(1)100年前の日本にも、まさに同じように考え、貧困問題と真剣に向かい合い、本質に迫ろうとした人がいた。河上肇である。河上は、『貧乏物語』のなかで、「貧乏神退治の大戦争」は「世界大戦以上の大戦争」だと述べている。
『貧乏物語』は、今からちょうど100年前の1916年9月から12月にかけて「大阪朝日新聞」に連載された。1917年に出版されるや、一大ブームを巻き起こし、30版を重ねた。文庫は40万部以上売れたといわれる。
(2)河上肇は、誠実な人、悲劇の人だ。『貧乏物語』を連載する前年(1915年)に京都帝国大学の教授になっていた。戦前の大学教授は、現在と違って高収入だった。にもかかわらず、貧しい大衆に対して人間としての共感を持ち続けていた。
河上は、1979(明治12)年、山口県の現在の岩国市にて旧・岩国藩士の家に生まれた。山口高等学校文科を卒業し、東京帝国大学法科大学政治科に入学。キリスト教や仏教から強い影響を受けた。卒業後、いくつかの大学で講師をしながら、読売新聞に経済記事を執筆した。1908(明治41)年、後に京都帝大初代経済学部長となった田島錦治の招きにより、京都帝大の講師に就いた。1913(大正2)年から2年間、欧州に留学し、ブリュッセル、パリ、ロンドンなどに滞在。『貧乏物語』には、留学で得た知見が盛り込まれている。
(3)『貧乏物語』は、一生懸命働いても人並みの生活を送ることができない貧困を考察の対象とした。
<世間にはいまだに一種の誤解があって、「働かないと貧乏するぞという制度にしておかないと、人間はとにかく怠けてしかたがない。だから、貧乏は人間を働かせるために必要なものだ」というような議論があります。しかし、少なくとも今日の西洋における貧乏は、決してそういう性質のものではありません。いくら働いても貧乏から逃れることができない、「絶望的な貧乏」なのです。>【注1】
(4)河上は、豊かであるとされる先進国において、なぜこれほど貧乏に困っている人がいるのかという問題を、真正面からとりあげる。一生懸命に働いても、生活に必要なお金を確保できない人【注2】がたくさんいる。彼らは怠けているから貧乏なのではな決してなく、いくら働いても貧乏から脱出できない。絶望的な貧乏なのだ、と強調する。
いわゆるワーキングプアの問題だ。
そして、このような構造的な貧困の根本原因がどこにあるか、を探っていくのだ。
【注1】『貧乏物語 現代語訳』pp.49~50
【注2】河上肇の言葉でいえば「貧乏線以下」の人。
□河上肇/佐藤優・訳解説『貧乏物語 現代語訳』(講談社現代新書、2016)の「はじめに 『貧乏物語』と現代」
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】教育の右肩下がりの時代」
「【佐藤優】トランプ、サンダース旋風の正体 ~米国における絶対貧困~」
「【佐藤優】「パナマ文書」は何を語るか ~資本主義は格差を生む~」
「【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次」
『貧乏物語』は、今からちょうど100年前の1916年9月から12月にかけて「大阪朝日新聞」に連載された。1917年に出版されるや、一大ブームを巻き起こし、30版を重ねた。文庫は40万部以上売れたといわれる。
(2)河上肇は、誠実な人、悲劇の人だ。『貧乏物語』を連載する前年(1915年)に京都帝国大学の教授になっていた。戦前の大学教授は、現在と違って高収入だった。にもかかわらず、貧しい大衆に対して人間としての共感を持ち続けていた。
河上は、1979(明治12)年、山口県の現在の岩国市にて旧・岩国藩士の家に生まれた。山口高等学校文科を卒業し、東京帝国大学法科大学政治科に入学。キリスト教や仏教から強い影響を受けた。卒業後、いくつかの大学で講師をしながら、読売新聞に経済記事を執筆した。1908(明治41)年、後に京都帝大初代経済学部長となった田島錦治の招きにより、京都帝大の講師に就いた。1913(大正2)年から2年間、欧州に留学し、ブリュッセル、パリ、ロンドンなどに滞在。『貧乏物語』には、留学で得た知見が盛り込まれている。
(3)『貧乏物語』は、一生懸命働いても人並みの生活を送ることができない貧困を考察の対象とした。
<世間にはいまだに一種の誤解があって、「働かないと貧乏するぞという制度にしておかないと、人間はとにかく怠けてしかたがない。だから、貧乏は人間を働かせるために必要なものだ」というような議論があります。しかし、少なくとも今日の西洋における貧乏は、決してそういう性質のものではありません。いくら働いても貧乏から逃れることができない、「絶望的な貧乏」なのです。>【注1】
(4)河上は、豊かであるとされる先進国において、なぜこれほど貧乏に困っている人がいるのかという問題を、真正面からとりあげる。一生懸命に働いても、生活に必要なお金を確保できない人【注2】がたくさんいる。彼らは怠けているから貧乏なのではな決してなく、いくら働いても貧乏から脱出できない。絶望的な貧乏なのだ、と強調する。
いわゆるワーキングプアの問題だ。
そして、このような構造的な貧困の根本原因がどこにあるか、を探っていくのだ。
【注1】『貧乏物語 現代語訳』pp.49~50
【注2】河上肇の言葉でいえば「貧乏線以下」の人。
□河上肇/佐藤優・訳解説『貧乏物語 現代語訳』(講談社現代新書、2016)の「はじめに 『貧乏物語』と現代」
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】教育の右肩下がりの時代」
「【佐藤優】トランプ、サンダース旋風の正体 ~米国における絶対貧困~」
「【佐藤優】「パナマ文書」は何を語るか ~資本主義は格差を生む~」
「【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次」