語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【沖縄】主権回復への動き ~歴史と言語~

2012年11月16日 | 社会
 (1)米国にとって、民主主義は重要なゲームのルールだ。
 日本政府が米政府に対して、次のように伝えればオスプレイの配備はできなかった。
 沖縄の民意は、オスプレイの県内配備に反対だ。民主的手続きで選ばれた県知事、県会議員、沖縄の全市町村長がオスプレイ配備に反対している。9月9日の県民大会でも、反対の医師が明確に示された。民主主義の原則に照らして、地元の民意に反することはできない・・・・。

 (2)(1)ができなかったのは、野田首相が政権の権力基盤を維持することで手いっぱいだからだ。沖縄について考える余裕がないからだ。
 現在の日本に、単一政府(大文字のGovernment)は存在しない。存在するのは、
  (a)森本敏・防衛相とその取り巻きの防衛官僚によって構成される小政府・・・・オスプレイ沖縄配備の強行を突破口に、一気に米海兵隊普天間飛行場の辺野古移設を実現しようとしている。最早その可能性はまったくない、という現実に気づかないで。非強行派の防衛官僚もいるが、彼らが沖縄側に立っているわけではない。流血が発生して収拾のつかない事態になること、米軍基地に対する水道供給が停止されて基地機能が麻痺すること、さらにオスプレイが事故を起こして「島ぐるみ闘争」が起きること、その結果日米同盟の根幹が毀損する事態が発生することを恐れているだけだ。
  (b)外務省という小政府・・・・沖縄担当外務官僚も非強行派の防衛官僚と同じ発想だ。ただし、オスプレイ配備のような「力仕事」は防衛省に任せ、直接関与しないようにしている。
  (c)その他・・・・原発、外交、経済など国家の重要事項について、日本には単一の政府が存在せず、複数の小政府governmentsが並存して勢力争いをしている。ただし、消費増税のように首相官邸が明確な意思を示した場合には、一時的に単一の政府が成立する。それは、さながらロシアのエリツィン政権の縮図だ。

 (3)オスプレイ沖縄配備や普天間飛行場の辺野古移設は、野田首相にとって政権の存亡に関わる重要課題ではない。その隙を衝いて、森本防衛相らのグループ的利益が強引に国策として反映されているのだ。

 (4)しかし、森本らの企ては成功しない。なぜなら、沖縄にも小政府が存在し、その力は森本、防衛官僚、外務官僚を合わせたよりもはるかに強いからだ。東京の中央政府の沖縄に対する植民地主義に対して、沖縄は今後、具体的に反撃していく。
 沖縄は、もはや当事者能力を失った東京の中央政府に期待していない。レファレンダム(県民投票)に明らかにされるオスプレイ県内配備拒否という民意を仲井眞弘多・沖縄県知事が米政府に対して直接伝え、さらに国連総会第三委員会(人権)で、日本の中央政府による沖縄差別を訴えることで、局面の打開を図る。
 森本防衛相らの暴発によって、沖縄が中央政府離れを起こし、日本の国家統合に危機をもたらす。
  
 (5)10月16日に沖縄県で発生した米兵2人による集団強かん致傷事件は、事件の悪質性に加え、東京の政治エリート(国会議員・官僚)の不誠実な態度が沖縄県民を激高させた。
 これをきっかけに、沖縄と東京の中央政府の関係が、質的に転換しつつある。沖縄は主権回復に向けて歩みを進めている。

 (6)差別が構造化している場合、差別している側が自らを差別者と認識していないことはよくある。だから、差別される側からの異議申し立てが必要になる。沖縄は懸命に異議申し立てを行っているが、中央政府はそれを無視している。
 沖縄は、主権回復という形で、差別構造を脱構築しようとしている。そこでカギになるのが言語と歴史だ。

 (3)全国紙は報じていないが、近未来に沖縄の主権回復に向けた鍵となる出来事が現在進行している。
 琉球語(ウチナーグチ)を公用語に回復しようとする動きだ。
 本年度、那覇市は、職員採用試験にウチナーグチのあいさつを取り入れる。市職員が市役所窓口などでウチナーグチであいさつする「ハイサイ・ハイタイ運動」の一環だ。採用試験への導入を機に、若者のウチナーグチ活用の意識付けにつなげたい考えだ。
 職員採用試験の面接に“お国言葉”を導入するのは、全国で初めて。市文化協会などとの意見交換でウチナーグチを採用試験に導入するよう求める声があった。それを踏まえ、翁長雄・市長が検討を指示していた。
 受験者がウチナーグチを学ぶきっかけになる。県都那覇での実施は、他の自治体や民間企業に広がる可能性もある。採用後の研修実施などウチナーグチ実践能力を高める取り組みも行ってほしい。【石原昌英・琉球大学教授】
 独自言語を回復しようとする動きは、ナショナリズムの核になる。
 次の段階で、琉球処分による琉球王国(琉球藩)の解体と日本への併合が合法的であったかが、議論の対象になる。特に、1854年の琉仏修好条約、1859年の琉蘭修好条約の原本が、どのような経緯で外務省外交資料館(東京都港区麻布台)に所蔵されるようになったか、という具体的な歴史問題が沖縄から中央政府に対して提起されることになろう。

 以上、佐藤優「オスプレイ強行配備撤回の是非問う県民投票の重要性 ~佐藤優の飛耳長目 第77回~」(「週刊金曜日」2012年10月12日号)および佐藤優「米兵の集団強かん事件機に主権回復に向かう沖縄 ~佐藤優の飛耳長目 第78回~」(「週刊金曜日」2012年11月9日号)に拠る。

 【参考】
【沖縄】に対する構造的差別 ~オスプレイ問題~
【沖縄】の青い空は誰のものか ~オスプレイ問題~
【沖縄】差別の構造化 ~琉球新報・沖縄タイムス~
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