの小規模な農業用ダムだ。土を盛ってコンクリートブロックで覆う「フィル型」で、福島県が建設、須賀市が所有、地元の土地改良区が維持管理者だ。
ダム崩落の主因は、過去に経験したことのない強い揺れが長時間(100秒間)継続したこと。さらに砂の混じった土で造られた堤体上部の盛り土の強度が低下していたことも要因だった。
藤沼ダムは、築63年の老朽化したダムだったのだ。戦前に工事が着手された。当時の設計基準は今よりも緩く、土の成分に関する基準もなかった。「耐震」という概念のない時代の構造物だった。
(3)福島県内には、農業用ダム(堤15m以上)とため池(同15m未満)が合わせて3,730ヵ所あったが、このうち750ヵ所が大震災で堤の一部が切れるなどの被害に遭った(決壊は藤沼ダムを含めて3件)。その多くが古いフィル型のダムやため池だった。江戸時代に造られたものもある。
耐震性調査も改修も、膨大な費用と時間がかかるから、困難を極める。
(4)むろん、(3)は独り福島県に限った話ではなく、全国各地に共通する難題だ。
老朽化の第一陣は、橋や道路、学校で、10年後くらいからピークを迎える。第二陣は上下水道など。エリア的には、まず首都圏や関西圏など大都市部だ。実態把握と将来推計が必要だ。【根本祐二・東洋大学教授】
(5)社会インフラの老朽化は、農業用ダムやため池に限らない。日本では、高度成長期(1960年代から)に、道路や橋、トンネルといった社会インフラが集中的に整備された。それらが、今後大量に老朽化する。
(6)老朽化した社会インフラの維持管理や更新には莫大なカネがかかる。
2011年度から50年間に必要となる更新費は、国土交通省所管の社会インフラだけで190兆円に上る。投資水準(国交省の予算規模)を横ばいと仮定すると、すべて現状を踏襲する前提では、2037年時点で維持管理・更新費すら賄えなくなる。
(7)今年8月、国交省は、社会構造の変化に対応した社会資本の維持管理・更新のあり方を検討する「社会資本メインテナンス戦略小委員会」を設置し、10分野を対象に議論を始めた。
その中で喫緊の課題となっているのが、橋の老朽化だ。大震災で橋が崩落するなど、トラブルが既に現実のものとなっているからだ。
全国155,000の橋(長さ15m以上)の多くが1960年代に建設されている。50年(橋の寿命)以上経過したものは、2010年度現在8%。今から10年後には26%、20年後には53%まで増える。
そのうち、損傷などによって通行止め、通行規制となっている橋は増加の一方で、全国で1,379橋に上る(今年4月現在)。橋齢50年以上のものが43%を占める。
そこで、国交省は、転ばぬ先の杖で、壊れる前に対処する予防保全に方針を転換し、橋の耐用年数を延ばそうとしている。各自治体に対し、個々橋の修繕計画の策定を促し、事業費の2分の1を補助する制度を2007年度からスタートさせた。2010年度からは、社会資本整備総合交付金に衣替えし、自由度と手厚さを増した。橋の修繕計画の策定は順調に進み、全自治体の53%、橋ベースで7割近くに達した。
しかし、実施率は伸び悩んでいる。わずか11%にとどまっている。計画は立てたものの、実施にまで至ることができない厳しい現実がある。
町村には土木技術者が少ないので、計画は作れても、実施が難しいのだ。小規模な自治体の中には、橋の定期点検すら実施できないところも少なくない。
(8)人口減少時代に入った現在、伸び切ったネットワークすべてをもはや賄いきれない。コンパクト化する視点も必要だ。
高度成長時から日本社会は拡大路線をひた走ってきた。社会インフラの充実は、自分たちの幸福と同じだと考え、あれもこれもインフラ整備を熱望し、いつしか過大、過剰、不必要な構造物に囲まれる生活が当たり前になってしまった。
しかし、いつまでもそうした時代が続くわけがない。借金を重ねて造り続けた挙げ句、財政難という巨大な過大を生み出し、にっちもさっちもいかなくなってしまった。
してみれば、朽ち始めたインフラの前にまずなすべきことは、補修や更新、再整備するかの吟味ではなく。インフラの必要性を改めて立ち止まって検討することだ。場合によっては「撤去」もあり得る。
とはいえ、撤去にもカネがかかる。
現在、通行止めとなっている橋は、全国に217ある。補修や架け替え工事中が多いが、壊すに壊せず、閉鎖したまま放置されているものもある。カネがないまま、朽ち果てるのを待つしかない、という判断だ。それほど疲弊した状況が広がっている。
以上、記事「橋・ダム・高速道路・・・・が危ない 朽ち始めたインフラ」(「週刊ダイヤモンド」2012年10月30日号)に拠る。
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(2)福島県の藤沼ダムは、昨年の大震災で決壊した。堤の崩落と同時に150万トンの水が一気に流出し、濁流となって下流部を襲った。死者と行方不明者合わせて8人の犠牲者を出した。1年7ヵ月経過した今もなお、無惨な姿をさらけだしたままだ。
藤沼ダムは、堤の高さ19m、長さ133mの小規模な農業用ダムだ。土を盛ってコンクリートブロックで覆う「フィル型」で、福島県が建設、須賀市が所有、地元の土地改良区が維持管理者だ。
ダム崩落の主因は、過去に経験したことのない強い揺れが長時間(100秒間)継続したこと。さらに砂の混じった土で造られた堤体上部の盛り土の強度が低下していたことも要因だった。
藤沼ダムは、築63年の老朽化したダムだったのだ。戦前に工事が着手された。当時の設計基準は今よりも緩く、土の成分に関する基準もなかった。「耐震」という概念のない時代の構造物だった。
(3)福島県内には、農業用ダム(堤15m以上)とため池(同15m未満)が合わせて3,730ヵ所あったが、このうち750ヵ所が大震災で堤の一部が切れるなどの被害に遭った(決壊は藤沼ダムを含めて3件)。その多くが古いフィル型のダムやため池だった。江戸時代に造られたものもある。
耐震性調査も改修も、膨大な費用と時間がかかるから、困難を極める。
(4)むろん、(3)は独り福島県に限った話ではなく、全国各地に共通する難題だ。
老朽化の第一陣は、橋や道路、学校で、10年後くらいからピークを迎える。第二陣は上下水道など。エリア的には、まず首都圏や関西圏など大都市部だ。実態把握と将来推計が必要だ。【根本祐二・東洋大学教授】
(5)社会インフラの老朽化は、農業用ダムやため池に限らない。日本では、高度成長期(1960年代から)に、道路や橋、トンネルといった社会インフラが集中的に整備された。それらが、今後大量に老朽化する。
(6)老朽化した社会インフラの維持管理や更新には莫大なカネがかかる。
2011年度から50年間に必要となる更新費は、国土交通省所管の社会インフラだけで190兆円に上る。投資水準(国交省の予算規模)を横ばいと仮定すると、すべて現状を踏襲する前提では、2037年時点で維持管理・更新費すら賄えなくなる。
(7)今年8月、国交省は、社会構造の変化に対応した社会資本の維持管理・更新のあり方を検討する「社会資本メインテナンス戦略小委員会」を設置し、10分野を対象に議論を始めた。
その中で喫緊の課題となっているのが、橋の老朽化だ。大震災で橋が崩落するなど、トラブルが既に現実のものとなっているからだ。
全国155,000の橋(長さ15m以上)の多くが1960年代に建設されている。50年(橋の寿命)以上経過したものは、2010年度現在8%。今から10年後には26%、20年後には53%まで増える。
そのうち、損傷などによって通行止め、通行規制となっている橋は増加の一方で、全国で1,379橋に上る(今年4月現在)。橋齢50年以上のものが43%を占める。
そこで、国交省は、転ばぬ先の杖で、壊れる前に対処する予防保全に方針を転換し、橋の耐用年数を延ばそうとしている。各自治体に対し、個々橋の修繕計画の策定を促し、事業費の2分の1を補助する制度を2007年度からスタートさせた。2010年度からは、社会資本整備総合交付金に衣替えし、自由度と手厚さを増した。橋の修繕計画の策定は順調に進み、全自治体の53%、橋ベースで7割近くに達した。
しかし、実施率は伸び悩んでいる。わずか11%にとどまっている。計画は立てたものの、実施にまで至ることができない厳しい現実がある。
町村には土木技術者が少ないので、計画は作れても、実施が難しいのだ。小規模な自治体の中には、橋の定期点検すら実施できないところも少なくない。
(8)人口減少時代に入った現在、伸び切ったネットワークすべてをもはや賄いきれない。コンパクト化する視点も必要だ。
高度成長時から日本社会は拡大路線をひた走ってきた。社会インフラの充実は、自分たちの幸福と同じだと考え、あれもこれもインフラ整備を熱望し、いつしか過大、過剰、不必要な構造物に囲まれる生活が当たり前になってしまった。
しかし、いつまでもそうした時代が続くわけがない。借金を重ねて造り続けた挙げ句、財政難という巨大な過大を生み出し、にっちもさっちもいかなくなってしまった。
してみれば、朽ち始めたインフラの前にまずなすべきことは、補修や更新、再整備するかの吟味ではなく。インフラの必要性を改めて立ち止まって検討することだ。場合によっては「撤去」もあり得る。
とはいえ、撤去にもカネがかかる。
現在、通行止めとなっている橋は、全国に217ある。補修や架け替え工事中が多いが、壊すに壊せず、閉鎖したまま放置されているものもある。カネがないまま、朽ち果てるのを待つしかない、という判断だ。それほど疲弊した状況が広がっている。
以上、記事「橋・ダム・高速道路・・・・が危ない 朽ち始めたインフラ」(「週刊ダイヤモンド」2012年10月30日号)に拠る。
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