語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】「脱原発」は今もっとも効果の大きい経済政策(2)

2012年11月10日 | 震災・原発事故
 (承前)

 (5)安い電気料金で得をしていたのはエネルギー集約型産業
  (a)再生可能エネルギーによる電気料金上昇の影響は、実際には各製品で一律でないから、産業構造を変える効果もある。
  (b)これまでは家庭向けより安い事業所向けの電気料金の恩恵を特に受けてきたのはエネルギー集約型産業(<例>素材型産業)だ。反面、エネルギー節約型産業(<例>サービス産業)は損だった。
  (c)今後は、電気をたくさん使う産業は、電気を使わない産業に比べて電気料金上昇の影響が大きい。相対的に、電気集約型産業は不利に、電気節約型産業は有利になる。前者は、これまで優遇されて大きくなってきたので、声も大きい。だから、自分の所だけが大変なのに、日本経済全体の問題だと騒ぐ。

 (6)再生可能エネルギーに転換した場合、平均的な日本企業にとって、どのぐらい費用負担になるか。仮に、電気料金が現在の1.5倍になったらどうか。
  (a)驚くべし、わずか075%程度のコスト上昇なのだ。
  (b)075%の根拠は、電力10社合計で電力事業用売上は年間7.5兆円。これが1.5倍になると、3兆円から4兆円のコスト増だ。日本のGDPは500兆円。よって、コスト増部分を500兆円で割れば、たったの0.75%にしかならない。
  (c)0.75%を為替変動で見ると、1ドル=80円として、0.75%円高になると1ドル=79円40銭になる。この程度の為替変動は日常茶飯事だ。「これでは世界に負けるから海外移転だ」と騒ぐのは、騒ぎすぎだ。
  (d)要するに、電気料金が上がると日本経済の危機だ、と騒ぐのは、これまで安い電気料金で優遇されてきた重厚長大な産業が、実は自分たちのために騒いでいるだけで、日本全体の経済のことなぞ、ちっとも考えていない。
  (e)再生可能エネルギーは世界的に有望な戦略産業だ。温室ガス効果のことを考えても、どんどん再生可能エネルギーに転換したほうがよい。省エネルギー産業も同じで、これからどんどん伸びる。
  (f)にもかからず、重厚長大な産業は旧態依然としたエネルギー集約産業の既得権を守ろうとしている。原子力ムラと同じだ。自分をサラブレッドと思い込んでいるのだ。

 (7)逆の動きも起こっている。日本企業はしたたかなのだ。
  (a)これからのR&D(研究開発)投資の品目でトップにきているのは、やはり蓄電池であったり、新しいエネルギー関連の開発だったりする。ちゃんと一方では、それは儲かるな、じゃあやろう、と既に動きだしている。<例>食器産業はそうした転換をしてセミラック産業になっている。
  (b)排ガス規制が持ち上がったとき、結果的にハイブリッドという非常に高度な技術が開発された。未来志向への転換例だ。技術者に新たな雇用機会を与えた。次は、電気自動車、という展開になっている。
 
 (8)再生可能エネルギーには地域という要素もある。
  (a)電源三法は、地域にも金が使われるが、かなりの部分が都会の企業に回ってしまう。
  (b)再生可能エネルギーは、原発と違って小規模だ。しかも分散型だ。広くいろんなところにお金が回る。電気の場合、電線で送る際の送電ロスが非常に大きい。だから、電気をローカルに作って、できるだけ近所に供給するようにすれば、効率が上がる。こう考えると、再生可能エネルギーは生鮮野菜みたいで、農業に非常に近い。農協あたりにやってもらうと、いいかもしれない。

 (9)高い化石燃料を買う、とは、輸入を増やして、日本の購買力をこれまで以上に海外に渡す、ということだ。実は、それが日本製品の需要創出になる。
  (a)日本は、これまで輸出振興ばかりやってきた。企業向けの電気料金が家庭向けより安かったのは、輸出産業をサポートし、輸出を奨励していたからだ。どんどん外貨を稼ぎ、貯めこみ、経常収支が黒字になり、そして円高になった。天然ガスを輸入して経常収支を悪化させるような消費を始めれば、円安に動く。輸出産業には有利になる。
  (b)今の日本は、生産力より物を買わないで我慢する「ケチ力」のせいで、経常収支を黒字にして、結果として円高にして、競争力を失い、自分のクビを絞めている。
  (c)経常収支が悪化したら、円安になって、競争力を回復する。
  (d)なぜ(c)のように考えないかというと、無意識に完全雇用の状況が頭を離れないからだ。完全雇用で労働力が足りない。その上で高いコストを外国に払うとなると、日本製品をこれまでよりも多く外国に渡さなければならない。すると、自分が食べられる分が減ってしまう。これが日常の皮膚感覚になっている。
  (e)ところが、労働力が余っている状況なら、日本で作ったものを外国に余分に渡さなければならないとなったら、その余った労働力を働かせて払うことになる。それなら、なんにも本体は傷つかない。かつ、全般的な雇用状況はよくなる。だから、デフレも軽減されるし、働けないという不安も減るし、消費意欲も膨らむ。すると、雇用はもっと増える。

 (10)「脱原発」は、期間をきっちり設定し、10年計画、20年計画という形で明確な経済政策としてやると、それがすごい産業政策になる。
  (a)期限を曖昧にしておくと、旧態依然の産業はごねる。本気でやれない。期限を区切って目標値を設定し、ごねる余地をなくすことが大切だ。
 10年後、20年後のスケジュールを明確に示せば、十分に新規投資する時間的余裕がある。そうなれば彼らも本気で投資するだろう。これがすごく大事だ。
  (b)雇用創出を試算したら、毎年50~60万人も生まれる。こんなに雇用が生まれたら、日本の景気は相当変わる。その分コストが上がっても、それは負担ではない。新たな産業を作って、経済を活発化させえるための資金だ。
  (c)問題は、旧態依然の企業が大問題だ、と騒ぐ場合で、政府はこれを説得しなければならない。経済的問題ではなく、政治的問題だ。
 それを乗り越えれば、日本の経済はどんどんよくなる。オイル・ショックも、環境問題でも、技術的な危機はこれまでもちゃんと乗り越えてきたのだから、これくらい平気だ。

 以上、小野善康(大阪大学フェロー)「「脱原発」は今もっとも効果の大きい経済政策である」(「SIGHT」2012年秋号)に拠る。

 【参考】
【原発】「脱原発」は今もっとも効果の大きい経済政策(1)
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