北海道新聞2025年1月7日 21:36(1月7日 22:05更新)
「アイヌプリ」について語る福永壮志監督(小川正成撮影)
【白糠】町内を舞台に、白糠アイヌ協会会長の天内重樹さん(39)らが日常の中でアイヌ文化を継承する姿を追ったドキュメンタリー映画「アイヌプリ」。米ゴールデングローブ賞のテレビ部門作品賞などに輝いたテレビドラマ「SHOGUN 将軍」の制作にも携わった福永壮志監督(42)が、撮影と編集に5年がかりで現代のアイヌ民族を等身大で描いた。福永監督に作品に込めた思いなどを聞いた。
映画は、アイヌ民族を描くことを目的に手がけた作品ではありません。シゲさん(天内さん)の人間性にひかれ、家族や仲間との日常を追った結果、生活の根底にあるアイヌ民族の精神に気づかされました。タイトル「アイヌプリ」は、アイヌ語で「アイヌ式」という意味です。
2018年、阿寒でシゲさんと出会いました。映画に、先端にかぎ針がついたマレク(もり)でサケを捕らえるアイヌ民族の伝統漁「マレク漁」を、シゲさんらが実践する場面があります。その姿が、作品を撮るきっかけでした。
シゲさんは、一時継承者が絶えたマレク漁を白糠で復活させていて、漁を見学に行きました。シゲさんらが日没後の暗闇の中、もりを手に実に楽しそうに川に入り、サケを一撃で仕留めていました。感銘しました。
私は伊達市出身ですが、アイヌ民族についてほとんど知らずに育ちました。道内で一般の人がアイヌ文化に触れるには観光地や博物館が中心で、伝承のために鍛錬した人たちが民族舞踊や歌を披露しています。
一方で、シゲさんらは町内の長老から習ったマレク漁を「楽しいからやっている」と笑い、誰に見せることなく実践しています。「好き」であることが活動の原動力となり、民族文化の継承につながっていました。みんな、普通の現代人です。
映画で、シゲさんがマレク漁を息子に教える場面があります。仕留めたサケを前に息子が「ごめんね」とつぶやくと、シゲさんは「ごめんねじゃない、ありがとうだ」と教えます。動植物を神とあがめ感謝しながら食するのはアイヌ民族の精神ですが、現代の食育にもつながります。
シゲさんは、シカ猟を仕事にしており、映画はシカを解体する場面もあります。残酷と思う人もいるでしょうが、命の重み、食の重みを伝えるために入れました。・・・・・
※「マレク」の「ク」、「アイヌモシリ」の「リ」は小さい字。