円の外へ

20070121開設/中学高校国語授業指導案/中学校学級経営案/発達症対応/生活指導/行事委員会指導

中学国語指導案・まさに圧巻と言われた授業・いろはうた1

2013-02-14 00:26:04 | 中高国語など指導案
カテゴリー別目次 
中学国語指導案・まさに圧巻と言われた授業・いろはうた1
2013-02-13reup
作成日2011年7月12日
「じゃあ、最後にF男先生に聞いてもらおう。みんなうしろ向いて。さんはい」
23人の中学一年生はうしろを向くと、なぜか次々に立ち上がり始めた。
誰も立てとは言っていない。
そして、体を45度くらいF男先生に傾けて(そんなはずはない)、一斉に言い始めた。
「色はにおえど 散りぬるを……」
終わると僕は言った。
「丸つけコンビに拍手してあげなさい」
ニコニコして隣に拍手すると満足して生徒は席に着いた。

今日は夏休み前、最後の授業だった。
クソ暑いし、僕自身が相当疲れていたので流すことにしていた。
中三も高二も予定通り流して七校時の中一を待った。
すると、中二担任の国語科F男先生が来て、
「今日の中一の授業を見せてください」
と言った。
十年目で若々しく、キャパシティにあふれ、大人気のイケメンだ。
僕は五十になるおじさんで、才能はなく、魚のような顔をしているらしい。
正反対だ。
あんな顔に生まれたかった。……まあ、それはいい。
「いや、あのいいんですけど、今日は物語を読んで終わるつもりで……
 でも、その、なんとかします。どうぞ」
「はい」

僕は勝手に言い訳をして考え始めた。
何をしよう。
一年生の教科書をめくると「いろはうた」があった。

七校時。
熟字訓フラッシュすべて、高校二年用指なぞりプリント、教科書その他を持って教室へ行った。
チャイムと同時に授業が始まるのをF男先生は知っていたのか、挨拶が終わると後ろに立っていた。
生徒が訊く。
「なんで、F先生がいるの?」
僕は予定通り答える。
「僕がいつも、一年生はすごいって自慢しているのを盗み聞きしたらしいよ」
今の一年クラスはこういう見学者に燃えるのだ。
熟字訓フラッシュをいつもの1秒・2枚のスピードで。
高校二年用指なぞりプリントを配っていつものように五問だけテストまで。
「満点の人」
と聞くとほぼ全員手を挙げる。
そういえば丸つけのとき一人が、
「赤ペンを忘れたので貸してください」
と言った。
使い古しを削る時間がなくて、新品の削り置きの赤えんぴつを僕は持っていた。
「今日のは、削りたて。新品の頭が良くなる赤えんぴつだよ」
すると、
「僕も忘れたことにして貸してください」
「わたしも使いたいです」

五人、六人と生徒は借りた。
かわいい。いや、たまらなくかわいい。

さて、本題に入る。
「いろはうたって知ってる?」
「知ってる知ってる!」
「じゃあ、言ってみようか。さんはい」

イロハニホヘト……
それで終わった。
一人の男子だけが半分くらい粘った。
「今日は、全員が最後まで言えるようにしましょう」

教科書のひらがなだけの「いろはうた」を追い読み。
漢字仮名交じりの「色は匂えど散りぬるを」を追い読み。
現代語訳を追い読み。
そのあと、漢字仮名交じりを変化のある繰り返しで、15回ほど音読。
板書を教師と同じ早さで視写。
板書を消しながらの暗誦、5回。
これでほぼ全員が暗記した。
「これから一人ずつ言ってもらいます。
見ないで言える人は見ないで。読む人は読んでいいです」

そのあと、さらに4回練習。
端から一人ずつ立たせて言わせる。
「うまいっ。拍手」
「素晴らしいっ。拍手」
「上手っ。拍手」

F男先生はうしろで一緒に拍手していた。
さすがだ。
23人のうち7人が時々ノートを見たり読んだりした。
残りの16人は堂々と暗誦した。

「じゃあ、最後にF男先生に聞いてもらおう。みんなうしろ向いて。さんはい」
F男先生に、大声の暗誦を言い終える。
努力を讃えて、丸つけコンビに拍手させ合ったあと、こう言った。
「F男先生に感想聞いてみようか。きっと褒めてくれるよ」
F男先生はとてもしゃべりがおもしろいと有名なので、ちょっと期待した。
でも、なぜかF男先生はものすごく真面目にまるで研究授業の助言者のようなことを言った。
「素晴らしいやる気のある授業でした。これからも頑張ってください」
そんな言葉だった。
生徒は全員、体ごとうしろを向いて聞いていた。

生徒全員が立ち上がって、F男先生に暗誦したのに笑ってしまったのは帰宅してからだった。
それまで、それが特別なことなのに、気がつかなかった。
自分がどうやって家まで帰ってきたか、少し覚えていない。
それくらい何度も何度も授業を思い返した。
僕自身が少しぼぉっとするくらい勢いがある授業だった。
本当のところ、F男先生は何を見、どう感じたのだろう。

45分の授業の最初、生徒は誰一人「いろはうた」を言うことができなかった。
45分後、全員が漢字仮名交じりの発音で読んだり暗誦したりした。
生徒自身が何人も感想に書いた。
「最初全然言えなかったのに、最後言えるようになった」

野口芳宏先生が30年間変わらず言い続けてきたのは、
「授業は、生徒の向上的変容を促す行為である」
ということだ。しかも、
「ひとコマの授業の中で、向上的変容を実現しなければならない」
出張授業のDVDの授業、実際の小学生相手のライブの授業、どれも同じように、
「この時間が終わったら、できるようにしよう」
と野口先生は言う。

今日、僕が思いついて目指したのはそういうことだった。
ただ、僕にできるのは「いろはうた」を全員に読んだり暗誦したりできるようにさせる。
それだけだった。

2013-02-13追記:
生涯最高の授業をひとコマ選べ、と言われたら、この授業を選ぶと思う。
指名なし討論より、もの凄い授業だった。
僕は宗教的なことを言うのは好きではないが「神がかった授業」だった。
僕と生徒全員が、30センチくらい宙に浮きながら、一緒に登って行った。
そして、45分前とは違う人間になった。
そんな授業だった。
参観して頂いたお陰だ。

中学国語指導案・まさに圧巻と言われた授業・いろはうた2
■生徒感想■ ■参観F男先生感想■

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 中学国語指導案・まさに圧巻... | トップ | 高校国語指導案・実習生のこ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

中高国語など指導案」カテゴリの最新記事