語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【仕事】田宮俊作『田宮模型の仕事』

2016年09月14日 | ノンフィクション
 
 古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。

 世界にその名をとどろかせている田宮模型株式会社(現・株式会社タミヤ)の、創業期から1997年ごろ至るまでが回想される。
 それまでの主な製品が紹介されているから、かつて人生の一時期に手にした模型に再会して懐かしく思う人が少なくあるまい。いや、今日の大人にも無縁ではない。本書が言及するジオラマは、模型少年(または少女)の占有にとどめるのはもったいない。
 よい製品を生みだしたのは、寝食を忘れた努力があったからだ。そしてまた、消費者のニーズを敏感に汲み上げて新製品へ反映させたからだ。そうした実例が本書に豊富に紹介されている。
 作るだけでは売れない。売る戦略も必要である。その戦略は、田宮模型の英国総代理店RIKO社の前社長が寄せた思い出、33年間の付き合いの回想で構成される終章に詳しい。

□田宮俊作『田宮模型の仕事-木製モデルからミニ四駆まで』(ネスコ、1997/後に『田宮模型の仕事』文春文庫、2000)
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【片山善博】情報公開が首長を守る ~舛添都知事辞任の教訓~

2016年09月14日 | ●片山善博
 (1)法外な海外出張費への批判に始まったいくつかのスキャンダルが原因で、桝添要一・前東京都知事が辞任を余儀なくされた。それを受けて行われた知事選では小池百合子氏が圧勝し、初の女性知事による新しい都政がスタートした。
 舛添氏の去就をめぐるマスコミ報道は、東京都だけでなく広く全国的な関心を集めた。舛添スキャンダルとは、表面上はもっぱら東京都の不適切な公金支出だったりしたが、実は必ずしも東京都だけの問題ではなく、他の多くの自治体に共通する要素をはらんでいる。全国の自治体は、興味本位でなく自身の問題として、そこから貴重な教訓を引き出す姿勢があっていい。

 (2)舛添氏が批判されたことの一つが(1)の冒頭で触れた海外出張だ。都知事在任中の舛添氏の海外出張は計9回、その費用は総額2億4,700万円。一見、回数が多いし、費用をかけ過ぎだ。
 むろん、出張目的が明確で東京都として重要度が高い用務であれば、回数にこだわるべきではない。しかし、何のために行ったのかよく分からない出張、わざわざ知事が出かける必要などなさそうな出張が散見される。
 しかも、そうした出張を含めて、要した経費があまりに多額だ。大勢の部下を連れて行っただけでなく、1泊約20万円もする豪華な部屋に宿泊していた。税の使い方として法外だ。

 (3)こんな出張を繰り返す知事に対し、都議会はどう向き合っていたのか。ただ、手をこまねいて傍から見ていただけだったのか。
 二元代表制を採用している地方自治制度は、住民の代表である知事や市町村長を、もう一方の住民代表である議会が厳しくチェックする仕組みだが、東京都ではその仕組みがうまく作動していない。
 もし、都議会が平素から知事の海外出張を含む「行状」や「金遣い」に目を光らせ、そこに不適切なことや行き過ぎがあれば注意し、場合によっては予算の使い方に制約を加えるようなことをやっておけば、知事の行動もおのずと抑制され、辞任に追い込まれるような事態は避けられたかもしれない。

 (4)全国の自治体を見ると、議会多数派が概して「与党」を名乗り、知事や市町村長が提出する議案をすべて無傷で通すだけでなく、その言動に対しても批判を控える傾向にある。「与党として守ってやらねば」という心理が働くのだろう。
 しかし、このたびの東京都のケースでも明らかなように、それが後々、守ってあげたはずの知事や市町村長を失脚させることにつながりかねない。全国の与党を名乗る会派は、常に緊張感を持ち、是々非々の姿勢で知事や市町村長に対峙しなければならない。
 これが、教訓の一つだ。

 (5)海外出張問題が取り沙汰されていた頃、東京都に対して旅費の内訳を開示するよう、マスコミなどから情報公開請求が出されていた。それに対して東京都が提出した文書は、黒塗りで消された部分があまりにも目立っていた。
 黒塗りすなわち不開示にできる項目は、情報公開条例に基づき個人のプライバシーに関することなどに限定されているが、都が不開示にした部分の多くはそれに該当しないように見受けられる。
 ちなみに、全国市民オンブズマン連絡会議が過去数次にわたって実施した自治体の情報公開度調査では、東京都の評価は総じて低かった。今日でもその体質は変わっていないのだろう。
 舛添氏にはもはや後の祭りなのだが、もし東京都が以前から情報公開に熱心で、知事の出張旅費などもその詳細を積極的に開示していれば、もっと早い段階で不適切な旅費支出などが公になり、それがその後の法外な出張を抑止することになっていた可能性は高い。
 情報公開を徹底して透明性の高い自治体運営を実現することは、住民の知る権利を保障するだけでなく、知事や市町村長が自ら身を守るすべでもある。
 これも、このたびの都政の混乱から得られる教訓の一つだ。

□片山善博(慶應義塾大学教授)「情報公開が首長を守る 舛添氏辞任の教訓 ~現論~」(「日本海新聞」 2016年9月11日)
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 【参考】
【片山善博】大切なことに時間を使う ~セネカ『人生の短さについて』~
【片山善博】二度も続いた東京都知事の失脚-その教訓を都政の改革に生かす
【片山善博】参議院選、鳥取島根ほかの「今回の合区は憲法違反」
【片山善博】教育、図書館、議会の力 ~カーネギー自伝~
【片山善博】らの鼎談 違法性がなくても知事の適性がない ~舛添は日本の恥(2)~
【片山善博】&増田寛也&上脇博之 舛添知事は日本の恥だ ~辞任勧告~
【片山善博】舛添都知事問題は自治システム改善の教材
【社会】防災体制の点検、真剣に ~平素の備えが大切~
【片山善博】口利き政治の弊害と政治家本来の役割
【片山善博】選挙権年齢引下げと主権者教育のあり方
【片山善博】TPPから見える日本政治の悪弊 ~説明責任の欠如~
【片山善博】政権与党内の議論のまやかし ~消費税軽減税率論議~
【経済】今導入すると格差が拡大する ~外形課税=赤字法人課税~
【片山善博】【沖縄】辺野古審査請求から見えてくる国のモラルハザード
【片山善博】川内原発再稼働への知事の「同意」を診る
【片山善博】違憲と不信で立ち枯れ ~安保法案~
【片山善博】【五輪】新国立競技場をめぐるドタバタ ~舛添知事にも落とし穴~
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【片山善博】都知事選に見る政党の無責任 ~候補者の「品質管理」~
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【政治】地方議会における口利き政治の弊害 ~民主主義の空洞化(3)~
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