(1)差別が構造化している場合、通例、差別する者は自らの差別性を認識していない。この現実が端的に表れているのが、MV22オスプレイの沖縄への強行配備だ(10月1日【注1】)。
<日米安全保障条約で、米軍が配備する機種にまで注文をつけられないというのが政権の立場だ。この日の普天間着陸も止める手立てはなかった。防衛相留任が固まっていた森本氏は1日午前、「当初米国が考えていた通りの予定を実行した」と記者団に語った。/防衛省には、オスプレイ配備への反発が普天間を名護市辺野古に移す日米合意の環境整備につながるとの見方もある。森本氏は移設の前提となる国の環境影響評価(アセスメント)を年内にも終える方針。幹部は「大臣は移設のため来年1月にも知事への埋め立て申請を考えている」と語る。/首相は内閣改造にあたり森本氏に「オスプレイを含め普天間問題を前に進めるように」と指示。改造を発表する記者会見の冒頭発言でオスプレイに触れ、「普天間飛行場の一日も早い移設・返還を始め、沖縄の負担軽減や振興に一層力を入れていく」と強調。県が望む那覇空港第2滑走路建設などを念頭に、「アメ」をちらつかせた>【注2】
(2)(1)で引用した森本防衛相や防衛官僚の考えは、沖縄に地する構造的差別を体現した発想だ。このような差別的言説に批判的コメントをつけずに報道する朝日新聞の報道姿勢も差別の構造に組み込まれている。
(3)10月16日、沖縄県で、米兵2人による集団強かん致傷事件が発生した。沖縄県民は、事件の悪質性に加え、東京の政治エリート(国会議員・官僚)の不誠実な態度に激高している。その不誠実さの象徴になっているのが、森本敏・防衛相の「事故」発言だ【注3】。
10月22日付け「琉球新報」社説【注4】に沖縄の民意が端的に示されている。
(a)この傷事件を森本防衛相は繰り返し「事故」と表現している。これが国民を守るべき立場の閣僚の人権感覚か。妄言だ。
(b)通りすがりの女性を路上で暴行した行為は容疑通りなら、凶悪犯罪だ。蛮行を「事故」と矮小化し表現することで被害女性をさらに傷つけ、苦しめている。女性全体を侮辱する発言だ。り断じて許せない。
(c)防衛相は、記者団から事件の受け止め方を聞かれ、「非常に深刻で重大な『事故』だ」と発言した。二度、三度繰り返しており、吉良州司・外務副大臣も同様に使っている。米軍基地内外で相次ぐ性犯罪を米政府は深刻に受け止めている。これに比べ日本側の対応は浅はかだ。
(d)防衛相は、仲井真弘多知事の抗議に対し「たまたま外から出張してきた米兵が起こす」と発言した。しかし、在沖米軍の大半を占める海兵隊は6ヵ月ごとに入れ替わる。移動は常態化しており、「たまたま外から出張してきた」との説明は言い訳にすぎない。そのような理屈が成り立つなら「ローテーションで移動してきたばかりで沖縄の事情を知らない兵士がたまたま事故を起こした」と、いくらでも正当化できよう。防衛相は詭弁を弄するのではなく、無責任な発言を直ちに撤回すべきだ。
(e)政府に警告する。米兵犯罪が後を絶たないため、仲井真知事をはじめ多くの県民が、「諸悪の根源」は米軍の特権を認め占領者意識を助長している日米地位協定にある、との認識を一段と深めている。
(f)県民からすれば凶悪犯罪を「事故」と認識する不見識な大臣、副大臣を抱えたことこそ「事故」だ。米兵犯罪や基地問題と真剣に向き合えない政務三役は、政権中枢にいる資格はない。日米関係を再構築する上でも害悪だ。
(4)しかし、森本防衛相、野田佳彦・首相、玄葉光一郎・外相を含む現政権幹部の大多数は事態の深刻さを理解していない。
(5)さらに、11月2日未明、酒に酔った米兵が住居に侵入し、中学生を殴る障害事件が発生した。米兵は、米軍の病院に収容されているため、日本の管轄外にある。同2日の記者会見で藤村修・官房長官は、「起訴前の身柄引き渡しを要請する必要はないと考える」と述べた。日米地位協定に関し、外務官僚ができる限り米国に有利な解釈をしようと腐心している。その流れを藤村官房長官が追認している。
11月3日付け「沖縄タイムス」社説【注5】は次のようにいうが、その通りだ。
(a)容疑が固まり次第、日本側は、早急な身柄引き渡しを米側に要求すべきである。
(b)地位協定や同協定の運用に関する「密約」によって、米兵には、さまざまな特権が与えられている。基地に逃げ込んだら日本の警察は被疑者を逮捕することができない。公務中の犯罪に対しては裁判権を行使することもできない。そうしたことが、米兵の「逃げ得意識」や「占領者意識」を生み、事件を誘発してはいないか。
(c)オスプレイ配備と辺野古移設に関して政府は、いかなる意味でも地元の合意を得ていない。その上、2米兵による暴行事件や民家への未明の侵入事件が起きているのである。沖縄では「歩く凶器に飛ぶ凶器」という言葉さえ使われるようになった。
(d)沖縄県民の生命・財産、人権が日常的に脅かされている現実を放置して安全保障を語ることは許されない。
(6)客観的に見て、日本政府は、沖縄県民を2級市民と見なしている。日本の陸地面積のわずか0.6%を占めるに過ぎない沖縄県に在日米軍基地の74%が所在している。これは構造的差別そのものだ。このような差別政策が米兵による犯罪を含む加重負担を沖縄県民にもたらしている。
【注1】同日、第三次野田佳彦改造内閣発足。
【注2】記事「野田政権、米軍に口挟めず 沖縄に「アメ」ちらつかせる」(朝日新聞デジタル記事2012年10月2日03時00分)
【注3】「【沖縄】米兵犯罪を「事故」扱いする大臣発言 ~本土マスコミの退廃~」
【注4】社説「防衛相「事故」発言 人権感覚を欠く妄言」(琉球新報 2012年10月22日)
【注5】社説「米兵住居侵入傷害]やりたい放題を許すな」(沖縄タイムス 2012年11月3日 10時21分)
以上、佐藤優「オスプレイ強行配備撤回の是非問う県民投票の重要性 ~佐藤優の飛耳長目 第77回~」(「週刊金曜日」2012年10月12日号)および佐藤優「米兵の集団強かん事件機に主権回復に向かう沖縄 ~佐藤優の飛耳長目 第78回~」(「週刊金曜日」2012年11月9日号)に拠る。
【参考】
「【沖縄】に対する構造的差別 ~オスプレイ問題~」
「【沖縄】の青い空は誰のものか ~オスプレイ問題~」
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<日米安全保障条約で、米軍が配備する機種にまで注文をつけられないというのが政権の立場だ。この日の普天間着陸も止める手立てはなかった。防衛相留任が固まっていた森本氏は1日午前、「当初米国が考えていた通りの予定を実行した」と記者団に語った。/防衛省には、オスプレイ配備への反発が普天間を名護市辺野古に移す日米合意の環境整備につながるとの見方もある。森本氏は移設の前提となる国の環境影響評価(アセスメント)を年内にも終える方針。幹部は「大臣は移設のため来年1月にも知事への埋め立て申請を考えている」と語る。/首相は内閣改造にあたり森本氏に「オスプレイを含め普天間問題を前に進めるように」と指示。改造を発表する記者会見の冒頭発言でオスプレイに触れ、「普天間飛行場の一日も早い移設・返還を始め、沖縄の負担軽減や振興に一層力を入れていく」と強調。県が望む那覇空港第2滑走路建設などを念頭に、「アメ」をちらつかせた>【注2】
(2)(1)で引用した森本防衛相や防衛官僚の考えは、沖縄に地する構造的差別を体現した発想だ。このような差別的言説に批判的コメントをつけずに報道する朝日新聞の報道姿勢も差別の構造に組み込まれている。
(3)10月16日、沖縄県で、米兵2人による集団強かん致傷事件が発生した。沖縄県民は、事件の悪質性に加え、東京の政治エリート(国会議員・官僚)の不誠実な態度に激高している。その不誠実さの象徴になっているのが、森本敏・防衛相の「事故」発言だ【注3】。
10月22日付け「琉球新報」社説【注4】に沖縄の民意が端的に示されている。
(a)この傷事件を森本防衛相は繰り返し「事故」と表現している。これが国民を守るべき立場の閣僚の人権感覚か。妄言だ。
(b)通りすがりの女性を路上で暴行した行為は容疑通りなら、凶悪犯罪だ。蛮行を「事故」と矮小化し表現することで被害女性をさらに傷つけ、苦しめている。女性全体を侮辱する発言だ。り断じて許せない。
(c)防衛相は、記者団から事件の受け止め方を聞かれ、「非常に深刻で重大な『事故』だ」と発言した。二度、三度繰り返しており、吉良州司・外務副大臣も同様に使っている。米軍基地内外で相次ぐ性犯罪を米政府は深刻に受け止めている。これに比べ日本側の対応は浅はかだ。
(d)防衛相は、仲井真弘多知事の抗議に対し「たまたま外から出張してきた米兵が起こす」と発言した。しかし、在沖米軍の大半を占める海兵隊は6ヵ月ごとに入れ替わる。移動は常態化しており、「たまたま外から出張してきた」との説明は言い訳にすぎない。そのような理屈が成り立つなら「ローテーションで移動してきたばかりで沖縄の事情を知らない兵士がたまたま事故を起こした」と、いくらでも正当化できよう。防衛相は詭弁を弄するのではなく、無責任な発言を直ちに撤回すべきだ。
(e)政府に警告する。米兵犯罪が後を絶たないため、仲井真知事をはじめ多くの県民が、「諸悪の根源」は米軍の特権を認め占領者意識を助長している日米地位協定にある、との認識を一段と深めている。
(f)県民からすれば凶悪犯罪を「事故」と認識する不見識な大臣、副大臣を抱えたことこそ「事故」だ。米兵犯罪や基地問題と真剣に向き合えない政務三役は、政権中枢にいる資格はない。日米関係を再構築する上でも害悪だ。
(4)しかし、森本防衛相、野田佳彦・首相、玄葉光一郎・外相を含む現政権幹部の大多数は事態の深刻さを理解していない。
(5)さらに、11月2日未明、酒に酔った米兵が住居に侵入し、中学生を殴る障害事件が発生した。米兵は、米軍の病院に収容されているため、日本の管轄外にある。同2日の記者会見で藤村修・官房長官は、「起訴前の身柄引き渡しを要請する必要はないと考える」と述べた。日米地位協定に関し、外務官僚ができる限り米国に有利な解釈をしようと腐心している。その流れを藤村官房長官が追認している。
11月3日付け「沖縄タイムス」社説【注5】は次のようにいうが、その通りだ。
(a)容疑が固まり次第、日本側は、早急な身柄引き渡しを米側に要求すべきである。
(b)地位協定や同協定の運用に関する「密約」によって、米兵には、さまざまな特権が与えられている。基地に逃げ込んだら日本の警察は被疑者を逮捕することができない。公務中の犯罪に対しては裁判権を行使することもできない。そうしたことが、米兵の「逃げ得意識」や「占領者意識」を生み、事件を誘発してはいないか。
(c)オスプレイ配備と辺野古移設に関して政府は、いかなる意味でも地元の合意を得ていない。その上、2米兵による暴行事件や民家への未明の侵入事件が起きているのである。沖縄では「歩く凶器に飛ぶ凶器」という言葉さえ使われるようになった。
(d)沖縄県民の生命・財産、人権が日常的に脅かされている現実を放置して安全保障を語ることは許されない。
(6)客観的に見て、日本政府は、沖縄県民を2級市民と見なしている。日本の陸地面積のわずか0.6%を占めるに過ぎない沖縄県に在日米軍基地の74%が所在している。これは構造的差別そのものだ。このような差別政策が米兵による犯罪を含む加重負担を沖縄県民にもたらしている。
【注1】同日、第三次野田佳彦改造内閣発足。
【注2】記事「野田政権、米軍に口挟めず 沖縄に「アメ」ちらつかせる」(朝日新聞デジタル記事2012年10月2日03時00分)
【注3】「【沖縄】米兵犯罪を「事故」扱いする大臣発言 ~本土マスコミの退廃~」
【注4】社説「防衛相「事故」発言 人権感覚を欠く妄言」(琉球新報 2012年10月22日)
【注5】社説「米兵住居侵入傷害]やりたい放題を許すな」(沖縄タイムス 2012年11月3日 10時21分)
以上、佐藤優「オスプレイ強行配備撤回の是非問う県民投票の重要性 ~佐藤優の飛耳長目 第77回~」(「週刊金曜日」2012年10月12日号)および佐藤優「米兵の集団強かん事件機に主権回復に向かう沖縄 ~佐藤優の飛耳長目 第78回~」(「週刊金曜日」2012年11月9日号)に拠る。
【参考】
「【沖縄】に対する構造的差別 ~オスプレイ問題~」
「【沖縄】の青い空は誰のものか ~オスプレイ問題~」
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