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①芳沢光雄『生き抜くための高校数学 高校数学の全範囲の基礎が完璧にわかる本』(日本図書センター 2,400円)
②鈴木大拙『浄土系思想論』(岩波文庫 970円)
③チャールズ・クローヴァー(越智道雄・訳)『ユーラシアニズム ロシア新ナショナリズムの台頭』(NHK出版 3,300円)
(1)①は、数学にかなり強い苦手意識がある人でもやり通すことができる親切な構成になっている。〈例〉最大値/最小値と極大値/極小値の違いについて、次のように説明する。
<世の中にはジャンルや地域を問わずに最も有名な人がいるものですが、特定のジャンルや地域を限定すると、その中だけで最も有名な人もいます。それと同じで、関数についても、定義域の全範囲における最大値や最小値は考えられますが、それとは別に定義域を局地的に限定すると、その範囲での最大値や最小値を考えることができます。そこで登場するのが、極大値や極小値という用語です>
用語を正確に理解しながら、着実に数学力を向上させることができる。数学嫌いの高校生、大学生であっても本書を使えば、確実に知識の欠損を埋めることができるだろう。
(2)②は、西洋哲学の訓練を受けた人に理解可能な言語で浄土思想の解釈に努めた名著だ。
<真宗では、すべての機構が弥陀を中心にして、彼から放射出するのみならず、かく放射出せられたものが、また彼の上に回帰するのである。それ故、弥陀のはたらきは遠心力と求心力との複合性から成立している。そしてそれが往還的回互性をもっているので、遠心が求心で、求心が遠心である>
浄土真宗にとどまらず、近代仏教の教学(理論)を整備する過程で、鈴木氏が及ぼした影響は、プラス、マイナスの両面でとても大きい。
(3)③は、現下ロシアの国家戦略を知るために最適の書だ。著者は、次のように指摘する。
<ストルーヴェ教授は旧体制、サヴィツキーは新興の前衛勢力を代表していたが、後者の勢力はロシアは過去を振り返るのではなく、未来をめざせという主張を掲げていた。ボリシェヴィキ革命は事実であり、それが起きなかったかのように過去を復古するのはばかげているというのである。サヴィツキーは、明らかにボリシェヴィキの実績をある程度は賞讃していた--共産主義は別として、迅速に政権を糾合し、彼に言わせれば「ロシアを外国勢力の干渉から守った」ことは評価していたのである。そしてその思いを1921年末に恩師に書き送った。それが両者決裂の最初で、以後、サヴィツキーはトルベツコイと組んで、ユーラシアニズムに邁進することになる>
サヴィツキーの思想は、ユーラシアの地政学に基づいて「非協賛主義的な帝国」にソ連を再編成することだ。まさにこの戦略を21世紀のロシアでプーチン大統領が実現しているのだ。
□佐藤優「数学嫌いのための数学入門 ~知を磨く読書 第14回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年10月1日号)
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【参考】
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「【佐藤優】大学にも外務省にもいる「サンカク人間」 ~『文学部唯野教授』~」
「【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次」
「【佐藤優】「イスラム国」をつくった米大統領、強制収容所文学、「空気」による支配を脱構築」
「【佐藤優】トランプの対外観、米国のインターネット戦略、中国流の華夷秩序」
「【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話」
「【佐藤優】孤立主義の米国外交、少子化対策における産まない自由、健康食品のウソ・ホント」
「【佐藤優】アフリカを収奪する中国、二種類の組織者、日本的ナルシシズムの成熟」
「【佐藤優】キリスト教徒として読む資本論 ~宇野弘蔵『経済原論』~」
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