(承前)
9・11が残した最大の遺恨は、誰が「正しいか」を巡って命を賭ける殺人が是である、という認識ではあるまいか。その「正しさ」のなかでも「犠牲を受けた者だからこそ掲げることのできる正しさ」が、圧倒的な説得力を持って軍事行動を容認することになった。
(a)9・11を実行した犯人とその組織の攻撃の犠牲になった米国は、絶対に「正しい」。だから、それらをかくまうアフガニスタンやイスラーム社会全体に対して、何をやってもよい。
(b)フセイン政権下で犠牲になり続けてきたシーア派社会は絶対に「正しい」。だから、宗派色満載のシンボルが祖国を埋め尽くしても、かまわない。
(c)シリア内戦でアサド政府軍やロシア軍の破壊的な攻撃の犠牲となるスンナ派の住民たちは、絶対的に「正しい」。だからジハードに身を投じてまでも、全世界のイスラーム教徒がISに馳せ参じる。
9・11後の国際社会の最大の失敗は、その「正しさ」の横行に歯止めをかけられなかったことだ。「正しさ」の主張が乱立すること、「正しさ」が裏切られたときにそれを絶望のまま放置したことが、この15年間の国際社会の混迷を生んでいる。
なぜアルカーイダが、ビンラーディンが、タリバーンが、9・11を「正しい」と主張するに至ったのか、なぜ彼らの「正しさ」が9・11に至るまでの過程で他の「正しさ」と折り合いをつけることができなかったのか。そうした根本的な問題は、15年経てもなお解明されていない。解明されていないから、それが再発することを予防する手立てを得られていない。
その間に、「正しさ」を裏切られた人びとが、新たに自分たちだけの「正しさ」を見つけては、戦いを繰り広げていく。それを解きほぐす糸口はまだ見えない。
□酒井啓子(千葉大学教授)「誰が「正しい」かを競う戦い 9・11から中東の宗派対立へ」(「世界」2016年10月号)の「国際社会の最大の失敗とは何か」
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【酒井啓子】湾岸地域内のパワーバランスの変化 ~中東・宗派対立の起源(5)~」
「【酒井啓子】対立のシンボルの増殖 ~中東・宗派対立の起源(4)~」
「【酒井啓子】蔓延する「わかりやすい二項対立」 ~中東・宗派対立の起源(3)~」
「【酒井啓子】宗派ではなく社会格差・階層間の対立 ~中東・宗派対立の起源(2)~」
「【酒井啓子】9・11が開けたパンドラの箱 ~中東・宗派対立の起源(1)~」
9・11が残した最大の遺恨は、誰が「正しいか」を巡って命を賭ける殺人が是である、という認識ではあるまいか。その「正しさ」のなかでも「犠牲を受けた者だからこそ掲げることのできる正しさ」が、圧倒的な説得力を持って軍事行動を容認することになった。
(a)9・11を実行した犯人とその組織の攻撃の犠牲になった米国は、絶対に「正しい」。だから、それらをかくまうアフガニスタンやイスラーム社会全体に対して、何をやってもよい。
(b)フセイン政権下で犠牲になり続けてきたシーア派社会は絶対に「正しい」。だから、宗派色満載のシンボルが祖国を埋め尽くしても、かまわない。
(c)シリア内戦でアサド政府軍やロシア軍の破壊的な攻撃の犠牲となるスンナ派の住民たちは、絶対的に「正しい」。だからジハードに身を投じてまでも、全世界のイスラーム教徒がISに馳せ参じる。
9・11後の国際社会の最大の失敗は、その「正しさ」の横行に歯止めをかけられなかったことだ。「正しさ」の主張が乱立すること、「正しさ」が裏切られたときにそれを絶望のまま放置したことが、この15年間の国際社会の混迷を生んでいる。
なぜアルカーイダが、ビンラーディンが、タリバーンが、9・11を「正しい」と主張するに至ったのか、なぜ彼らの「正しさ」が9・11に至るまでの過程で他の「正しさ」と折り合いをつけることができなかったのか。そうした根本的な問題は、15年経てもなお解明されていない。解明されていないから、それが再発することを予防する手立てを得られていない。
その間に、「正しさ」を裏切られた人びとが、新たに自分たちだけの「正しさ」を見つけては、戦いを繰り広げていく。それを解きほぐす糸口はまだ見えない。
□酒井啓子(千葉大学教授)「誰が「正しい」かを競う戦い 9・11から中東の宗派対立へ」(「世界」2016年10月号)の「国際社会の最大の失敗とは何か」
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【参考】
「【酒井啓子】湾岸地域内のパワーバランスの変化 ~中東・宗派対立の起源(5)~」
「【酒井啓子】対立のシンボルの増殖 ~中東・宗派対立の起源(4)~」
「【酒井啓子】蔓延する「わかりやすい二項対立」 ~中東・宗派対立の起源(3)~」
「【酒井啓子】宗派ではなく社会格差・階層間の対立 ~中東・宗派対立の起源(2)~」
「【酒井啓子】9・11が開けたパンドラの箱 ~中東・宗派対立の起源(1)~」