語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【豊洲】市場では「安全宣言」を出せない ~土壌汚染対策法~

2016年09月13日 | 社会
 (1)8月31日、小池百合子・東京都知事は、
   安全性への懸念
   巨額かつ不透明な費用の増加
   情報公開の不足
の三つの疑問点をあげ、築地市場の11月に予定していた豊洲移転の延期を発表した。そして「市場問題プロジェクトチーム」を設置し、2014年11月に2年間に9回の予定で開始した地下水モニタリングの残る2回(2016年10月と17年1月)の結果で安全性を確認し、新たな移転時期を決めると述べた。

 (2)土壌汚染対策法は、
   「地下水汚染が生じていない状態が2年間継続すること」
で「汚染区域」(形質変更時要届出区域)の指定が解除できるとする。
 都環境局はしかし、「2年間のモニタリングに法的な意味はまったくない」と言い切った。それは、都中央卸市場が汚染を東京ガスの操業由来と元々あったヒ素など自然由来に分け、操業由来は掘削・除去するが、自然由来は除去せず、盛り土【注1】【注2】などで封じ込めただけで残っているため、これまで7回のモニタリング結果は環境基準を下回っているが、残る2回が下回っても、土壌汚染対策法により、「汚染区域」は解除できないからだ。市場は、地下水で環境基準の10倍以上は操業由来、環境基準を超えるが10倍以下は自然由来と区別している。

 (3)だが、ならば一体何のためのモニタリングなのか。
 環境局は、「土壌汚染対策法上の汚染区域の台帳を作る事務手続きのため」と答えた。
 8月16日に小池知事が築地・豊洲両市場を視察した後のぶら下がり取材で、
Q(永尾俊彦):豊洲は土壌汚染対策法上の「汚染区域」になっていて、安全宣言をするには「汚染区域」を解除しなければならないが、どう考えるか。
A(小池知事):モニタリングで都民も私自身も納得できることが必要。さらに様々な調査を確認し、総合的に判断したい。
 「汚染区域」は残る2回のモニタリングで環境基準を下回っても解除できないという重要な事実が知事に報告されていないのではないか。

 (4)問題点。
 自然由来・操業由来の区別について「東京ガスはヒ素を触媒として使っていたし、ヒ素の汚染は局所的に表層から地下7メートルまで連続しているので操業由来もあります」【畑明郎・元日本環境学会会長/元大阪市立大学教授】」と指摘した。
 「都は、操業由来の汚染は全部除去するので操業由来の汚染は区域指定を解除すると議会答弁をしています。今になって2年間モニタリングに法的意味はないと言うのは汚染の除去は目指していないと宣言したのも同然で、都民との約束の重大な違反です」【豊洲の汚染問題を追及している水谷和子・一級建築士】

 (5)8月31日、都の新市場整備部は、豊洲市場施設内の空気のベンゼンなどの臨時測定結果を発表した。
   今回・・・・最高0.0013mg/立米(環境基準0.003/立米の4割)
   前回(6月発表)・・・・最高0.0019mg/立米(同6割)
 「都の測定が信頼できるのか疑問です。私が調査を続けているイタイイタイ病では加害企業と被害者団体がデータのクロスチェックをやっているが、豊洲でも第三者のクロスチェックを認めるべきです」【畑氏】

 (6)都は、「環境基準とは70年間毎日15立米の空気を吸い続けても健康に影響がない基準」と説明する。
 だが、有害化学物質対策に詳しい田坂興亜・元国際基督教大学教授は、批判する。「環境基準とは、有害物質の毒性について絶対超えてはダメという基準で、下回っているから安全とは言えません。環境基準の4割、6割とはとんでもない値です。百歩譲ってどうしても豊洲に市場を開設するなら、有害物質濃度はゼロが望ましいわけですから、恒常的に環境基準のせいぜい1%以下にすべきです。その努力をしないで『健康に影響がない』などというのは詭弁です」
 「汚染区域」は解除できず、環境基準からも疑問符がつく。小池知事は豊洲では「安全宣言」を出せない。

 【注1】<土壌汚染対策の「盛り土」がなされていなかったことが分かり、小池百合子・東京都知事が10日、経緯や安全性を検証する考えを示した>【「小池知事、安全性検証へ 豊洲市場の施設、盛り土せず」(朝日新聞デジタル 2016年9月11日)】
 【注2】<都が有識者の専門家会議が盛り土による対策を提言した直後の2008年の時点で、市場施設の地下を活用する案を検討していたことが分かった>【「「盛り土」提言受けた直後に地下活用案を検討 豊洲市場」(朝日新聞デジタル 2016年9月13日)

□永尾俊彦(ルポライター)「豊洲では「安全宣言」出せない 「汚染区域」は解除できず、環境基準からも疑問符」(「週刊金曜日」 2016年9月9日)
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 【参考】
【豊洲】市場移転:宇都宮健児が小池百合子・都知事の決断を分析
【後藤謙次】築地市場の移転延期の決断が小池都知事の手足を縛るリスク
【五輪】が都民の生活を圧迫する ~汚染市場・アパート立ち退き~
【食】移転先の土壌、ヒ素汚染残して開場 ~築地市場~
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【豊洲】市場移転:宇都宮健児が小池百合子・都知事の決断を分析

2016年09月13日 | 社会
 (1)今回の移転延期の決断は、公約どおりとはいえ、相当に勇気が必要な重い決断だった。大変評価するし、歓迎したい。
 8月30日に都庁で小池氏と会い、築地の移転延期を含む「今すぐ取り組むべき」都政の課題10項目の要望書を手渡した。宇都宮健児・日弁連元会長と会うこと自体が異例のことだろうが、都民の声を聞いてオープンに都政を行う姿勢を見せていると評価できる。今後のプロジェクトチームでの徹底的な調査と、情報公開をしっかり進めてほしい。

 (2)小池氏は今後、移転の中止も可能性の一つとして考えざるを得なくなるのではないか。最も重要なのは、土壌汚染の問題だ。都が実施した調査は、本来モニタリングをすべき地点が約300ヵ所も抜け落ちるなど、問題点が指摘されている。都の調査をうのみにせず、第三者によるチームで検証する必要がある。
 移転が遅れると、跡地に建設予定の環状2号線の完成が東京五輪に間に合わず、大会の運営に混乱が生じるとも指摘されている。しかし、五輪が1ヵ月程度のイベントなのに対し、市場はその後も続く。五輪のために市場の安全性をおろそかにできない。
 人びとは五輪は当初の計画から一寸たりとも変えてはならないと思い込まされているが、そんなことはない。新国立競技場にしても、当初関係者は「8万人収容のスタジアムを国際オリンピック委員会(IOC)に約束してしまったから」とザハ・ハディド案に固執していたが、建設費の膨張が批判されたら、結局覆った。旧国立競技場を補修して席数を増やすなど、本来はもっとお金のかからない選択肢があったはずだ。

 (3)同様に、仮に環状2号線が完成しないなら代替案を考えればいい。選手村との交通手段がなくなるなら、選手村の一を変えるなど、柔軟な発想が必要だ。築地市場を移転せず、現地で再整備する可能性についても、再度検討してみるべきだ。
 豊洲市場では仲卸の店舗が狭すぎたり、流通経路が分断されていたりと、使い勝手が問題視されている。これらの話は、都の役人など一部の人たちだけで計画を進め、肝心の仲卸業者の声を聞いてこなかったことに原因がある。
 小池氏には、補修や修理で改善できる部分がないか、よく検討してほしい。
 土壌汚染問題をきちんと安全宣言を出せるなら、新市場の使い勝手を改善した上で移転を実行する結論もあり得る。
 築地移転問題は、小池氏の政治的力量を測る試金石。ここで都議会など既存勢力と容易に妥協すれば求心力を失い、改革も頓挫してしまう。
 「都民ファースト」という理念は評価できる。都知事として当然の姿勢だが、最近の石原晋太郎氏、猪瀬直樹氏、舛添要一氏には欠けていた。

 (4)宇都宮健児の団体「希望のまち東京をつくる会」では今後、都議会の各会派をまわり、築地移転問題についての要望書を提出する予定だ。小池氏とは是々非々の関係でいきたい。豊洲の調査には応援するが、他の政策について必要とあらば、遠慮なく批判する。

□聞き手:小泉耕平(本誌)「宇都宮健児が小池百合子の“決断”を分析」(「週刊朝日」2016年9月16日号)
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 【参考】
【後藤謙次】築地市場の移転延期の決断が小池都知事の手足を縛るリスク
【五輪】が都民の生活を圧迫する ~汚染市場・アパート立ち退き~
【食】移転先の土壌、ヒ素汚染残して開場 ~築地市場~
【選挙】石原都政で何が失われたか ~福祉・医療・教育・新銀行破綻・汚染市場~
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【後藤謙次】築地市場の移転延期の決断が小池都知事の手足を縛るリスク

2016年09月13日 | 社会
 (1)8月31日、小池百合子・東京都知事が最初の政治的決断を下した。築地市場の江東区豊洲への移転を延期する方針を表明した。都の計画では11月7に移転。それを前提にさまざまな準備が進んでいた。
 確かに、移転先の豊洲新市場の土壌汚染問題に対する不信は根強く存在する。しかも11月18日から8回目の水質検査が予定されており、その検査結果を待たずに移転するのは大きな矛盾だといえる。小池の「延期」にも理がある。
 検査結果が出るのは年明けとされ、実現は早くても2017年2月以降にずれ込む見込み。
 場合によっては5月の大型連休明けになるという噂もある。【築地市場がある中央区関係者】

 (2)今度は「延期」のリスクを小池が抱え込む。それを承知で小池はなぜあえて築地移転問題に一石を投じたのか。8月2日の就任記者会見で小池はこう明言した。
 ①「いったん立ち止まり、市場関係者の話を聞く時間を設けたい」
 その上で築地と豊洲の両方を視察した後、移転是非の判断の時期に言及した。
 ②「リオ五輪の閉会式出席後、できるだけ早く結論を出したい」
 ①、②を反故にすれば、小池が都知事選で獲得した291万票という大量票の価値が一気に消えかねない。この圧勝の大きな要因は、都政に絶大な影響力を持つ都議会自民党を「ブラックボックス」と断じたことにあったといっていい。
 それだけに、都知事選ですっかり「敵役」に仕立てあげられた自民党東京都連幹部は小池に新たな「敵意」をむき出しにする。
 「新しい対立軸をつくって都議会での主導権を握ろうとしているのではないか。来年には都議選が予定されているため、都連が強力な反対には出ないと高をくくっているとしか思えない」

 (3)ただし、今度の築地移転問題は「抵抗勢力vs.改革派」の図式では割り切れない問題をはらんでいる。
 <例>「食の安全・衛生」については築地も問題を抱える。関係者も「築地と豊洲の比較論が出てきたら収拾がつかなくなる」と疑問を呈している。
 加えて、築地移転で問題を一層複雑なものにしているのが、密接に絡み合う2020年の東京五輪だ。築地の対岸にある中央区晴海と都心部を結ぶ「環状2号線」の建設が予定されている。晴海には選手村の建設が決まっている。2号線は五輪の運営には欠かせない基幹道路と位置づけられる。その2号線の一部が移転後の築地市場の跡地に建設されることになっている。
 遅くとも年内に着工しなければ五輪開会式に間に合わない。【五輪関係者】
 建設の工期には「まだ少しのりしろがある」という見方もあるにせよ、楽観できる状況ではない。五輪を主催するのは東京都。築地市場の豊洲移転延期の決断が小池の手足を縛ることになりかねない。

 (4)それだけではない。「判断の先送り」によって、小池にこれまでなかった「敵」が生まれるかもしれない。移転「延期」が「中止」につながることへの期待感を生むからだ。築地市場の仲卸の中にはもともと移転に反対だった業者も多い。いったん諦めた「移転反対」の思いに再び火をつける可能性がある。
 しかし、小池は記者会見で「移転延期は中止を含むものか」との問いに「検査結果を精査する」と述べただけで言葉を濁した。結局「移転」となれば反対派の不満が増幅する。逆に移転賛成派には「延期」で失望が広がる。

 (5)移転延期に伴う損失の補填など新たな問題は、小池に対する不信の種をまくことにつながる。
 中央区は、築地移転を前提に着々と準備を進めてきた。いわゆる場外市場内に水産物と青果を扱う仲卸業者がテナントとして入所する「築地魚河岸」とネーミングされた施設を建設した。築地移転に先立って10月15日にオープンさせる方針だったが、入所予定の仲卸業者には「家賃の二重払いになる」という声もあり、不安が広がっている。
 矢田美英・中央区長も予定の変更を示唆した。「築地魚河岸」の開所時期について、もう一度関係者と相談したいと。

 (6)小池は、8月31日の記者会見で延期の理由について、①豊洲新市場の安全性への懸念、②建設費用の増大、③情報公開の不足・・・・の三点を指摘し、繰り返し、「都民ファースト」の言葉を口にした。その上で、こう力説した。
 「小池都政におきましては、『既定路線』『一度決めたから、造ってしまったから何も考えなくてよい』という考え方は採りません」
 築地移転問題を語りながら、同時に都知事としての「所信表明」でもあった。小池は9月1日に「都政改革本部」を発足させた。築地移転問題についても、「市場問題プロジェクトチーム」を設置する方針を明らかにしている。
 いずれも小池が選挙中から指摘してきた「ブラックボックス(自民党都連)」に対する「挑戦状」といっていいかもしれない。今年の第3回定例都議会は9月28日から始まる。築地移転問題の主戦場は都議会に移る。

□後藤謙次「築地市場の移転延期の決断が小池都知事の手足を縛るリスク ~永田町ライブ!No.306」(「週刊ダイヤモンド」2016年9月10日号)
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