語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【モンテーニュ】論byアンドレ・ジイド ~相対主義~

2016年09月19日 | 批評・思想
 
 古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。

 次の二つの文章はまったく相容れない文章である、いかにモンテーニュが事務管理に不向きであったかを示す、うんぬんと書いて、ジイドは以下のように引く。すなわち、
 <「事実、マタ何ノ憚ルトコロモナク告白スルガ、余ハ必要トアラバ聖みしゅえるに一挺ノ蝋燭ヲ献ジ、ソノ龍ニモ他ノ一挺ヲ献ジカネナイノデアル。>・・・・①
 <グラツイタ、曖昧ナ態度ヲトリ、国家ノ擾乱ニ対シテモ、民心分裂ノ渦中ニアッテモ、自己ノ感情ヲ動カサズ、普遍不党デイルコトハ美シイトモ正シイトモ余ハ思ワナイ。イズレカノ党派ニ属サネバナラヌ。>・・・・②

 つまり、
  ①自分は一方にもその敵にも手をさしのべる
と言う舌の根も乾かぬうちに、
  ②国家の大事においては党派的でなければならない
と書くのは矛盾している、と非難するのだ。

 ②は、政治の論理である。味方でないものは敵、敵は殺せ。これは、殊に動乱の世において貫徹されるロジックだ。そしてモンテーニュが生きた時代は、動乱の世であった。
 他方①は、市民社会の倫理である。敵は敵として位置づけるにせよ、その絶滅までは要求しない。政治的には敵でも、この世は政治だけで成り立っているわけではない。価値は多様であり、各自の価値の多様性を尊重する相対主義。それは市民社会のロジックだ。
 モンテーニュの相対主義は、ボルドー市長を務めたときに殊に強く発揮されただろう、と思う。行政マンには平凡な公平さが要求される。再選され、2期4年間を勤めあげたところを見ると、モンテーニュの均衡精神は歓迎されたらしい。一見不徹底で、矛盾して見えるモンテーニュの均衡精神は、極めて実際的であったのではないかと推測される。

□アンドレ・ジイド(渡辺一夫・訳)『モンテーニュ論』(岩波文庫、1939/1990復刊)
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【食】への影響が甚大な台風被害 ~食料安保が揺らぐ~

2016年09月19日 | 社会
 (1)北海道を襲った台風の、食への影響が甚大だ。
 北海道は農産物の一大産地で、ジャガイモ(80.6%)・小麦(72.8%)・タマネギ(59.2%)・大豆(35.0%)・てん菜(100%)・小豆(93.4%)・ニンジン・大根・カボチャ・そばが全国一、米は新潟県に次いで二番目の生産量だ。
 その大産地に台風が押し寄せた。8月17日には7号、21日には11号、23日には9号と、3回も上陸。年間3回も北海道に上陸したのは、1951年の統計開始以来初めてのことだ。
 特に道内のタマネギの3割を占める北見市では、市内を流れる常呂川が氾濫し、農地の3分の1が被災した。タマネギやジャガイモの畑が冠水しただけでなく、石北線が寸断された影響で、北見駅から旭川駅まで臨時貨物で輸送されるタマネギ列車が運行できなくなった。産地と輸送手段がダブルパンチをくらった。
 さらに、30日に岩手県に上陸した台風10号は、ジャガイモの大生産地である道内の十勝地方に大きな被害をもたらした。農業被害は6,344ヘクタールにもおよぶ(9月5日現在、北海道庁調べ)。

 (2)昨年と比べると、卸売価格でタマネギが21%、ジャガイモが39%高騰している(9月3日現在、農林水産省調べ)。
 タマネギに関しては、北海道に次ぐ生産量第2位の佐賀県で、生育不良をもたらす「べと病」が蔓延し、出荷量が半減したことも影響している。
 ジャガイモの生産量の8割が北海道で、十勝は全国の3割を占める。
 カルビーは、ポテトチップスの新商品の原料である北海道産ジャガイモが確保できないので発売を延期すると発表した。今後米国産ジャガイモの輸入を拡大することを検討している。

 (3)十勝の生産量が多い農作物は、ジャガイモだけでなく、小麦、豆類(小豆・大豆・黒豆など)、砂糖の原料であるてん菜(ビート)、芽室町のスイートコーンなどもある。おせち料理の黒豆やぜんざいなどの価格にも影響する可能性がある。

 (4)北海道は、農産物だけでなく、酪農、肉用牛、水産業など日本の食を支えてきた大黒柱だ。梅雨もなく、今まで台風による大きな被害を受けたこともほとんどなかった。そのお蔭で、日本の食は曲がりなりにも守られてきたのだ。
 8月の異変は今年だけの異常気象なのか、温暖化による環境変化で今後も起こり得るのか定かではないが、安定した食料を確保する(食料安保)の観点からすると、日本は厳しい警告を突き付けられたとみるべきだ。
 TPPなどの食のグローバル化で、世界中から輸入すれば今後もこうした危機が乗り越えられると思うのは非常に甘い考えだ。
 異常気象は日本に限ったことではない。世界中で洪水や干ばつなどが多発している。その規模は日本に比べてかなり大きい。海外に食料を依存していると、依存先の国で異常気象が起きた時に、食料が全く入ってこない可能性がある。

 (5)北海道に代わる産地はない。北海道をないがしろにすると、自給率の高い農作物の安定供給に大きな影響を与える。
 安倍政権は「6次産業化で、加工食品の輸出を拡大し、農業・農村の所得倍増を果たす」としているが、それ以前に、第一次産業の安定生産体制を作ることが必要不可欠だ。
 国家戦略特区はTPPのために作るのではなく、食料安定供給を確保するための特区に変えるべきだ。その第一弾を北海道にすればよい。 

□垣屋達哉「台風被害の食への影響は甚大/海外に頼らず食料の安定供給を模索せよ」(「週刊金曜日」2016年9月16日号)
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