東京、銀座に近い築地には、日本が誇る大市場、東京中央卸売市場がある。
中でも魚介を扱う、いわゆる魚河岸は、今や観光スポットとして良く知られている。
この目と鼻の先に、築地本願寺という寺院がある。
これがなかなか風変わりな寺院である。
まず、インドか東南アジアの寺院を思わせる外観に驚かされる。
そして、建物のそこかしこに、動物のレリーフが施されているのが、楽しい。
その上、なぜかパイプオルガンまである。
行って損のない寺である。
さて、歴史の授業で、法隆寺の柱はギリシャ神殿のエンタシスに由来する、という説を習ったことはないだろうか。
実は、学術的に何も証明されていない説なのだが、一般に流布している。
この説を唱えたのは、伊東忠太という、とても偉い建築の先生だ。
この伊東忠太こそ、築地本願寺の設計者である。
この伊東忠太と関わりの深い建物が、京都にもたくさんある。
その第一は、何といっても、平安神宮である。
共同設計ではあるが、平安京の朝堂院を縮小して、これを復元したものである。
第二に、西本願寺の伝道院。
モスクを思わせる円形ドームを頂く、赤レンガ造りの建物は、とても仏教寺院の付属施設とは思えない。
築地本願寺に先んじて建てられていて、西本願寺の直轄寺院である築地本願寺の設計も、この縁で話があったのではないだろうか。
伊東忠太は動物のレリーフを好んでおり、伝道院にも、様々なレリーフが施されている。
といっても、伝道院の動物は、実在の動物ではなく、架空の動物であるが。
そして、第三に、祇園閣。
その名は高いとは言い難いが、しかし、京都へ来る観光客の、その多くが、実は目にしている建物である。
東山連山の麓、四条通の突き当たる辺りにある。
そう、そこは京都の観光名所、八坂神社のあるところ。
西楼門を表と見れば、その裏に出ると、そこは円山公園。
その円山公園を南に出たところに、それはある。
円山公園で、不意にそちらのほうへ顔を上げると、目に入る、祇園祭の鉾を模した、コンクリートの建物。
いや、それは建物なのか、モニュメントなのかと、見ただけでは悩む。
しかし、これは立派な建物で、中にも入れる。
大雲院という寺院の伽藍の一部。
ところが実は、大雲院は、後からここへやってきたというのだから、話は複雑だ。
もともとは大倉喜八郎という大財閥の創始者の別邸が、ここにあり、祇園閣も、その中の建物だったのである。
つまり、元は私物。
エラいものを造ったものである。
やがて時を経て、大雲院が移ってきて、その建物も譲り受けたというわけである。
普段は非公開であるが、夏の特別公開で、見ることが出来る。
なかなか稀有な建物で、伊東忠太らしさの詰まった祇園閣を、見ていってはいかがだろうか。
”あいらんど”