語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【戦争】歴史を発掘する ~クルスク戦車戦~

2016年09月28日 | 歴史
 
 <本書にはまた、特定の目的もある。それは新たに利用できるようになったこの戦いに関する大量の細部(公式的、戦術的、個人的な細部)を構造化し、明確にすることである。クルスクはあくまでもまず戦闘であった。それゆえに、誰が誰に対して、何を、いつ、どこで、何を使って、そしてなかんずく、《なぜ》【注】行ったのかを知ることに価値がある。そのために必要になるのは、公式的および個人的な報告を照合し、比較し、批評することであり、少数の読者以外には不案内な地理の中でそれらに脈絡をつけることである。その上で、その結果を読者が無理をしなくても理解できる形にして提出することである。>

 【注】《》内は原文では傍点。

□デニス・ショウォルター(松本幸重・訳)『クルスクの戦い1943 独ソ「史上最大の戦車戦」の実相』(白水社、2015)の「はしがき」から一部引用
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【戦争】負ける側の論理 ~ノルマンディ戦車戦~

2016年09月28日 | 歴史
 
 戦争は勝った側が着目されがちだ。しかし、実のところ、負けた側のほうから学ぶものが多いと思う。戦争とは違うが、野球について、負けた試合のほうから学ぶものが多い、と野村克也・日本体育大学客員教授も言っていた。
 前大戦について、今の日本人は、米国をはじめとする勝った連合国の側から映画を見、ゲームを見ているかもしれない。だから、国連は勝った連合国がつくりだしたものと言われてもピンとこない。だが、負けた日本、ドイツの観点からすると、まったくといってよいほど違った局面が見えてくる。
 『ノルマンディー戦車戦』はレニングラード、ウクライナ、ノルマンディー、イタリアの4地域における独軍の壊滅を記す。なぜ負けるべくして負けたか、そのへんも指摘している。例えば・・・・

 1944年6月6日払暁、連合軍が上陸したノルマンディーの海岸に、最も近く位置していた戦車部隊は第21機甲師団だ、オルヌ川の東に位置していた。師団長(フォイヒティンガー少将)も第22連隊長(オッペルン大佐)も第1大隊長(フォン・フォットベルク大尉)も警報を知っていた。4時には出動準備が完了した。
 戦区では、第21機甲師団は第761歩兵師団の指揮下に入ることになっていた。リヒター師団長は出撃を命じたが、フォイヒティンガーは動けなかった。彼は一方で、国防軍最高司令部の同意なくして行動しないよう命令されていたのである。かくて貴重な時間が、刻一刻失われていった。
 6時30分、フォイヒティンガー少将はついに決断した。自分の責任で部隊を動かすことにしたのだ。
 8時、第22戦車連隊第1大隊、出動。
 9時、第2大隊も出動。
 しかし、彼らがめざした敵は、見当違いの敵だった。海岸ではすでに連合軍の上陸がはじまっていたのに、いまさら敵空挺部隊を攻撃しようとしていたのだ。
 部隊の迷走は続いた。
 燃え上がるカーンの町の脇を通り過ぎたところで、オッペルン大佐の下に「引き返せ」という新たな命令が届いた。部隊は、オルヌ川東方のイギリス軍空挺部隊に一発の砲弾も発射しないうちにカーンに戻ることになった。かくしてオルヌ川当方には第1大隊第4中隊だけのこし、その他の部隊はしんがりを先頭にして回れ右した。
 なぜか。ようやく第84軍団が第21機甲師団の指揮権を得たのだ。第84軍団のマルクス将軍は、第21機甲師団を海岸のイギリス軍撃滅のために使うことにしたのだ。
 第1大隊は爆撃で崩れたカーンの町を抜けた。第2大隊はコロンベルを経由しなければならず、時間がかかった。このため、部隊はばらばらになってしまった。カーンの北の出撃準備陣地に2個大隊が集結したのは、昼過ぎになってしまった。
 すでに敵の上陸後8時間が経っていた。この間にイギリス軍は、着々と海岸堡をひろげ、シャーマン戦車、17ポンド対戦車砲、M10駆逐戦車を揚陸していた。上陸直後なら踏みつぶすこともできた上陸部隊は、いまや防備をかためてドイツ軍を待ち受けていた。
 第22戦車連隊は、イギリス軍の防御陣地に突き当たり、最初の2、3分でⅣ号戦車5両が破壊された。歩兵も砲兵もいない戦車だけの突破など、とても不可能だった。オッペルン大佐は、後退を命じるほかなかった。
 かくして、ノルマンディー海岸の敵海岸堡を撃滅する唯一のチャンスは失われたのであった。

□斎木伸生『ノルマンディー戦車戦 --タンクバトル〈5〉』( 光人社NF文庫、2015)
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【食】の安全に疑問 ~ゲノム編集技術を使う食品開発の活発化~

2016年09月28日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)ゲノム編集技術を用いた食品の開発が活発になっている。すでに市場化された作物は、
  (a)除草剤耐性ナタネ・・・・ベンチャー企業「サイバス」社(米国カルフォニア州)が開発した。スルホニルウレア系除草剤に耐性を持たせたもので、同社は穀物メジャー「カーギル」社と組んで、売り込みを図っている。
  (b)マーガリンなどに加工した際にトランス脂肪酸を含まない大豆・・・・ベンチャー企業「ケイリクスト」社(米国ミネソタ州)が開発した。
  (c)変色しないマッシュルーム・・・・ペンシルベニア大学の研究チームが開発した。
  (d)芽に含まれる有害物質のソラニンを減らしたり、加熱した際に生じる発癌物質アクリルアミドを低減させたジャガイモ・・・・理化学研究所など。

 (2)ゲノム編集技術とは、制限酵素を用いてピンポイントで目的とする位置でDNAを切断し、遺伝子の働きを壊す技術のことだ。制限酵素とは、DNAを切断する酵素のことで、目的とする場所に誘導する技術と、その制限酵素の組み合わせで成り立っている。
 ゲノム編集技術を応用して種子独占を狙っているのが、モンサント、デュポンなど。開発合戦が展開されている。特にデュポンは、最新技術の「クリスパー・キャスナイン(CRISPR Cas9)」の特許独占を狙っている。すでに対乾燥トウモロコシ、収量増小麦を試験栽培中だとみられている。
 動物での開発も盛んだ。特に進んでいるのが、ミオスタチン遺伝子(筋肉量を制御)を壊す操作だ。筋肉量を制御できなくなった動物は、筋肉質になるとともに、成長が早く巨大化していく。その結果、筋肉量の多い牛や、成長の早いトラフグなどが誕生している。耐病性の豚、角のない乳牛、卵アレルギーを引き起こさない鶏なども開発されている。

 (3)政府内閣府も、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の中で、「次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション創出)」の取り組みを進めている。その柱となる「新たな育種技術の確立」として進めているのが、ゲノム編集技術などの新技術開発だ。
 そのうち特に力を入れて取り組むテーマとして、高機能稲、高機能トマト、おとなしいマグロの3つのモデルを設定している。高機能作物とは、トマトを例にとると、日持ちして栄養価が高いなど、複数の機能を併せ持つ作物をさす。

 (4)一方、多くの科学者がゲノム編集技術の危険性を指摘し、慎重さを求めている。
 〈例〉この技術では「安全神話」がふりまかれているが、それは神話にすぎず、特に問題なのは間違いを起こしてターゲットでない箇所でDNAを切断してしまうことだ。【注1】
 〈例〉遺伝子の働きは複雑で、この操作が他の遺伝子の働きや、遺伝子間の相互作用に影響を及ぼす可能性は高い。そのことが毒性を増幅するなど、食の安全性に悪影響をもたらしたり、栄養分を低下させたり、新たなアレルゲンをもたらす可能性がある。【注2】
 〈例〉痕跡が残らないことへの懸念、軍事技術への転用の容易さ。【注3】

 【注1】2016年4月25日付け「インデペンデント・サイエンス・ニュース」
 【注2】2016年1月13日付け「エコロジスト」
 【注3】米国アカデミー、2016年6月8日

□天笠啓祐「ゲノム編集技術を使い、食品の開発が進む/食の安全は大丈夫なのか?」(「週刊金曜日」2016年9月23日号)
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