北海道新聞 09/20 05:00
博物館の基本展示室には「私たちの歴史」という展示コーナーがあり、アイヌ民族の歴史を解説しています。
今回は、17世紀以降に道内でも確認できる天然痘流行について紹介します。
天然痘とは天然痘ウイルスによる感染症で、患者の唾液の飛沫(ひまつ)や発疹のうみなどに触れることで感染します。1980年(昭和55年)に世界保健機関(WHO)が天然痘撲滅宣言をしており、既に自然界からは根絶しています。
国内の流行の古い記録ですが、730年代、九州での流行の記録は天然痘である可能性が高いと言われています。道内では17世紀以降に天然痘流行と思われる文献記録を見いだすことができます。
冒頭に紹介した展示コーナーでは、19世紀前半のアイヌの人たちの人口減少の原因の一つとして、天然痘などの流行があげられることを紹介しています。
当時の道内における流行の様子はどのようなものだったのでしょうか。
流行の経過について記録が残っている1845年(弘化2年)、現在の新ひだか町で起きた天然痘流行の事例のうち、旧三石町内での様子を紹介します。
その記録とは「東蝦夷地シツナイミツイシ蝦夷人之内疱瘡煩候者有之候付見廻出役被仰付罷越鷲木村ヨリシャマニ迄場所々取調候一件日記」という古文書です。筆者は不明ですが、内容から松前藩の役人によるものと考えられます。
記録によると、45年5月中旬、三石川下流付近に住んでいた女性がひどい熱を発しました。5日後には同じ地域の男性が発熱し、吹き出物が出ていたので、現在の様似町から往診してもらったところ、天然痘と診断されました。患者は付き添いがつけられ、服薬治療になりました。付近に住む患者以外の人々は居住地域ごとに避難小屋へ行きました。三石川下流付近の人々は同川の河口から10キロほど上流へ、鳧舞(けりまい)川下流付近の人々は同川の河口から12キロほど上流へ避難しました。結局、三石川沿いの地域で感染者が11人発生し、このうち8人が亡くなり、7月初めには流行は収まりました。
ここで注目すべきは流行時の川の上流への避難だと思います。現代風にいえば、人と人との接触機会の低減をはかっていたと言えそうです。【文・写真 永野正宏=国立アイヌ民族博物館(文化庁調査官)】
◇
新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が延長されたことを受け、国立アイヌ民族博物館を含む「ウポポイ(民族共生象徴空間)」は30日まで臨時休業中です。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/590963
博物館の基本展示室には「私たちの歴史」という展示コーナーがあり、アイヌ民族の歴史を解説しています。
今回は、17世紀以降に道内でも確認できる天然痘流行について紹介します。
天然痘とは天然痘ウイルスによる感染症で、患者の唾液の飛沫(ひまつ)や発疹のうみなどに触れることで感染します。1980年(昭和55年)に世界保健機関(WHO)が天然痘撲滅宣言をしており、既に自然界からは根絶しています。
国内の流行の古い記録ですが、730年代、九州での流行の記録は天然痘である可能性が高いと言われています。道内では17世紀以降に天然痘流行と思われる文献記録を見いだすことができます。
冒頭に紹介した展示コーナーでは、19世紀前半のアイヌの人たちの人口減少の原因の一つとして、天然痘などの流行があげられることを紹介しています。
当時の道内における流行の様子はどのようなものだったのでしょうか。
流行の経過について記録が残っている1845年(弘化2年)、現在の新ひだか町で起きた天然痘流行の事例のうち、旧三石町内での様子を紹介します。
その記録とは「東蝦夷地シツナイミツイシ蝦夷人之内疱瘡煩候者有之候付見廻出役被仰付罷越鷲木村ヨリシャマニ迄場所々取調候一件日記」という古文書です。筆者は不明ですが、内容から松前藩の役人によるものと考えられます。
記録によると、45年5月中旬、三石川下流付近に住んでいた女性がひどい熱を発しました。5日後には同じ地域の男性が発熱し、吹き出物が出ていたので、現在の様似町から往診してもらったところ、天然痘と診断されました。患者は付き添いがつけられ、服薬治療になりました。付近に住む患者以外の人々は居住地域ごとに避難小屋へ行きました。三石川下流付近の人々は同川の河口から10キロほど上流へ、鳧舞(けりまい)川下流付近の人々は同川の河口から12キロほど上流へ避難しました。結局、三石川沿いの地域で感染者が11人発生し、このうち8人が亡くなり、7月初めには流行は収まりました。
ここで注目すべきは流行時の川の上流への避難だと思います。現代風にいえば、人と人との接触機会の低減をはかっていたと言えそうです。【文・写真 永野正宏=国立アイヌ民族博物館(文化庁調査官)】
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新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が延長されたことを受け、国立アイヌ民族博物館を含む「ウポポイ(民族共生象徴空間)」は30日まで臨時休業中です。
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