北海道新聞2023年12月22日 14:00(12月22日 15:26更新)
北海道新聞報道センターは「ポッドキャスト」で音声番組「ニュースの時間」(毎週火曜、10~20分)を7月から配信しています。道新デジタルでよく読まれた記事を書いた記者が、取材の裏側やニュースの背景などを紹介しています。住宅街などへの出没が相次ぐヒグマやプロ野球北海道日本ハムの本拠地移転など幅広いテーマを取り上げ、リクエストや記者へのエールも寄せられています。2024年もより広く、より深く、北海道で話題のニュースをお届けします。これまで25回の配信で取り上げたニュースで今年の番組を振り返ります。最も聞いて頂いたテーマは何だったでしょうか。(藤田夏子)
北海道新聞はポッドキャストで「ニュースの時間」のほか、「北の食☆トレンド」を金曜に配信しています。いずれの番組も、北海新聞デジタルの特集ページのほか、スポティファイやアップルポッドキャストなどのアプリからお聞きください
札幌などの市街地で出没が相次いだヒグマについては読者の関心も高く、道新デジタルではヒグマ関連の記事がよく読まれています。番組でも、都市近郊に暮らす「アーバン・ベア」など複数回、ヒグマを取り上げました。「アーバン・ベア」について取り上げた回はよく聞かれ、再生回数は2番目に多くなりました。今年は大型ガのクスサン、雪虫の大発生についても道内で話題となり、背景にある気象現象などについて考えました。
★2番目に多く聞かれました★
■クマ担記者が追う「アーバン・ベア」 岩崎志帆記者=7月4日配信
札幌などの市街地でヒグマの出没が相次いでいます。札幌市は市街地周辺に10頭以上生息していると推定しています。
こうした都市近郊に暮らす「アーバン・ベア」は人身事故につながる可能性が高いです。昨年3月には三角山で冬眠穴を調査していたNPO法人職員2人がクマに襲われ、重軽傷を負いました。
ヒグマ対策を担当するクマ担記者として、出没情報があると、クマ鈴と撃退スプレーを手に現場に向かうこともあります。
人とクマの生息域が急速に近づき、クマが人を恐れにくくなる中、市街地からクマの生息地をどうやって離せばいいか。市街地への侵入を防ぐため、ヒグマが身を潜められるやぶを刈り、見通しをよくするなどの対策はありますが、有効な手段は見つかっていません。市街地で、ヒグマの出没による負傷者を出したくないという思いで取材を続けています。
■「キャー」響く悲鳴 札幌でクスサン大発生 若林彩記者=9月19日配信
大型のガの一種「クスサン」が札幌市内で大量に発生していると8月下旬に報道しました。市営地下鉄琴似駅(西区)をカメラマンと取材すると「キャー」などと悲鳴も上がっていました。
先日、空知管内新十津川町の音楽フェスに行った際、木村カエラさんの演奏中にクスサンが飛び回っていました。木村さんはガの大きさに驚いていました。
昨年は、空知管内や旭川市内などで多く発生しました。道内のクスサンの発生状況を調査している岩手大農学部の松木佐和子講師によると、クスサンの発生地域は前年より東側に移っていく傾向が見られます。明確な理由は不明ですが、風などが影響している可能性もあるそうです。
クスサンの羽化のピークは8月下旬~9月上旬で成虫の寿命は1週間~10日程度。クスサンの大発生は来年以降も数年程度、続く恐れがあります。クスサンは樹木に産み付けられた卵で越冬するため、有効なのは来春、ふ化する前に卵を除去することです。
プロ野球北海道日本ハムの本拠地が、札幌市豊平区の札幌ドームから北広島市の新球場「エスコンフィールド北海道」に移転。新球場関連の記事は北海道新聞デジタルでも多く読まれました。番組では新球場への道民の期待感、球団移転後の札幌ドームの減収対策について考えました。今年の番組で最も聞かれたのは、この札幌ドームの減収対策を取り上げた8月22日配信分でした。
■エスコンフィールドで感じたファンの愛 光嶋るい記者=10月10日配信
プロ野球北海道日本ハムの本拠地最終戦が9月28日、北広島市のエスコンフィールド北海道で行われました。今季入場者は188万人超とリーグ3位でした。
最終戦に合わせて、来場者に新球場の評価を取材しました。4人の記者で手分けして計約40人に意見を聞きました。「グラウンドとの距離が近い」と語る人が多くいました。「食べ物の種類が豊富でおいしい」との声もよく聞きました。新球場の側もファンの声を取り入れて、飲食店の混雑分散に向けて工夫しています。
一方で「駐車場を増やしてほしい」などアクセス面に関する不満もありました。JR北海道の新駅整備への高い期待も感じました。「道民目線を忘れないで」との注文もありました。熱い声に、それだけファイターズが好きで、もっといいチーム、もっといい球場になればいいと思っているのだと感じました。
★最も多く聞かれました★
■新モードって何? 札幌ドーム増収策苦戦 大矢太作記者=8月22、29日配信
札幌ドームが、プロ野球北海道日本ハムの北広島への本拠地移転による減収対策の柱として、2万人以下の中規模コンサート用に今春導入した「新モード」の利用が1件も決まっていないと6月に報道したところ、驚くほど多くの反応がありました。
新モードはドーム内を暗幕で仕切り、コンサート規模を半分以下にするもので、総事業費は約10億円ですが、利用することが「ドームを埋められないアーティスト」とみられ、主催者が敬遠しているという声があります。
新たな収入源の確保に向け、札幌ドームの価値を再び高めることが重要です。
7月下旬、ラグビー日本代表とサモア代表によるテストマッチがドームで行われた際、サモア代表のセイララ・マプスア監督も「エアコンが効いて涼しく、素晴らしい。サモアに札幌ドームを持って帰りたい」と絶賛していました。
夏の猛暑時や冬の大雪時でも快適に使える全天候型多目的施設の強みを生かし、利用者のニーズとしっかり向き合って新たな需要を掘り起こしてほしいです。
(9月10日、ラグビー・ワールドカップ観戦会で新モードが初めて使用された)
終戦記念日の8月15日には、戦争を語り継ぐことをテーマに取り上げました。胆振東部地震から5年の節目を迎える前日の9月5日には、大規模災害への備えについて考えました
■戦争体験 記者と一緒にたどって 井上雄一記者=8月15日配信
7月から「記者がたどる戦争」と題した連載を随時掲載しています。記者の家族など身近な人の体験を通じ、あの戦争は何だったのかを考えるのが狙いです。
記事は「(記者が)国会図書館に行って調べた」「戦時中のことを知っている祖母に話を聞くために東京に向かった」など、記者の一人称で書いています。記者の動きを伝えることで、読む人も記者と一緒に探っている、たどっている感覚を持ってもらうためです。「昔の話」と思われないようにしたかったのです。
私はフィリピンで戦死した祖父について書きました。祖父は現役を含め4回出征し、最後の出征は私の叔母が生まれた11日後でした。赤ん坊を残して戦地に向かう心情を思うと胸が詰まります。戦地からの手紙(軍事郵便)を読み、祖父の心の動きをたどるとともに、なぜ4回も戦地に行かされたのか、という点について調べました。
記事に登場するのは市井の人が大半です。その人たちの人生を大きく揺さぶるのが戦争です。この連載が戦争について考えるきっかけになればと思います。
■胆振東部地震5年 大切な冬の備え 木村啓太記者=9月5日配信
北海道で初めて震度7を観測し、44人が犠牲となった胆振東部地震から9月6日で5年。地震直後に全域停電(ブラックアウト)が発生しました。
大切なのは冬場の災害への備えです。紋別市では昨年12月23~25日、市内全域が2度にわたり停電しました。生後1カ月と7歳の2人の子供のお母さんに取材し「停電初日は自宅のガスコンロで沸かしたお湯を飲んで寒さをしのいだ」と聞きました。2日目の朝は最低気温が0度と平年より7度高かったのですが、寒さに耐えきれず避難所に向かったそうです。
ただ、北海道新聞が道内179市町村に行ったアンケートでは、停電時に避難所で使う暖房器具を「全避難所分備蓄している」と回答した自治体は全体の4割にとどまりました。暖房対策を行政に頼ってばかりではいられないのです。
吹雪で避難所に行くことが困難な場合は、家庭での備えは重要になります。ポータブルストーブがあれば暖を取れますし、防寒着や上履きによる保温、カイロなどを使った加温のほか、温かい飲み物で体の中から温めることも効果的です。
札幌市円山動物園でアジアゾウの赤ちゃんが誕生したニュースは大きな話題となり、動物園には赤ちゃんの姿を見るために多くの市民が訪れました。動物園の取材を担当している記者が、誕生の意義や裏話を紹介しました。
■国内初の快挙 アジアゾウの赤ちゃん 麻植文佳記者=9月26日配信
札幌市円山動物園のアジアゾウのパールが8月19日夜に雌の赤ちゃん1頭を出産しました。道内でゾウの出産が成功するのは初めて。ゾウのストレス軽減などのため、飼育員が柵越しに世話をする「準間接飼育」でアジアゾウが出産したのは国内で初の快挙です。
アジアゾウの花子が2007年に死んだ後、ゾウを円山に呼びたいという市民運動もあって、18年にミャンマーからパールなど4頭のゾウが来ました。市民の関心はもともと高かった上、「10年で繁殖できたらいい」と言われていた中で5年で繁殖がかないました。
9月15日の一般公開後、多くの来園者が赤ちゃんを見に動物園を訪れています。
パールは日ごとに母親らしくなっています。最初は緊張のためか立って寝ていましたが、リラックスするようになりました。
赤ちゃんは9月19日時点で体重191キロ。パールの乳を飲んで1日2キロ太っています。それでも母親の大きさになるまでには10年かかります。動物園にじっくり通い、観察するのも楽しいでしょう。
札幌の中心部に集う若者らの迷惑行為を取材した記者は、若者たちに思いを聞くことで見えてきた孤独感について報告しました。
■なぜ 札幌・広場に集う若者の胸の内 三島今日子記者=7月18日配信
札幌市営地下鉄大通駅コンコースの広場で、若者らの集団飲酒などの迷惑行為が相次いで、4月には男がなたを持って暴れて逮捕される事件がありました。
なんで若者は広場に集まるのか知りたくて多くの若者に声をかけました。親に暴力を振るわれる、虐待、学校でのいじめ…。学校や家庭に居場所がなく、孤独感を抱えている人が多いことを知りました。
子供だけで解決できない問題で、迷惑行為だけをとらえて報道するのは違うのではないか。周囲の大人こそ向き合っていくべき問題だと感じました。
若者の声を取材、報道したことで、若者を支援する動きも始まりました。春以降、若者たちは集まる場所を大通駅の広場から大通公園、ススキノなどに変えています。
広場で知り合った若者たちと今も連絡を取り、お茶をしながら、最近の様子などを聞いています。若者たちについて、もっと深い記事を書いていきたいと考えています。
アイヌ民族に関する取材を担当してきた記者は、カナダの先住民族観光の取材成果も交えて共生社会の実現について考えました。11月には、鈴木直道知事が2期目半年を迎えたことを受け、道政をテーマに取り上げました。
■杉田氏の人権侵犯認定 金子文太郎記者=10月3日配信
自民党の杉田水脈衆院議員がブログなどでアイヌ民族を侮辱的に表現した問題で、札幌法務局が「人権侵犯の事実があった」と認定し、杉田議員側に人権尊重への理解を求める「啓発」を行いました(番組配信後に大阪法務局が同様の認定をしたことが判明)。
政府が2019年に制定したアイヌ施策推進法(アイヌ新法)はアイヌ民族を先住民族と位置づけた上で、アイヌ民族との共生社会が実現することを目的に掲げ、差別や権利侵害を禁じています。でもまだそれが浸透していないと感じます。
今夏、カナダで「先住民族ツーリズム」を取材した際もそう感じました。現地では先住民族が営む観光事業者が増えています。「観光業を始めると多くの先住民族が伝統を学び直す。雇用が生まれて若者が地域に定着し、文化伝承が可能になる」。現地の先住民族観光協会の会長から聞いた言葉が印象に残っています。

カナダ西海岸の島ハイダ・グアイの国立公園の集落跡に並べられた貝殻。先住民族のハイダ族以外は貝殻を越えることを禁じられている=6月
■知事、踏み込んだ発言せず「安全運転」 金子俊介記者=11月7日配信
鈴木直道知事は2019年に当時全国最年少知事として就任し、2期目半年を迎えました。現在42歳。北海道の魅力をPRするアピール力は健在です。インスタグラムでは愛犬や自宅での様子を積極的に発信しています。
知事を巡っては若さや高い人気を理由に、衆院議員などへの国政転出論がくすぶっています。
知事は歯切れのいいイメージがある一方、記者会見や道議会では、政治的主張や賛否の分かれる政策について踏み込んだ発言をせずに安全運転の姿勢です。10月の道議会予算特別委員会では、宿泊税を巡り、与党の自民党道議が、知事の答弁が曖昧だとして6回も同じ質問をし、知事を追い込む場面がありました。
政治家としての踏み込んだ発言があるかという点では少し物足りなく感じています。
<このほか取り上げたテーマや配信内容>
■「上げ馬神事」(三重)に疑問の声 加藤祐輔記者=7月11日
■「石狩灯台お兄さん」なぜ人気 今関茉莉記者=7月25日配信
■「ワーホリ」に見る若者の心理 青山千裕記者=8月2日配信
■新人記者が語る新聞社を選んだ理由 青山千裕記者=8月8日配信
■南西沖地震 悲しみ今も 木村啓太記者=9月12日配信
■出会いも「タイパ」の時代 若林彩記者=10月17日配信
■札幌の女子大生嘱託殺人事件 山中龍之助記者=10月24日配信
■札幌・かつての「キングムー」解体 佐々木遼記者=10月31日配信
■ヒグマ 保護から管理の時代へ 内山岳志記者=11月14日配信
■雪虫大発生から考える気候変動 藤田夏子記者=11月21日配信
■人手不足に苦しむ介護現場のリアル 津田祐慈記者=11月28日配信
■漂着物は「海からの手紙」 石狩の浜調査 伊藤駿記者=12月5日配信
■奨学金の返済 会社がやります 長谷川史子記者=12月12日配信
■コンサ小野伸二選手引退 後藤真記者=12月19日配信
■担当記者が今年を振り返る=12月26日配信
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/956128/